koto
2642文字
Public れめしし😈🦁
 

〘E〙ex:元カレ

10月27日一賭千金SP2024にて発行予定の新刊「カレイドスコープ」れめしし短編・掌編集より

破局後疎遠だった二人。ある日出向いた先で偶然女連れの🦁と出くわした😈がとった行動や思いなど

 事実は小説より奇なり、なんて言葉がある。実際創作よりも突飛かつドラマチックなできごとはSNSのそこかしこにも溢れている。真偽のほどは置いておくにして。

 舞台はオープンしたばかりの商業施設だった。客引きを兼ねてプロジェクションマッピングとドローンの合わせ技を効かせたショーがオープンイベントの目玉で、狙いは当たったのか施設内は多くの客で賑わっていた。企業案件の配信があり打ち合わせ目的で来ていたが、たまたまタイミングが合い、横目で垣間見たショーは派手派手しく、ストーリー構成も老若男女問わずとっつきやすい内容だった。家族連れも、カップルも、友人同士でも。薄く広く、どの層もターゲットにしたいのが透けて見えた。

 用事も済み、特に見るものもない場所に長居をする理由もない。人でごった返す中で乗り込んだエレベーターが閉まると降下を始める。独特の浮遊感が微かに生まれ、視線の先では表示された数字がどんどんと小さくなっていく。ぐっと軽く抑えつけるように働いた力を感じて数秒後、目の前のドアが左右に開いた。エレベーターの中身が空っぽになって自分の場所ができるのを、今か今かと待ち受けていた集団の中で、オレはよく見知った人物を見つけてしまった。押し黙りひしめいていた同乗者たちが、わらわらと降りる流れに乗って前方へと進み出る。

 あまりの偶然に一瞬目を疑ったが、どこからどう見てもそれは紛れもなく獅子神敬一本人だった。久々に目にする姿に思わず釘付けになりながら、足は勝手に近付いていく。当の本人はスマホの画面を注視していて気付いていなく、すぐ横にいた連れと思しき女が先に気付き声を上げた。

「ぇ、嘘、レイメイ?」

 その声を耳にした瞬間、敬一君は弾かれたように顔を上げて傍らの連れを見る。その視線が向けられている先を確認し、正面を向くまでが数秒といったところだった。目が合いオレの存在を認識すると棒立ちで呆気に取られているようにも見える。対称的に連れは小さくキャーキャーと騒いでいる。日常に突如降って湧いたオレの存在に対して、どちらも理解できる反応ではあった。オレはまっすぐ足を止めずに進んでいく。驚き小さく騒ぐ観測者らしき存在は視界に入れないまま、にっこりと敬一君にだけ向けて笑って見せた。

「ごきげんよう、敬一君」

 敬一君は、それはそれは複雑な表情を浮かべた。驚きと困惑と少しの苦々しさと。お互い存在を認識するまでは良かったようだが、オレがスルーせずに距離を詰め、こうして話しかけてきたことが気に食わなかったらしい。ワガママな男だと思う。

「ぇ、知り合い?」

 敬一君とのやり取りに、浮き足立ち割って入ってくる。

……あー、昔ちょっとな」
「え、え、お友達なんですか? スゴい! 私ファンです!」

 そう騒いではいるものの別に単推しってわけではなく、お気に入りの配信者の一人ってくらいの位置付けなのは分かっている。ミーハーで分かりやすく、逆にここまでくるとかわいく思えるのかもしれない。オレには全く共感できない感覚だけど。
 余計なことを言うなよって送られてくる視線を無視してオレはその子に伝えてやる。

「ありがとう。でも、友達じゃないんだ」
「え?」
「元カレってやつ」
「え……?」

 今にも首を絞めあげてやりたいって怒気を孕んで熱烈に注がれる視線がたまんないね。久々だけどやっぱり敬一君は魅力的だ。



 夜になって鳴った電話は予想通りの人物からで、久々に表示された名前を目にして、跳ねた自分の気持ちに少しだけ苦笑いしてしまう。

「どーしたの?」

 用もなくいたずらに時間を費やすため電話をしてきたこともあったけど、それは昔の話で今はまずそんな事は無いから、電話の理由を尋ねてやる。

「オマエほんとふざけんなよ」
「なにが? 別に何も間違ったこと言ってないだろ」

 間髪入れぬ返答に敬一君は思わず押し黙る。何も間違ってはない。少なくともオレは敬一君を好きだったし、恋人だった時期もたしかにあった。あの場では冗談だと捉えられ、そのくらい仲が良く気心の知れた関係だと都合よく解釈されていたけれども。

「で、あれは? 今の恋人? だとしたら……

 あまりに不釣合いだろう。少し会っていない間に、平々凡々とした退屈な幸せを徹底的に追い求めることにしたんだろうか。

「ちげーよ」
「ふーん、そっか。じゃあ、ちょうどいいから今度デート行こうよ」
……はあ? オマエ頭おかしいんじゃねぇの?」
 敬一君はそんな提案をするオレの感覚が信じられないらしい。
「お互い様だろ? そんなオレの提案すぐに断らなかった」

 コンマ何秒の逡巡をオレが見破れないと本気で思ったのなら、随分と舐められたものだ。

「もう気付いてんだろ? 敬一君はそんじょそこらの平凡な相手と手を取り合った幸せなんかじゃ満足出来ないって」
「だから異常者に弄ばれて人生狂わされろなんて論理破綻してんだろ」
「随分な言いようだな」
「なにがだよ」
「こっちはもうずっと狂わされてるのに」
「なっ……ハハッ! そんな口車に乗るかよ」

 ペースに乗せられて堪るかと、敬一君はオレの言葉を笑い飛ばしてみせる。

「本当酷いよなー。オレ敬一君のこと忘れた日なんて一日だってないのに」
「はいはい、嘘。そんな口から出まかせ言ってりゃ、オレを落とせるとでも思ってんのかよ。あんまり人のこと舐めてんじゃねぇぞ」

 電話口で凄んでみせる敬一君に思わず笑みが漏れる。

「さすが敬一君。まあ、それはさておきさ。久々だしお互いいろいろ積もる話もあると思うんだよね。再会を祝して、飯食うくらいならいいんじゃない? だってオトモダチなんだろ? オレたち」
……わーったよ」

 たっぷりと考えた上で、敬一君はオレの提案を了承する。少なからず警戒はしたものの、結局は好奇心に負けたようだった。

「じゃあ日程と場所決めて後で連絡するね」

 会話を終わらせると、向こうが通話を切ったのを確認してから耳を離す。細く、息を吐く。
 敬一君はまだまだ甘いな。オレのミスリードに簡単に乗っちゃうんだから。

「本当に忘れた日なんて一度もないのにね」

 もしも、そんなことが発覚すれば顔を合わせてなんてくれなさそうだった。またとない機会、掴んだチャンスを絡めとる。今度こそ離れていかないようにしっかりと。



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マシュマロ
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