shirajira
2024-10-12 20:46:32
6440文字
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座のシャクニ「よかったじゃん(笑)」

2024.10.12 ビマヨダワンドロより。お題「サイコロ」で、戦闘中にシャクニ叔父のサイコロ片手に考え事するヨダナの話。スターに対する捏造設定があります。

 手の中でカロリ、と二つのサイコロがぶつかり合って、軽やかな音を立てる。さて、とドゥリーヨダナはサイコロを弄ぶ。
 ドゥリーヨダナ。可愛い甥っ子よ。お前、英霊になるんだって? 一人でだろ、心配だなあ。えっ? 弟たちを無理矢理内包していく? そうは言ってもね……そうだ、私の代わりにこれを持っていくといい。きっと役に立つよ。
 叔父のシャクニから預かったサイコロは、サイコロ自体は何の変哲もないものだ。後の世ではシャクニのサイコロはクル一族の手によって非業の死を遂げた身内のもの――なんて逸話もあるらしいが、ドゥリーヨダナに言わせれば噴飯物である。
 母方の祖父も、シャクニ以外の叔父も、そんな悲惨な目には合っていない。シャクニは復讐のために姉の嫁ぎ先に滞在していたわけでも、ドゥリーヨダナと仲良くしていたわけでもない。
 単にそういう人なのである。甥っ子を見に来て姉に代わって面倒を見ているうちに帰り時を失い、一度帰って妻子を持っても結局こちらの方が居心地がいいからと、ドゥリーヨダナの側にいた。長男ではなかったからだろう、気楽なものだった。
 紛うことなき変わり者だった。糸の切れた凧のようで、何にも執着しない。だから賭け事が強かった。
 母国では白い目で見られていた変わり者。けれど才のあった叔父。その叔父のサイコロ自体は本来特別なところは何もないサイコロだ。だが、それがシャクニのサイコロというだけで、 魔術的な力を持つ。
 力があったのはサイコロではなく叔父だ。しかしそんなことは他者にはわからない。シャクニのサイコロには何か秘密があるに違いない。だからあんなに賭け事が強いのだ。そう思う人間がたくさんいるから、根も葉もない血生臭い逸話まで作られる。
 シャクニのサイコロはツキを呼ぶ。取り出してカロカロと軽く振るうだけで、運が向いてくる。キラキラと星の形を取った運が、視界にぼんやり透けて見えた。大気中に散らばった、魔力の塊が、集まってくる。
 さて。ドゥリーヨダナは手のひらの上でサイコロを転がす。
 戦闘中である。目の前には巨大なマハーナーガと、何匹かのワイバーン。こちらはドゥリーヨダナ含め三騎のサーヴァントとマスターが、戦闘を行っている。
 一人はマスターのファースト・サーヴァントであるデミ・サーヴァントの、マシュ・キリエライトだ。盾の少女は小柄な体躯に見合わぬ大きな盾を振り回し、ワイバーンの頭蓋を叩き潰している。
 そしてもう一人が、ビーマだ。その辺から引っこ抜いた巨木を雑にぶん投げて、ワイバーンを一度に何匹か地面へと叩き落とした。落とされたワイバーンを、マスターが喚んだカルデアに所属するサーヴァントの影が屠っていく。
 さて。ドゥリーヨダナは考える。この寄ってきたツキ、キラキラ輝く星々を、一体誰に集めようか。
 小さなツキは集まってこそ大きな流れとなって、力を発揮する。ツキを呼ぶだけでは足りない。
 ドゥリーヨダナには、自分の味方と定めた者にツキを集めるスキルがあった。凶兆の申し子。嫌なスキル名だ。一言どころか二言も三言も申し上げたい。何が凶兆だジャッカルが鳴いただけだろ。犬が嫌いなのか?
