わからん
2024-10-13 16:03:23
6326文字
Public WLDP
 

【WLDP】and friend

映画後、ロ~ガンのお墓を直しに行って遭難してやっぱり喧嘩してるウルデプ
※映画程度の暴力・流血表現、一瞬ですが(モツの)ポロリがあります




「ハァイウルヴィ! 雪だるまつくろ」
「うるせえ」
 ギャーッ!
 おそらく百デシベルには相当する騒がしさだった。頭上の木々からは鳥が一斉に飛び立ち、地上では全身を真っ赤なスーツに包んだ男が、頭のてっぺんから血を噴き出しながら雪の上をのたうち回って叫んでいる。
「痛ってえ! クソ! 雪遊びに誘っただけじゃねえかこの引きこもり野郎」
 せっかくの雪がピンク色に! ああっでもピンク色の雪だるまって意外とラブリーかも……と叫んでいるのを後目に、周囲を見回して息をついた。深く吐く息が白い。雪は音を吸収するのだったか。あいつのみっともない悲鳴を除けば静かだ、本当に。

     × × ×

 以下、経緯と回想。……らしきもの。

〇(回想)ローガンの墓・森・冬
 以前訪れたローガン=ウルヴァリンの墓を目指して歩くデッドプール(DP)と別アースのウルヴァリン(WL)。
 二人が雪の上を歩く場面。DPがスキップしながらカメラに接近、フレームを掴んで覗き込む。
DP:どうしてここまではるばる来たのかって? いくらオープニングのためとはいえ、あれはさすがに良くないと思っていたし、ローラやこっちのウルヴァリンご本人に対して立つ瀬がない。それに、死者の霊魂を冒涜したままじゃディ*ニーにも怒られる。だからケジメをつけるためにも一人で来るつもりだったのに、なぜかクズリちゃんも着いてきちゃってさあ大変。オーケイ? あらすじ分かった? デッドプール、以上!
(DPが手放しカメラは転倒。青い空が映り込む)
WL:どこ見て喋ってやがる
DP:「カチンコ」って興味深い響きだよね
WL:(ため息)

 回想おわり。

     × × ×

「死者への冒涜だ」
「単独映画かつ三作目におけるプライドの問題ってやつ? 出だしをしっかりしないと観客の心をグッと掴めなかったというか」拳を握ったあとに肩を竦める動作。「あれも一種の中年の危機かな。乗り越えたけど」
 でもこれがきっかけで色々なウルヴァリンに会えた。ウェイドは指折り数えながら言う。俺ちゃんがメッタ刺しにされたワイルドなウルヴァリン、ハルクとよろしくやってたウルヴァリン、リンゴ五個分のキュートなコミック版クズリちゃん、アイパッチ装備のセクシーなウルヴィ、ショットガンを隠し持ってやがった爺ローガン、なぜか磔にされてたウルヴァリン、挙句の果てにはカヴィルリンまで……
「カヴィルリン?」
「そ、理想的な上腕二頭筋と僧帽筋を持つウルヴァリンのこと。他のところよりも良い待遇にするって持ちかけたんだけど、本場のヒーローパンチを食らって俺ちゃん即退場よ——よし、うまくくっついた」
 言いながら奴が手の中で弄んでいるのは頭蓋骨である。接着剤でくっつけたらしい脊髄が雪の上に垂れ落ちていた。隣に落ちている骨を拾うと、奴が持つものと同じ鈍色の光を放っている。
「お目が高いねウルヴィ。そのブツで野郎どものタマとケツ穴をズタズタにしてやった」
「性根が腐りきったイカレ野郎め」
「その通り。まったく、TVAの野郎どもは最低だ」
「お前のことだ」
 ウェイドは脊髄の部分を持ち、投げ縄のように頭部を振り回しながら遠くへ歩いていく。全く反省していない。
「人間の体は二百六本の骨でできている。男の場合は興奮するともう一本。全部集められるかこれ飽きそう、飽きた。雪の上に大の字で寝転がっちゃうぜ、ワァオ!」
 子どものようなはしゃぎ声が聞こえる。どうやら本気で遊んでいるらしい。
「ねー雪だるまつくろうウルヴィ。もっと仲良くしようウルヴィ、ずーっとひとりでいると骨さんとおしゃべりしちゃう。沈んで戻れないから手貸して」
 周囲を見回すと赤い姿が見当たらない。足跡を辿ってようやく見つけた。雪で盛り上がった天辺から両腕と両足が突き出てじたばたと暴れている。狭い落とし穴に落ちたかのごとく尻から深く沈んでいたので、こちらに伸ばされた手を掴んで引きずり出してやる。奴が両足で立ったら今度はその場所が深く沈んだ。まさに落とし穴だ。百デシベルの悲鳴。これ以上は面倒だったので放置したが、自力で這い上がっているのを肩越しに確認した。

