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ぶんどき
2024-10-09 19:14:18
2261文字
Public
依頼
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怪盗のラプソディ
レプリカントの葬列 現行未通過❌
Skebリクエストありがとうございました!
「どうして、みんな僕を置いていなくなるの」
「もう、置いていかれるのは嫌だ
……
っ」
そう顔をくしゃりと歪め、子どもみたいに泣きじゃくっていた皙の顔が忘れられない。不完全な自分は神が退散するのと共にとけて消える定めであることは薄々わかっていた。
ぽろぽろと彼の瞳から真珠のような涙がこぼれ床を濡らした。そんな彼を抱き寄せ、あやすように優しく声をかける。いつも冷静で大人びている君らしくない。君が君らしくないから、こういうときは俺がちゃんとしないと。腕を伸ばし、その頬を伝う涙を拭う。拭ったはずなのに彼の頬には極彩色の絵の具がどろりと付着する。あ、逆に汚しちゃったなぁ。
視界がぼやけてくる。
右の義眼はもう上手く働いていない。
最後まで、その姿を目に焼き付けておきたいのに。
本当は、俺だって置いていきたくないのに。
こんな大粒の涙を流す君を一人にできるわけなんてないのに。
「
……
愛してるよ、皙」
──ああでも、ごめんね、そろそろ限界だ。
*
あれから皙は一週間ほど飲まず食わずでキャンバスに向かい絵を描き続けた。そうして、『黒曜』を完成させたのだ。久しぶりに会ったような気がする皙はそれは酷い有様で。髪はぼさぼさ、その疲れ切った顔は隈と絵の具だらけ、会話もそこそこに安心したのか眠ってしまった。
皙が目を覚ましてから事情を聞いた。「本当にお疲れ様、ありがとう」そう言うと皙は「
……
別に」と素っ気なく答えた。それから俺は皙の家に転がり込むことにした。少しでも多く彼の側にいたかったから。白猫のリィにも「これからよろしくね」と挨拶をすると興味があるのかないのか「にゃあ」と鳴いた。
都会の喧噪から外れた静かな山間にこの家は建っている。アトリエを兼ね備えており、そこで皙はいつも絵を描いているのだ。今は贋作だけでなくオリジナルの作品も描いているようだ。自然の中でのびのびと好きなように筆を走らせるのが彼の性に合っているのだろう。俺は真剣な顔でキャンバスに向かっている皙を眺めるのが好きだった。
しかし、最近少し困ったことがある。こうして側にいられるだけで良かったはずなのに、どうにもヒトというものは欲深い生き物らしい。それが叶うと次はまた別の欲がわいて出てくるのだ。もっと近くにいたい、自分だけを見て欲しい、触れたい、結果的にそんな欲に苛まれながら日々を過ごしている。
街で当てもなく買い物をしていた時、とある雑貨屋が目に入り誘われるように入店した。どうやら天然石を用いたアクセサリーや雑貨を取り扱っているらしい。アンティーク調の店内を物色していると一つのアクセサリーが目についた。それを手に取り、彼の顔を思い浮かべる。──似合うだろうなぁ。
よしこれに決めた、とそのままレジへと持って行った。
家に帰るとちょうど皙は休憩中だったのかソファでお茶を飲みながらくつろいでいた。
「皙、ただいま」
「
……
ん、おかえりなさい」
「今日は皙にお土産があるんだ~」
「僕にですか?」
「似合うと思って」
贈り物用にラッピングされた小さな包みを取り出し皙へと渡す。
「開けていいですか
……
?」
「もちろん」
皙が包みを開ける。中に入っていた黒いチョーカーを手に取った。中央には小さな真珠が一つあしらわれている。「チョーカー?」と皙は不思議そうに首を傾げる。それもそうだ、彼が普段よく着ている服装は首元が隠れており、チョーカーをつけたとしても外からではよくわからない。
「ね、これ皙につけてみてもいい?」
「え、まぁ、いいですけど
……
?」
皙が首元を晒しこちらを窺ってくる。その首の後ろにそっと手を回しチョーカーをつけた。小さな真珠がやわらかい輝きを放っている。
「
……
うん、似合ってる」
不思議そうに見上げてくる皙をよそに満足して頷く。
「でもこれ、つけてても見えないんじゃ
……
」
「見えなくていいよ、皙がつけてくれてるだけで。俺だけが知っていれば十分」
雑貨屋でふと思い出した、攫われた皙を取り戻しにヘスペリデスの園に行ったときのこと。支配の証のチョーカーをつけられていた皙に、もやもやと言い知れぬ腹立たしさを覚えた。──他の人にそんなものつけられないで。俺のものなのに。
俺は皙に描かれた絵画だけれど、皙は俺に奪われたお宝だ。
何よりも大切で、何よりも価値のある、値段なんてつけられない世界一の秘宝だ。
だから、こうして他の誰にも盗られないように丁寧に首輪をつけるくらい許してほしい。なんて言ったら君はきっと呆れた顔でため息を吐くのだろう。だから口には出さないけれど。
せめて、これからも大事に大事に愛させてほしい。愛がよくわからない、と言う君に。寂しく孤独な日々を過ごしていた君に。俺がいくらでも教えてあげるから。それが俺の生まれた意義でもある。
想えば想うほど皙への愛が募ってたまらなくなる。
「
……
ねぇ皙、キスしていい?」
流れるように髪をすくうと、皙は目を見開いた。
「は? え、な、今、そういう流れでした?」
「うん、俺の中では」
「し、知りませんよそんなこと! 自由すぎませんか!?」
「え~、嫌?」
「
……
いや、ってわけでは、ない、ですけど
……
」
皙は消え入るような小さな声でこぼし、顔を背けた。
「あは、可愛い~」
ぎゅぅ、と抱き寄せれば皙は観念したように目を閉じる。そのままくちびるを重ねる。
もう誰にも渡さないよ、と誓って。
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