 動物園だったら子供たちは大喜び間違いなし。むしろ瑞兆だろ瑞兆。子供の笑顔ほど尊いものはないと、アタランテとかいうギリシャの猫耳女も言ってたぞ。
 マハーナーガが咆哮を上げ、尾を矢のような勢いで向けてきた。避ける。カロカロ。手の中でぶつかりあったサイコロが音を立てる。
 ドゥリーヨダナにもわかっている。星々を集めるべきは、ビーマだ。
 マシュの武器は盾だ。あの硬い鱗を打ち砕き、心の臓を貫くには向いてない。ドゥリーヨダナ自身に集めてもいいが――もう少し何か後押しがないと、厳しかった。
 見栄を張り、勝利を逃すことが許されるような時ではない。ちらりとマスターを見ると、マスターもこちらを見ていた。
「ドゥリーヨダナ」
 名を呼ばれる。マスターにはわかっているだろう、ドゥリーヨダナが誰かに星を集めようとしているのが。今まで何度もそうしてきたから。今回もそうすることを、ドゥリーヨダナがこの硬直状態を打開することを、マスターは望んでいる。
 でもなあ。ビーマか。ドゥリーヨダナは眉を寄せる。
 戦闘中、ドゥリーヨダナがサイコロを取り出す度に、ビーマの気配が険しくなるのを、ドゥリーヨダナは感じていた。今もバシバシ、こっちに向けられた圧を感じている。
 ドゥリーヨダナにとっては人生最高と言っても過言ではない勝利の記憶と結びついたサイコロだが、ビーマにとっては真逆だろう。
 気を遣ってやるようなことではない。だが、揉めても面倒、というかせっかく星を集めてやって嫌な顔をされたら普通に腹が立つ。
 だからドゥリーヨダナは、今までビーマに星を集めてやったことがない。
『愚かなことだ』
 突然聞こえた友の声に、ドゥリーヨダナはハッと顔を上げた。しかし友の姿はない。今回のレイシフトにて、カルナは同行サーヴァントに選ばれなかった。
 ということはつまり……わし様の頭の中のカルナ!?
『ドゥリーヨダナ。いつも勝利に貪欲なお前が、そのように惑うとは。ビーマはお前にとって、格別に意識せざるを得ない存在のようだな』
 いやそんなことないぞ、(わし様の中の)カルナよ。ビーマのことなんて全然、意識してないし! 向こうがわし様の一挙一動を意識してるんだぞ!
『ならばいつもの通り、お前のその悪名高いスキルを使えばいい』
 うーむ、それはそうなのだが……
『でもよぉ、ビーマのやつを旦那が強化するってぇのは、ちと抵抗がねえか?』
 おお、(わし様の中の)アシュヴァッターマン!
『だいたい何ちんたらしてるんだよビーマのやつはよぉ。とっとと敵を倒しちまえよ』
 いいぞもっと言え(わし様の中の)アシュヴァッターマン!
『そのビーマが手こずってるからこそ、ドゥリーヨダナが力を貸してやる必要があるのだろう』
……確かにそうだ。旦那、早いとこスキル使っちまえよ。だらだら戦ったって疲れるだけだしよ』
 アシュヴァッターマン! 折れるのが早すぎるぞ! もうちょっとこう……粘れ! もっとビーマの悪口とか言え!
「ドゥリーヨダナ」
 もう一度、マスターに名前を呼ばれる。ドゥリーヨダナにだって、わかっていた。
 ビーマに星を集める。それしかない。その後で嫌な顔をされようが何か言われようが、それが正しい選択だ。
 別に、正しいから選択するんじゃない。マスターのためだからだ。だから、最優のサーヴァントとして、するべき選択をするのだ。
 そう自分に言い聞かせて、ドゥリーヨダナは手の中のサイコロを振る。ビーマの方を見るのは癪だから、マハーナーガに向かって宣言する。
「お前は負ける!」
 そうだ、その事実さえあれば、何も手を下すのが自分である必要なんてない。むしろビーマを利用してやるのだ。
 星がビーマに集まる。マスターが右手を掲げた。
「ビーマ!」
「空までぶっ飛びなぁ!」
 ドゥリーヨダナの集めた星、そしてマスターの令呪の後押しを受けたビーマが、マハーナーガへと拳を振るう。そして。
 マハーナーガがどろりと溶けた。
 そういう風にしか、ドゥリーヨダナの目には見えなかった。ビーマの拳を一度食らっただけでマハーナーガの鱗は割れ、骨が砕けた。悲痛な叫びを上げる暇もなく、第二、第三の拳が振り下ろされる。
 大きな口から何度も血が吹き出した。集められたツキにより何度もクリティカルヒットを叩き出すビーマの拳が、無慈悲にマハーナーガの全身を砕く。
「あわわ、マハーナーガがあっという間にミンチに……! さすがですビーマさん!」
 マシュは感銘を受けていたが、普通にドン引きものの光景だった。えっ星集めてマスターの令呪の後押しがあったとは言え、キャスター連中のサポートもないのにこの火力が出るの? は? 今までのいかにもな苦戦は一体?