 一体どんな気分なのだろうか?
 死ぬということ、自らの生に満足するということは。
 ひとりで生き残り、絶望し続けることばかりを知っていた。
 鼓膜と網膜の裏にはまだ、自分を責める声と悲鳴、物言わぬ死骸たちの姿がこびりついている。

 日が暮れる前には引き上げたかったのか、最後の数時間は奴も口数が少なく作業に没頭していたように思う。……否、振り返ればいつも通りだったかもしれない。
 手先は器用だというウェイドの腕前は腹立たしいが確かだった。可能な限りの修復が施された骨格標本のような遺体を墓穴の中に横たえさせる。Xの十字架を刺し直し、ウェイドが地面に落ちていたショベル——なぜか柄の部分で真二つに折れている——を拾い上げた。
「飽き性だからミュージックよろしく。スポティファイの俺ちゃんオフィシャルプレイリストな」
「だからどこを見て話してやがる」
「やるべき作業をサボってこれを見ているそこのあんた」
 虚空を指差した後、鼻歌を歌いながらようやく作業を始めた。
 墓に土をかけているのを見つめている間に雪が降り出し、瞬く間に質量を増して猛吹雪になった。作業を中断すべきだと判断した頃には完全に帰り道を見失い、さまよった末に山小屋らしき建物を見つけて転がり込んだ。
 お粗末なベッドが一台と、地下貯蔵庫にいつのものか分からない酒瓶が数本。試しに一本開けてみたが案外にいける。ウェイドはベッドを占領し、何をするでもなく忙しなく転がり回っていたが、やがて「お花摘み」と称して外へ出ていった。要するに小便だろう。外は猛吹雪であるのに中々戻ってこない。酒瓶をもう一本開けた後に外へ出ると目の前でぶっ倒れており、ヒグマがはらわたを食い漁っていたので思わず呆れの声が出た。せめて今朝のような悲鳴を出してから襲われてくれればもっと早く気付けていたものを。獣を追い払ってから瀕死のウェイドを小屋の中へ連れ戻す。ベッドへ押し込んで数十分後に意識を取り戻した。
「腹がくそ痛い」と起きがけに言う。「今の俺どうなってる?」
「中身が飛び出てる」
「ゲエ。寂しいからナカに戻して」
 腹から飛び出ているそれを手に持ってみると、ゼリーのような弾力がありとても冷たかった——つまり既に死んでいたということだ。案の定ウェイドはシーツを掻きむしり、獣のような唸り声を上げてそれから再び気を失ったように黙り込んだ。外の吹雪はいよいよ勢いを増し、たてつけが悪い窓はがたがたと音を立てて震えている。どこかの隙間から風が吹き込んできて屋内であるのに寒い。シーツに包まった塊が身じろぐ気配がした。
「ハートを描こうと奮闘してたら気付くのに遅れた」
「ガキか……。俺がいなかったら今頃、奴の胃の中で再生していたかもな」
「ごめん。ローガン」
 ウェイドの声は掠れていた。「本当に悪かった」
「別に。……気にしてねえ」
「あーあ、散々だ。元はひとりで来る予定だったのに……
 ウェイドは溜息をついて身動いだ。ベッドが軋んだ音を立てる。
「そんなに俺のことが気がかりだった? ローラのところに居たほうが良かったんじゃないの」
 答えないでいるとウェイドが呻いて反対側へ寝返りを打つ。
……なあ、ナカが熱くて疼いて痛くて痛くて痛くて堪らないから一度サクッとヤってくれると」
「これ以上何か言ったら、てめえの腸からもういっぺん引きずり出してやる」
 奴は黙り込んだが眠っている訳ではなかった。酒瓶を一本投げ渡すと度数が高い、苦いと言いながらも早いペースで飲み干し、やがて静かになった。手から滑り落ちた瓶が床の上に転げ落ちて重い音を立てた。酒を飲むために鼻先までマスクを引き上げ、夜気に晒されていたウェイドの唇が悪態をつく。蚊のように小さく弱りきった声だった。彼は腿のホルスターから銃を抜き、こめかみに押し当てると躊躇いなく引き金を引いた。銃声と閃光。指から銃が転がり落ち、次いで腕が力無くシーツの上に落ちる。耳鳴りがした。風の吹き荒ぶ音に紛れて自身の名前を叫ぶいくつもの悲鳴が聞こえた。目を伏せると夥しい量の血飛沫がまっさらな雪の上に飛び散り、視界の隅で山の如く積み重なった肉と骨の塊を呆然と見上げれば、灰色に濁った虚ろな目が無数に連なりこちらを見返していた。
