【ファプリコ】ふわふわアタック

【メイドインアビス】で英雄の娘(好奇心担当リコ)と成れ果ての姫(シャアアン!!ファプタ姫)のお話。若干擽りネタ。ノリと勢いでどうぞ。

溌溂たる声音に宿りし燎原の火は臆病から程遠く、未知と脅威犇く奈落の不気味で悍ましい気配を声量だけで押し退ける。
「出立は明朝、今宵はしっかり英気を養うといいッ!」
知恵に乏しい者、力無き者、順応出来ぬ者を淘汰するのに余念がない六層に築かれし絶界第五キャンプ。その安全性は、成れ果ての村イルぶるに匹敵しなくとも外敵に襲撃される危険性は皆無に等しい。
割り振られた部屋もまた掃除が行き届き不潔さを全く感じさせない。念には念をと、レグとナナチが部屋の中を確認している間、ぽかんとした表情で天井の端を見詰め膝上で毛玉と化しているファプタをリコは優しく撫で続けた。
「(すぐ行くのかと思った)」



攻略ルートの確認、共同戦線の合意に荷造りを終えて、いつでも出立可能だと意気込んでいたリコにスラージョは大仰な動きでテパステを指差し、「リコ君たちを部屋に案内しろ」と声高らかに言いテパステもまた緩い感じで「おまかせあれ」と答えた。
柔らかな態度を崩さずにリコたちの背を纏めて押すテパステにリコとレグは困惑し、ファプタはレグの頭の上で威嚇をしては、ナナチのみ独特な目を眇めスラージョをねめつける。
「まさか”檻”ってわけじゃねえよな」
「とんでもない。急な来客に備え”一部屋”だけは掃除を欠かさずさせている」
不敵な笑みに含みある物言い。互いに手を内を全て明かすほど信頼関係を築けていないのを重々承知の上での共同戦線を洒落込んだのを思い出したナナチはフッと纏っていた空気を和らげた。
「──んなぁ。部屋が綺麗なのはいいこった」
「そうだろう!」
腕を組み胸を張るスラージョをテパステに背中をぐいぐい押され見送ったリコさん隊は用意された部屋の綺麗さに皆一様に感嘆の声を上げたのだった。



部屋の中の安全を確認したリコたちは円陣を組むように腰を下ろし顔を見合わせ秘密の作戦会議が慎ましやかに開催される。
「今後あいつらと野営するにあたっての事前訓練って考えた方が前向きだな」
「と、言うと?」
「オイラたちのメンバーから二人、無理そうなら一人交代で寝る際見張り役を立てる」
「うんうん、交代で見張った方が色々不測の事態に対処し易いもんね」
「リコ、おま(ちょいとばかしリコが勘違いしている気もするがいっか)今回は先にオイラとレグが見張り役をやる」
「任された」
「リコと姫はその後な」
「了解!」
「まぇんそす!」
風通しと見通しの良さがモットーな部屋の入り口。リコは然程遠くない距離にあるレグとナナチの背中に向かって手を振り、出会った当初よりも格段に丸みを帯びたファプタの隣に横たわる。
丹念に寝床を整え終え手足を内側に折り畳み腹臥位体勢で取るファプタの大きく愛嬌ある瞳が眼鏡を外したリコの瞳と交差する。艶々光る硝子玉の如き澄んだ瞳が瞬きをする度、リコの視界に映り込む範囲がじりじり増え、最終的にはお日様の匂いで埋め尽くされた。洗剛で洗われても尚、香るファプタ独特の匂い。
「ファフ──……
心なしか指通りがなめらかになった柔らかな白毛を撫で手で梳いた。リコが撫でる優しい手つきにファプタは目を閉じその心地よさに心身の緊張を解し、二対の腕を毛の生えていないリコの背に絡みつかせ、ぐりぐり顔を成長過程にある胸に摺り寄せる。
「もっと撫でるそす」
「わかったそす」
姫たっての希望にリコは追撃の手を止めない。頭、頬、顎の下、背中を毛並みに添って撫でまくる。その度に鋭い牙が生え揃っているファプタの口から甘く間延びした声が零れ、ふかふか筆頭であるしなやかな尾が上機嫌に揺らめきリコの剥き出しの太腿に巻き付いた。毛の密度の高い尾に撫でられるこしょばゆさ。思わず小さく笑ったリコは、小首を傾げるファプタに「なんでもないよ」と朗らかな春風のように紡ぎ乳白色と褐色の体を抱き寄せた。
「ファフ──ン」
再び目を閉じ緩やかな弧を描く姫君に年下の子をあやすように背をリズミカルに撫でればあら不思議。元から無かった隙間を無くすべくファプタが更に身を寄せ、もっと撫でてと抱きしめてとねだる。
「レグとんなの者、あんまりしてくれないそす」
ぼそり呟く不貞腐れたファプタの思い。不意に出かかった少々思い遣りに掛ける言葉を飲み込み「きっと二人とも恥ずかしいんだよ」と語り掛ければ、耳を澄ましても聞き逃してしまうような微かな声で「ハディまファプタもそす。でも、リコは別そす」と独り言ちたのをリコは知らない。
何の前触れもなく殆ど毛玉に纏わりつかれるように侵食されていたリコの体に変化か訪れた。
「(あっ、ファプタの体毛がわきの下と太ももを絶妙にくすぐってくる……!!)」
二対のうち一対の腕がリコの脇の下に潜り込み、ふくよかな尾は余すことなく細いリコの太腿に巻き付いて離れない。しかも、呼吸に合わせて毛足の長いファプタの体毛が小刻みに動きリコの弱い箇所を刺激し続ける始末。それとなく身じろいで敏感な場所からズラそうにも力の差が物を言い全く以って白く柔い枷から抜け出せない。
リコの意識が他に向けられている気配を感じ取ったファプタが不服だと云わんばかりに意図せず彼女の脇の下と内腿を心なしか強く刺激する。
「はっ!? ──……んンっ!!」
身構えていても我慢できないくすぐったさ。咄嗟に撫でていた手で喉奥から口腔内まで一気にせり上がっていた声を物理的に抑え込んだ。リコの脳内を埋め尽くす「しっかり休まないといけないのに、ここで二人とも起きてるのを知ったら今見張りしてくれている二人が寝れなくなっちゃう!」の一心からフーッ フーッと荒い息を顰め耐えていた。
だが、そんな事なぞ知る由もないファプタの不機嫌指数は上昇の一途を辿る。訝しむ眼差しは黒く細い。リコの体に巻き付いていた枷を外したものの、仰向けにさせたリコに覆い被さった。
「なぜ撫でるのやめた」
……
「なぜ両手で口を押えている」
……っ」
「こたえるのもイヤそすか」
解いていた白い枷を今一度リコに巻き付け直すファプタは目敏くリコの幼い身体が跳ねる様子を目に捉えた。
脇の下を傷付けないよう爪先でカリカリッと引っ掻くと面白いくらい両手で押さえた口元からくぐもった唸り声と荒い鼻息が漏れ、息苦しさか我慢しているからか顔を真っ赤にさせた。
リコが脇に力を込めたところでリコより力や腕の本数が多いファプタの方が有利なのは変わらず形勢逆転する事は無かった。二の腕を抑えつけられ情け容赦無く脇の下を引っ掻く爪先にリコの視界が滲む。
「んーぅ、ンんっっっ」
「まだ言わんそすか」
冷え切った眼で射抜き、不意にリコがもじもじと太腿を擦り合わせる振動に気付いたファプタは尾をリコの足に巻き付け、尾の先端で剥き出しの足裏を撫でた。
「ん゛ン゛ン゛っっっ!!!!んーんゥゥゥ!!!!!」
こそばゆいどころじゃない。足の皺に添って尻尾の先端がなぞる感覚にリコの頬袋は外に出そびれた笑い声でパンパンに膨らんでいる。足を滅茶苦茶に暴れさせ足裏をくすぐる尾から逃げたくとも骨が軋まない程度に加減したファプタの力には到底敵わない。リコはただただ逃げられないくすぐったさを甘んじて受ける他無かった。
「これ、苦手そすか。やめて欲しければ手を退かすそす」
ファプタの熱を奪う氷の声は、リコの火照った熱を奪い去ってやくれない。肺から空気が逃げるばかりで碌に吸い込めず、自ら口元を両手で押さえている所為で新鮮な空気も吸えない。意識が遠のくにつれ頬を伝う湿った感触がぼやけ出した頃、リコの鼓膜を見失った親を探す迷子のような不安で堪らない声が震わす。