 ずるすぎだろ~~~っ!! ていうかもしかしてわし様が星を集めてやる必要もなかったんじゃ?
 ぐずぐずのミンチになったマハーナーガの前で、仁王立ちしたビーマが返り血まみれの拳を慣れた仕草で振り、血を払った。身震いし、頭から被った血を振るい飛ばす。格好よすぎる。ずるい。マスターの視線もマシュの視線も釘付けだ。
「ビーマ、お疲れ様! ドゥリーヨダナもありがとう!」
 マスターの言葉に、ビーマが「おう!」とにかりと笑って答えた。その視線がマスターからドゥリーヨダナの方に向けられたので、咄嗟にドゥリーヨダナは目を逸らした。どうせ何か、面白くないことでも言われるに決まってる。
 わし様のお陰だぞ。そう思う気持ちもあったが、わからなかった。マスターの令呪だけで充分だったのかもしれない。ドゥリーヨダナの葛藤は無駄なことだったのかも。
 あーマジでムカツクな……。これではビーマの引き立て役になっただけではないか。
 ぼんやりと、マハーナーガの血を吸った地面を眺める。マスターとマシュがカルデアへの通信を始めた。管制室のダ・ヴィンチ曰く、恐らくマハーナーガの体内に聖杯があるらしい。
 つまり、これからあのミンチの中を探らないといけない。
「なら、俺とこいつで探すから、マスターとマシュは休んでな。疲れただろ?」
「は!? わし様も疲れとるが!? お前一人でやれ!」
 ぼんやりしていたら、何故かボランティアに巻き込まれそうになっていた。慌てて抗議するが、「マスターとマシュは帰還の準備をしておいてくれ」とガン無視な挙げ句、肩を掴まれ巨大なミンチへと引きずられていく。
「手を離せこの怪力クソゴリラ! わし様正真正銘の王子よ!? 死体漁りなんてやりたくぬぁーい!」
「うるせえ、俺だって王子だぞ。だいたいお前は戦士でもあるだろうが」
「あの、私もお手伝いを……! ドゥリーヨダナさんはマスターの警護をお願いします!」
 慌てた様子で駆け寄ってくるマシュに、致し方なくドゥリーヨダナは手を振った。
「あーよいよい。マスターにはお前がついておれ。わし様はこいつの現場監督をやるから」
 申し訳なさそうな顔をしたマシュに「ほら、早くマスターのところに戻らんと、どこから何が沸いてくるかわからんぞ」と付け加えれば、後ろ髪を引かれる様子でありながらも、マスターのところに戻っていく。
「はあ……で? 検討はつくのか?」
 一応なんとなく元の形はギリ保っていると言えなくもない、そんなマハーナーガの死体を前に尋ねれば、「こういうのは頭部か心臓、それか腹の中だろ」と返ってきた。
「絞れてるようで絞れてないではないか。頭部はともかく、どこに心臓と胃があるんだこれ」
 ぶつぶつと文句を言いながらドゥリーヨダナが棍棒で適当にミンチをつついていると、「なあ」とビーマが声を掛けてきた。先程までとは違った声音に、ドゥリーヨダナは思わず顔を上げる。
 なんかもじもじしたビーマがいた。えっ?
 目を擦る。やっぱりもじもじしてるように見える。どうした、何かの呪いか? 通りすがりの料理人にミンチにされた悲しきマハーナーガの呪い?
「あの、さっきのやつなんだが……
「え? ああ、星のことか? あー、もうやるなと言うなら」
「またやってほしい。やってくれ」
 食いぎみに言われた。
「すげえ、気持ちよかった……
 顔を赤らめながら言うな。なんか如何わしい雰囲気になるだろ。ていうか何か目が潤んでないか? 鼻息も荒い気がする。まだ興奮してるのかこいつ。
 ふと、ビーマの股間に目をやる。戦闘が終わったのにまだ鎧状態である。いつもならとっとと野生児の姿に戻っているのに。なんか戻れない理由でもあるのか? あとやたら窮屈そうというかギチギチしてるように見えるのは気のせい?