 最悪な夜だった。目の前には頭と腹に穴が空いて死んでいる奴、中途半端に酔っ払って幻聴と幻覚に入り浸る己のクソッタレな脳。天候はますます荒れていく。最後の一本となった酒瓶を傾けながら眺めていた死体から長い溜息が聞こえた。
「どうしたのクズリちゃん」唇が動いて囁いた。「夜泣き? ママの子守唄が必要? いけない子」
 沈黙。
「さてはアルコールが抜けておセンチな気分に浸ってやがるな。これはインスタで見かけたライフハックだが、ハグはストレスの軽減に手っ取り早いらしい」両腕を天井へ差し伸べた後、声色を変えて言う。「それともプロレスごっこでもする? 恥ずかしいから電気はつけずにこのままねハニーって痛デェーッ!」
 太腿から爪を抜いてやるとウェイドは再び悲鳴を上げた。相変わらず喧しい。マジかよクソ痛えという罵倒と共に枕で殴られたので布地を引き裂く。羽毛が散って視界を塞いだ。その隙に手から奪われた酒瓶で頭を殴られ、お返しにとシーツの上に散らばった破片を掴んで闇雲に突き立てる。下腹部を殴られた。ウェイドの頭から落ちたと思しき弾丸が床の上を転がり、暗闇の中で銃を構えた気配を感じた。銃声。閃光。撃たれた衝撃はあっても倒れるほどの傷ではない。血飛沫と肉片で真っ赤に染まったシーツが垣間見える。何発かは的を外れ、壁や天井に空いた穴から風雪が吹き込んできた。
 空になった銃を放り投げたウェイドの足首が首に絡まりついた。視界が反転しベッドの上へ叩きつけられ、変な角度で曲がった首が嫌な音を立てる。目の前が赤く染まった。なおも締め上げてくる足首を掴み、脛に向かって折り曲げる。ギャッと蛙が潰れた瞬間のような悲鳴。
「だから折るのはダメ——
 腕を振り上げ、治ったばかりであろう腹を刺す。二、三、四度目と振り下ろす瞬間に刀が胸を貫き、衝撃で動けない隙に二本目で胴体ごとベッドの上に縫い止められた。
 息を乱し、柄に手と顎をのせて見下ろしてきたウェイドは顔の下半分だけマスクから晒され、酒瓶の破片で切ったのか唇の端が深く抉れていた。弧を描いて血に濡れた前歯が見える。
「落ち着けよバッドボーイ」
 そのまま柄に全体重を乗せてきた。刃をさらに深く捻じ込まれる。痛みとともに愉快な気分が込み上げ、口元が歪に笑んでいくのを感じた。
「どけなお嬢ちゃん」
「おわっ」
 両手首を掴んで持ち上げざまに腹を蹴り上げ、壁へぶん投げた。抜いた刀をベッドの脇へ払い落とす。再び襲い掛かってきたウェイドの腹を貫いて持ち上げ、ベッドへ串刺しにした。
「このクソフォーク!」
 ウェイドの唇が苦痛を訴えるように歪んだが、不意に笑みを形作って舌舐めずりをした。こめかみを蹴られた上、顎に踵を叩き込まれて後方にバランスを崩す。奴はわざわざ立ち上がり、大きく弾みをつけて刀傷の上に飛び乗ってきた。
 形勢が逆転する。
 横に転がり逆転し返した。ナイフで背中と腕と首を滅多刺しにされた記憶がある。それと罵声。今すぐにでも真っ二つに折れたいと訴えるベッドの断末魔。骨折と鬱血と殴打痕と裂傷と血と肉片、隙間風と外の暴風、悲鳴と呻き声といくつかの引っ掻き傷——
 以下略。
 ウェイドの呼吸は明け方、ひっそりと吹き返した。心臓が力強い鼓動を再開し、全身を温かな血液が巡っていくにつれて、明瞭たる意識がこの世に戻ってくる。その様子を眺めている最中、再び耳鳴りがして首を振るが、ウェイドの呻き声が瞬く間にそれらを消し去った。
「勘弁してくれよ、ガン見じゃねえか。なあこれ面白い?」
……面白くはねえが」
 再生したウェイドは呻きながら上体を起こし、肘をついてこちらを向く。
「面白くはないが性的興奮を覚える? 死体性愛ネクロフィリアかよ」
……
…………え? マジで?」
「違う」
「いやいや別に隠さなくたっていいんだぜローたん。人それぞれの趣味ってあるよな、みんな違ってみんな良い。でもごめん控えめに言ってめッちゃくちゃドンッ引いた」
 ウェイドは言葉を区切り息を吸う。
……いいや今のは言いすぎた、忘れてくれ。俺は寛容だ、別にお前が俺の死体をオカズにしてたって——おい何だ、やるか? 今なら受けて立ってもいいぜ。事前に言っておくが、昨日野生のヒグマやお前と激しくヤりまくったお陰かは準備万端で」
 アギャーッ!
 鼻先に深い歯型の傷を作ったウェイドはまだ何か喚いていたが聞く気は無い。口元を拭って窓越しに外の様子を確かめる。吹雪は止み、黄金色の太陽が昇り始めていた。