「ファプタのこと、嫌いになったそすか?」

大きな瞳から溢れ出す大粒の涙が雨となって火照った頬に落ちてくる。
いつの間にか腕を押さえ脇の下をくすぐっていた手が離れとめどなく涙を流す目元をぐしぐし擦っていた。
幼子のように泣いているファプタにリコは頑なに口元を押さえていた手を退かした。籠っていた息を吐きだし大きく吸い新鮮な空気を肺に溜める。まだ脳と身体が酸素が足りぬと訴えかけるのを落ち着かせ、微かに痙攣している手を伸ばしまろい褐色の頬に添って包み込む。
そして、ファプタの視線が落ちてくるのに合わせリコは息も絶え絶えに微笑んだ。
「嫌いになんてならないよ。ちょっと、くすぐったかっただけ
……ファアン」
不安にさせてごめん。謝罪するリコにファプタは自身の頬を彼女の頬に摺り寄せる。涙と涙が混ざり合い、幼いリコの手が慈しみに溢れた動きで背中を撫でる感触にファプタが小さく鳴いた。何度も何度も不安を拭い去る手付きが齎す安心感。
「ふふっ、くすぐったい」
「嫌そす?」
「ううん。これは全然平気」
リコの目尻に残る涙を啜り涙跡を舐めて消す行為を再開するファプタ。一対の腕で頭を抱え込み、もう一対の腕で両肩を掴み、細い腰を太腿で挟み込んで所なさげに揺らしていた尾たちはリコの許可が下りた途端、加減して剥き出しの足に絡みついた。
……寝ちゃった?」
力が抜けた身体は往々にして重みを増すというが、ファプタ自体軽いため脱力した身体はリコでもそこそこ耐えられた。耳元で聞こえる穏やかな寝息。温かくて肌触り抜群、でもちょっとだけ内臓を圧迫する重さをリコは愛おしげに抱きしめ彼女も重さを増した瞼を閉じた。



「随分と気持ちよさそうだ(リコがふわふわに飲み込まれてる)」
「んなぁ。もちっとだけ寝かしてやるか」
リコとファプタが互いにくっ付き抱き合う微笑ましい寝姿を見たレグとナナチは顔を見合わせまた部屋の入り口に戻っていったのだった。