芹沢亀吉
2024-10-12 22:30:04
3324文字
Public 風刺
 

後継争い

暴虐なナルシストの楠木武が恥をかく物語の通算110話目。奈良県内のとある村の伝承は私の創作なので真に受けないように。

 奈良県内のとある村に落ち武者9人が襲来し、村人の過半数を殺戮した挙句同士討ちし全滅という血生臭い伝承がある。落ち武者達は大和国(※現在の奈良県)の戦国武将、松永久秀に仕え、彼が織田信長に滅ぼされた際逃げ延びたという。生き残った村人は落ち武者達の八つ当たりの被害者達を丁寧に葬り、落ち武者達の遺体を近くの河原に投げ捨てるも程なくして庄屋が

「祟りじゃあ!落ち武者の祟りじゃあ!」

と叫び急死したため祟りを鎮めたい一心から落ち武者達を祀る塚を築いた。人呼んで「八つ当たり村」である。

 2024年9月27日、広池ひろいけ一雄かずお内閣総理大臣の政権投げ出しに伴い与党、保守第一党の総裁選の投開票が実施され、花村はなむらいわお元防衛相が次期総裁に選出された。政界随一の軍事オタクとして名高い花村は15年以上前から総裁になる野心を持ち続け、今回の出馬は実に5度目の挑戦。次期総裁と目されていた横堤よこづつみ政美まさみ元文科相は1回目の投開票では1位を獲得するも、過半数を得た候補が無かったため実施された決選投票では惜しくも花村に敗れた。

「ウチは亡き門長かどなが先生の後継者や!総裁選前には靖国神社に行って英霊達のご加護を得たんや!そのウチが総裁選で負けるとかあり得へん!」

 憲政史上最長の政権を実現するも選挙演説中に射殺された門長四郎しろうは死後神格化され、生前の門長の覚えめでたかった横堤は己が総裁に、そして総理になるべきだと信じて疑わない。もっとも在りし日の門長は税金を原資とする官房機密費を私物化し大手報道機関の幹部達を買収等数々の汚職に手を染め、射殺されたのも霊感商法等悪徳行為を繰り返す新興宗教「聖光騎士団」を己の当選のため利用し続け教団の被害者達から恨みを買ったのが原因だが。横堤もまた門長内閣の国家公安委員長だった頃政権批判記事を書く新聞社は取り潰すと放言する等横暴さが目立ち、お世辞にも公正な政治家とは言えない。

楠木くすのきはん!アンタが頼りや!花村のボケナスにこの国の舵取り役が相応しいのはウチやってことを判らせたる!」

「御意!この楠木、楠木正成公の末裔として、亡き三島由紀夫先生の遺志を継ぐ者として必ずや今回の決起を成功させ、横堤内閣の樹立に粉骨砕身する所存です!」

 何と横堤は楠木たけし一等陸佐と結託し力ずくで政権を奪う腹積もりだ。この楠木は国粋主義、軍国主義を信奉し、三島由紀夫が結成した極右政治結社「楯の会」を密かに再興した身。楠木が率いる「楯の会」には自衛官が多数入会し、会員達は決起する日を今か今かと待ち望む。そして極端な男尊女卑思考の持ち主故楠木は横堤に忠誠など誓っておらず、さっさと首都東京を占拠し彼女を射殺して主導権を奪うことに決起の主眼を置く。

 ところが決起は大失敗。「楯の会」の会員数人がSNS上に決起の内情を詳しく投稿したのが祟り楠木らが決起に踏み切る直前に「楯の会」の拠点が陸自の精鋭部隊に急襲され、首都東京占拠どころか首都圏に攻め込むことも出来ないまま惨敗した。

 僅かな部下達と共に「八つ当たり村」に逃れた横堤、楠木が落ち武者達を祀る塚のすぐそばにて醜く罵り合う。場所が「八つ当たり村」だけに2人共互いに相手を罵り八つ当たりしているのは火を見るよりも明らか。

