ぽふむん
2024-10-12 19:42:05
1905文字
Public ワンドロ
 

極楽の白姫

#童しの版深夜の真剣物書き60分一本勝負
「突風」「劣等感」をお借りしました。
鬼化if?です
童磨不在時に好奇心からシーシャを吸ったしのぶちゃん。
昏睡して明晰夢を見ます。

令和の今でも珍しいシーシャを、あの時代に嗜んでいた童磨の設定。
割と重要な情報だと思って捏ねてみました。

後半童磨に発見されお膝の上でねんねしてます。
陰鬱になるのは、童磨の奥深くにしまい込んだ記憶にダイブしたからです


ここはどこなんだろう
どこか異国のようだ。

砂埃が風に舞う。
強い日差しから身を守る為だろう。道を行く男は頭髪を覆い、女は全身を布で覆って居る。

顔は目しか出ていない
そんな中、しのぶの出で立ちは奇異なものであろう。
だが、誰もそんなことを気にかけている様子は無い。


───これは夢……ですね───

そう、夢だ。
現実の自分は何をしていた。

水煙草シーシャというものを、持ち主に内緒で興味本位で吸っていて………
気づいたら寝ていたのだろう。
そのようなことを咎める男では無いから、それはどうでもいい。

バニラと肉桂シナモン、珈琲の香りのする煙草の葉をいぶし、その煙を特別な器具で水にくぐらせ吸う。

その煙は重かった
冷たくて、肺が凍るよう
そう、あいつの血気術のような吸い心地だった。

夢心地というのだろうか。
ニコチンというより、香りを吸う煙草の感覚は奇妙なもの。
一刻から二刻ほどかけてゆっくり吸う煙草。

何故こんなものを好むのか不思議だった。
だが、よく喋る男のくせに、この話になると要領を得ない。
何故好きなのか分からない。でも心安らいで好き。
趣味なんてそんなものなんだろう。
そう思う反面

───暇………だからでしょう?───
しのぶはそう思う。
酒と煙草なんて、無趣味な人間の常套句だから。


本人がどれほど志願しても、鬼舞辻は………父と 母と、神と崇めた男は、童磨にあまり仕事を与えない。


暇だから、その無限の時間をこんなことに費やすのだろう。

珈琲と、バニラと肉桂の香りが漂う。
道行く人は皆知らない人ばかり。
だが

皆笑顔。
眩しい笑顔

その時、一陣の強い風が吹いた
一人の女の顔を覆う布が風に奪われ………

顕になった顔は

青がやや強い、虹のような瞳。
鼻筋の通った亜麻色の髪の美女。

童磨をそのまま女にしたような美女。
日本人では無い。

異国の美女が微笑んでいる。

「あの子を………よろしく」

美女が口を開いた。

そうだ

器具の重さ、持ち運びの不自由さ故だろうか?水煙管は日本には入ってこなかった。
異国の風習。

もしかして

記憶には無い、自分のルーツ。
言葉すら話せぬ赤子の時の記憶かもしれない。
おそらく童磨の生物学上の両親と、育ての両親は別人だ。

遠い昔、胡国と呼ばれた国があった。
細胞レベルの記憶に問いかける作業が水煙草?


憐れ……

違う
童磨一人じゃない。

そんなことはよくある話じゃないか。
大正の御代でも、伝染病やらなんやらで子だけ生き残ることもある。
子捨ても、禁令はあれど秘密裏に行われている。

よくある話じゃないか。

この女が童磨の生物学上の母ならば……好き好んで捨てた訳ではなさそうだが。


「あなたは……何故

かわいた口を開けば、女は悲しそうに微笑み

「あの子に私の声は届きません。お願いします」
そう答えた。

異国の女が消えた。

風景が変わる。
そこは阿鼻叫喚の地獄絵図

悲鳴が聞こえる。
キリシタンへの弾劾だ。
拷問、処刑

苦しさから逃げるため絵を踏むもの。
生き残っても、生涯続く辱め。
生き地獄


ああ、あの女は隠れキリシタンへの迫害から我が子を逃がしたんだ。
逃がしたはいいが、我が子は人から感情を向けられることはなく。
担ぎ上げたくせに、体よく一揆の頭目と………我が身可愛さに売られた

頭目とみなされた者は、特に隠れキリシタンは逆さ磔で処刑と聞いたことがある。
苦しみが長びくよう、こめかみに穴を開け
三日三晩、ただ逆さまに
最期は見るも無惨な姿と聞く………

寺院が捕手に囲まれ、自分の運命を達観、諦めつつも、なんのために生まれ生きたのか自問自答していたら、目の前に現れたメシア。

だが、そのメシアも感情を向けてくれることはなく

それでも童磨は欲した。
感情を

自分のための消して向けては貰えない感情を欲した。
それは、あの男の劣等感。

誰も自分を見ていない
誰も感情を向けてくれない。
育ての両親も
生物学上の両親も

例えそれが憎悪であろうとも、自分の為に向けられた感情を欲していた。


いえなかったんじゃない。
あなたの記憶にないだけ。

届かないだけ

ずっと居たんですよ。
あなたの為に向けられた感情はすぐそこに。

「託されてしまいましたね……まぁ……仕方ないですね。厄介なクソ小僧をお預かりしますよ」



──起きな……?ちゃ…………しの……───

遠くで声が聞こえる
大地が小刻みに揺れている。