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溶けかけ。
2024-10-11 21:05:54
2105文字
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ほぼ日刊
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きみの帰る場所
社畜ヌヴィレットと小学生フリーナのほのぼの家族なお話。
ヌヴィレットには家族がいる。
とはいえ、血の繋がりはほぼない、と言っても過言ではない。
「何か用か
……
?」
ヌヴィレットがそう言えば、養女のフリーナが慌てて視線を反らした。成人男性が珈琲を飲んでいるだけの絵面の何が面白いのかと思いながらテレビのスイッチを入れて、子どもが好きそうなタイトルを探す。
「
…………
」
「
…………
」
カチカチと機械的な音をさせながらサムネイルが流れていく。丁度、休日の朝からやっている少女向けアニメを発見して決定ボタンを押した。くるくると円が回り、画面にはフリルがたっぷりと使われた服を着た魔法少女が可愛らしくデフォルメされた怪物と戦っている場面が映る。彼女もこのアニメは好んで見ていたはずだと視線を向ければ、フリーナは相も変わらずにヌヴィレットにきらきらとした視線を送っていた。彼女の目線を辿れば、ヌヴィレットの手元
――
珈琲の入ったマグカップに向けられていた。
「
……
飲むか?」
ヌヴィレットが訊けば、色違いの双眸が更に輝きを増し、フリーナが首を勢いよく上下させた。ヌヴィレットは自身が持っていたマグカップをフリーナに手渡すと彼女の様子をつぶさに観察する。
ヌヴィレットには適切な大きさだったマグカップはまだ幼いフリーナが持つには些か無骨で大きかった。彼女がマグカップを傾ければ顔の半分以上が隠れた。
「
……
無理はしないように」
子どもの好むような物ではないことは重々承知の上だ。ヌヴィレットの注意と同時にフリーナが体を跳ねさせた。
「みっ
……
!?
……
とても美味しいね
……
でも、もうお腹いっぱいだ!」
涙目になりながらヌヴィレットにマグカップを返したフリーナはソファに座るとアニメを見始めた。時折、口の中でもごもごと舌を動かしているのを見るに、彼女の口内にはまだ珈琲の苦味が居座っているのだろう。
「ふむ
……
」
ヌヴィレットはキッチンへ入るとサーバーを手に取った。ガラス製のサーバーの底には、ほんの僅かに注ぎきれなかった珈琲が残っていた。ヌヴィレットはタツノオトシゴのような生き物(フリーナはシュヴァルマラン夫人と呼んでいた)が描かれた小さな青いマグカップを取り出すと珈琲の残りを入れ、上から牛乳と砂糖を入れてかき混ぜた。最期におまけとばかりに電子調理器で温めればカフェオレの出来上がりだ。
出来上がったカフェオレを一匙掬って飲んでみれば、珈琲と牛乳の香りがふんわりと口内で広がった。甘さも甘すぎず、優しい甘さでフリーナが好むであろうことは間違いないだろう。
ヌヴィレットは自身の作ったカフェオレの出来に満足して、リビングへと戻った。テレビに夢中になっていたフリーナがヌヴィレットと持っているマグカップを見比べては頻りに首を傾げた。
「君の分だ」
ヌヴィレットは小さなマグカップをフリーナに押し付けるとソファに座り、珈琲の残っているマグカップに口を付けた。
フリーナは軽い足音を立てながらヌヴィレットの隣に座るとじっとミルキーブラウンの水面を眺めていた。
ヌヴィレットとカフェオレを交互に見ていたフリーナはやがて、意を決したようにマグカップに口を付けた。
「
……
気に入ったか?」
ヌヴィレットが問いかければフリーナが嬉しそうに笑った。
遅くなってしまった、と思いながらヌヴィレットはスマートフォンの画面を開いた。ロック画面に表示されている時刻は既に日付を超えていて溜息をつく。マンションの窓を見上げれば電気が消えていて、もう眠っているだろうな、と思いながら自宅の鍵を開けた。
「
……
フリーナ?」
しゃくりあげる声が聞こえてヌヴィレットがフリーナの名を呼んだ。もう一度「フリーナ」と呼ぶも声は返ってこない。ヌヴィレットは音を立てないように静かにリビングへと向かう。フリーナが眠っている可能性も考慮して慎重に暗いリビングの扉を開ければ小さな影がソファの端っこで自身より大きなぬいぐるみを抱いて泣いていた。
「フリーナ」
やっとのことでヌヴィレットの帰宅に気づいたフリーナはぬいぐるみを放り出すと彼の腰に抱きついた。
「すまなかった
……
連絡くらい入れるべきだったな
……
」
こくこくと頷いて腰に顔を擦り付けるフリーナにヌヴィレットの中で罪悪感が募っていく。
「ヌヴィレット
……
も
……
母様と、ひっく
……
父様、みたいに
……
帰ってこないんじゃ、っく
……
ないかって
……
」
その言葉を聞いたヌヴィレットがフリーナをきつく抱き締めた。彼女はしっかりしているから、と言い訳をして連絡の一つも入れなかった数時間前の自分を裁きたい。しっかりしているとは言え、フリーナはまだ十歳。まだまだ大人の庇護を必要とする年頃だと言うのに。留守番をしていて両親が帰らぬ人になったという心の傷があるのなら尚更、気を配ってやるべきだった。
「すまない
……
謝罪をして済む問題ではないことは分かっている。君が留守番を恐れているのを知っていたというのに」
フリーナが堰を切ったように大きな声を上げて泣き出した。ヌヴィレットはフリーナが泣きつかれて眠るまで彼女を抱き締めていた。
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