「楠木はん!何で総理になる筈のウチが国賊扱いされてこんなクソ田舎に逃げなあかんの!?全部あんたのせいや!責任取れ!このタワシヒゲ!」

「たっ、タワシヒゲだと!?この厚化粧婆ぁ!軍人精神を注入してやる!」

 自慢の口髭を侮辱され逆上した楠木が精神注入棒を振り上げたその時、2人の八つ当たりもとい喧嘩を阻むかのように音響閃光弾が投下された。

「楠木武!横堤政美!この村は完全に包囲されている!直ちに投降せよ!」

 要するに横堤、楠木らは「八つ当たり村」を占拠するも奈良県警の銃器対策部隊(銃対)に村ごと包囲され最早逃げ場が無いということ。

 結局横堤共々投降を余儀なくされた楠木ではあるもののいきなり服も下着も脱ぎ捨て、

「祟りじゃあ!「八つ当たり村」の祟りじゃあ!」

などと叫び、その叫び声に驚いた銃対隊員から素早く精神注入棒を奪い闇雲に振り回す。

「楠木武を取り押さえろ!」

 実のところ今の楠木には何の怨念も憑いていない。ただ刑事処分を逃れたい一心から精神異常を装っているだけだ。

「往生際が悪いぞ、楠木武!そんな見え見えの芝居をしてまで刑事処分を逃れたいか!?貴様はただ恥をかいているだけだ!」

「ナンマイダホーレンソー!アーメンソーメントンコツラーメン!」

 取り押さえられてもなお滅茶苦茶な呪文を唱え精神異常を装い続ける楠木、この全裸男は本当に往生際が悪い。

 すると既に両手に手錠を嵌められている横堤が金切り声を上げ始めた。

「横堤政美!その芝居は楠木武がやって恥をかいたばかりだ!人の真似しか出来んなら観念しグワッ!」

 瞬く間に手錠を引きちぎり傍にいた銃対隊員の喉を噛みちぎる横堤は白眼を剥き、歯はホホジロザメの如くギザギザ、どうやら楠木と違い本当に落ち武者達の怨念に憑かれた模様。

「ギャーッ!」

 次々と銃対隊員を惨殺していく怪物横堤に怯え全裸姿のまま逃げ出す楠木、鬼気迫る展開の筈なのに何処か間抜けさが漂う。

「はぁ、はぁ、はぁ、こ、ここまで逃げれば。」

 そう呟く楠木の目の前に怪物横堤が現れた。

「楠木はん、見つけたでぇ!あんた身体ブヨンブヨンやから美味そうやわぁ!」

 確かに運動不足並びに缶コーヒーの飲み過ぎが祟り楠木の体型はブヨンブヨンの肥満体、ただこのくだりを読まれている方が楠木の身体を食べたくなることはまず無いか。

「ま、待て!この楠木は不味、グワーッ!」

 決起を成功させた暁には主導権を奪うため射殺する腹積もりだった横堤に文字通り喰い殺され、この楠木の末路には自業自得という四字熟語がよく似合う。もっとも怪物横堤が捕食し終えた途端に嘔吐して息絶えたあたり楠木の裸体は相当不味かった模様。

 官邸では楠木、横堤の事実上の共倒れを知り花村がほくそ笑む。

「俺の政権を脅かす不届き者共が仲良く消えてくれて気分爽快だよ。さあ衆議院を解散して一気に改憲議席を確保だ。」

 花村が組閣して早々に衆院解散という暴挙に出たのは、陸自の精鋭部隊が「楯の会」の拠点を急襲した際民間人数人が巻き添えになった事実が明るみに出る前に改憲を成し遂げ自衛隊を国軍化したいから。要するに自衛隊を今以上に聖域化し民間人を何人巻き添えにしようと完全に隠蔽出来る体制を確立する腹積もりだ。

「花村はん!そうは問屋が卸さへんでぇ!」

「き、貴様は横堤!」

 落ち武者達の怨念と同化した横堤の亡霊が花村の目の前に現れ、総理になったばかりの世襲政治屋の息の根をあっという間に止めた。

 冥府では閻魔大王が亡者の魂を捕食する妖怪、火車かしゃに頭を下げている。

「すまんな、火車よ。毎度毎度面倒な亡者の始末をさせてばかりで。」

「閻魔サン、吾輩に謝ることなど無い。今回はいつもの楠木武に加え怨念集合体と化した横堤政美の魂も味わうことが出来た。どちらの魂も汚れに満ちていて実に美味だよ。」

 汚れた魂を好んで喰らう火車にとって楠木、横堤の魂はまさしくご馳走。数々の平行世界から冥府に来た亡者楠木が皆揃って腐れ外道故地獄が楠木だらけになるのを防ぐ観点から楠木の魂を捕食するのを許可して以来閻魔は火車を深く信頼し、火車もまた閻魔が許可した亡者以外は決して捕食しない。今回火車がわざわざ現世に出向き怨念集合体と化した横堤を捕食したのもこれ以上彼女の被害に遭う者を増やしてはならないという閻魔の判断に基づく。

 程なくして花村の魂が冥府に到着し、閻魔が判決を下す。

「シオニスト共と結託し核武装と平和憲法破棄を企てる貴様は横堤政美、楠木武よりも罪深い。陸自の精鋭部隊が民間人を犠牲にした件を隠蔽したのも卑劣の極み。花村巌、直ちに地獄に行け!」(終)