 ……いやいやいや、まさかな。
「いや、でもわし様、このシャクニ叔父のサイコロの力がないとな、星を集められんしな。お前、わし様がこれ出すの嫌なんだろ? 戦闘中にいっつも不機嫌そうな空気、出しとるではないか」
 暗に断ろうとすると、ビーマは怪訝な顔をし、だがすぐに「ああ」と何かに合点がいったような顔をした。
「確かにそのサイコロには思うところあるが、戦闘中に目くじら立てるほどじゃねえよ。……俺が不機嫌そうに見えたとしたら、それはちと気を張ってたからだ」
「は?」
 またビーマがもじもじしはじめた。本当にやめてほしい。可愛げを見せてくるな。こっちは長兄特性持ちなので弟特性とか妹特性にちょっとWEAKしがちなのだ。
 お前いつもマスターの前で兄貴分ぶってただろ! 思い出せ! お前はわし様ほどではないが兄でもあるだろ! 弟成分を出すな!
「だってお前、他のやつには星集めるくせに、俺には全然してくれねえじゃねえか。今回こそ、って気ぃ張っちまうし、それで他のやつにいったら気落ちもするだろ」
 唇を尖らせるな~~!! 格好いいだけでは飽きたらず可愛いまで得ようというのか!? は? 暴力マシーンのくせに欲張りすぎでは?
「そんな一喜一憂するほど星が欲しかったのか? そりゃあ星を拳に乗せて相手をボッコボコにするのは気分爽快だが……
「それもあるが、やっぱ好きなやつに強化かけてもらって、それでいいとこ見せたいだろ……あ」
 やべ。口が滑った。そんな顔で、ビーマがぽかんと口を開けたままこちらを見てきた。いやぽかんとしたいのはこっちだが?
 え? 何? お前、わし様のこと好きなの? 
 えっ?
 動揺のあまり手元がぶれる。コツン、と棍棒が何か硬いものにぶつかった。
「お? おお、あった、聖杯だ!」
 血で汚れるのも気にせず、ミンチの中に腕を突っ込み聖杯を取り出す。
「マスター! 聖杯だ! 早く帰ろうそうしよう!」
 全てを有耶無耶にすべくドゥリーヨダナは叫んだが、離れたところにいるマスターから返ってきたのは「ごめーん」の声だった。
「なんか観測データにおかしなところがあるとかで、あと一時間くらい待ってだってー! ちょっと向こうの湖か何かでその聖杯洗ってきてくれるー?」
「わかったぜ、マスター!」
 ドゥリーヨダナが何か言うより先に、ビーマがそう答えた。がしり、と肩を掴まれる。なんかデジャヴ。
「おい離せ!」
「うるせえ、こうなっちまったら腹をくくるしかねえ。仕切り直しさせろ」
「勝手に覚悟を決めるな!?」
 慌ててサイコロを取り出す。助けてくれシャクニ叔父。
 しかし先ほど星を寄せ集めたばかりである。ツキを呼び込むシャクニのサイコロは、今は充電中とばかりに沈黙を貫いていた。そりゃあそうだ。そもそもこれは、賭けですらない。
 こんな時に本人がいてくれたら……いや駄目だ、あの人は享楽主義なところがあったから、多分よかったじゃんとか言って終わりだ。
 呻いている間にも、ビーマにずるずると引きずられていく。
「お前好きだろ、湖の前で告白とかそういうロマンチックなやつ」
「勝手にわし様の趣味を決めつけるな! 少なくとも鎧で告白はないわ!」
 言い返すと、ビーマが少し考える素振りで第二霊基の姿になった。式典に出ても恥ずかしくない、白衣に身を包んだ姿は、及第点と言えば及第点であった、が。
 ドゥリーヨダナはビーマの股間を確認した。そして暴れた。
「おいこら暴れるな!」
「イヤだーっ! 絶対告白だけでは済まんだろ! 頷いたら最後、AすっとばしてCまでいくやつだろ!」
「頷いてくれるつもりはあるってことか?」
 ドゥリーヨダナは沈黙した。握ったままのサイコロが小さくカロリと音を立てたが、もう十分ドゥリーヨダナのためのツキは寄せ集めたと言わんばかりに、それ以上のことはなかった。