「クソ、腰がイっちゃっててマジで痛えよ昨夜のローたん激しすぎ」
「黙ってやれ」
「はい」
 ウェイドは黙々と作業を続けた。ショベルで土をかけて穴を埋めていく。昨晩の積雪で開始に手間取ったものの、作業は一度始めれば瞬く間に終わった。ウェイドは大きく振りかぶったショベルを地面に突き刺し、おまたせクズリちゃん、などと猫撫で声で言う。
「デートのご感想は?」
 肩を竦めて言い返した。
「早く帰るぞ」
「あらあ、おうちデートのお誘い?」
 ウェイドは首を傾げて笑い声を上げた。「積極的い。んじゃ帰るか、俺ちゃんも朝ごはんのことで頭いっぱい」
 マスク越しに口角がきゅっと上がったのが見える。
「帰ろうぜローガン。冗談抜きにマジで腹減った。濃いやつが食いたいな。いつかのお前が酔っ払って作ってたドッグフードと消毒液のポタージュだけは絶対にナシ」
 ショベルを放り投げて肩を叩いてくる手は反対側の肩へまわり、ごつんと音を立てて側頭部同士がぶつかった。いつの間にか手に端末を持っている。
「今度はローラと一緒に来よう」
……ああ」
「今回のことでもう怒ってないと良いんだけど」
「さあな。お前次第だ」
「仰る通り——この魔法の端末をTVAから盗んでくるまでにも色々あった、それこそ映画一本作れるくらい。けど今回はカット。俺ちゃんとこいつだけの秘密」
 頭上を鳥でも飛び去ったのか束の間の影が落ちた。影は白い世界の中であまりにも黒く、過ぎ去った後も目の中に残り続ける。黒の奥で何かが蠢いていた。不意にウェイドが頬をつついてきたので、それに意識を取られて頭の中の幻影はかき消えた。
「何だ」
「インスタで学んだライフハック。ハグはストレスの軽減に効果的だってさ」
 言いながら再び頭をぶつけてくる。頰から肩のライン、そして胸元を撫でさすってきた手は即座に叩き落としたが、それ以外は面倒になって放っておいた。
 木々の隙間から差してくる日の光が眩しかった。このボタンをあーしてこーしてと奴が呟いている間に目を細めながら頭で押し返してやったのだが、首を横に倒される勢いでさらにぐいぐい押し付けてくる。安堵したような苛立たしいような諸々の感情を吟味した末にひっくるめた結果はやはり癪に障る、だったのだが仕方ない。そういう奴だ。そういう俺たちだった。