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いを
2024-10-08 20:41:11
1411文字
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鬼斬京
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慈雨と透徹
金沢文庫
・イロさん【1_sh1_z1_ma】
お借りしています。
耳を澄ますと、かすかに雨音が聞こえた。
大きな文字盤の時計を見る。いつの間にか朝になっていたらしく、短針は8時を指していた。
じんわりとした熱はまだ完全には引いていない。胸のあたりにくすぐったい感覚を覚える。首を動かせば胸もとに黒い塊があった。そこから伸びるのは金沢が着ていた着物。
擦り寄るように眠るイロの頭をそっと撫でる。そういえば深夜、ベッドに寝かせておいたはずだし、自分も座って寝ていた気がするのだが
――
。
規則正しい寝息が聞こえてくる。ここで起こさないように動くのは難しい。さてどうしたものかと手をうろつかせると、手の甲がなにか軽いものにあたった。それを取り上げると、からのペットボトルだった。なかに水でも入っていればよかったのだが。一応振ってみてもなんの音もしない。
すこしだけ、上体を持ち上げた。それでも起きる気配はない。手の甲で目をこすり、彼の髪の毛に口付けを落とす。
どうか気付きませんようにと、一体誰に願っているのだろう。
深く息をつく。
猫が懐に潜り込むように眠っているイロを起こさぬよう、毛布から抜け出す。
手を彷徨わせながら台所に向かい、冷蔵庫からミネラルウォーターを出した。コップに一杯そそぎながら、ふと違和感を感じた。その正体はすぐに分かり、口をつけながら後ろを振り向く。
どうやら彼は金沢が眠っているときに、一度起きたらしい。
それでもまた眠れているということはよいことだと思う。もっとも、自分のしたことが正しいとは決して言えやしないが。
コップを洗ってから、冷蔵庫からペットボトルの水を一本、取り出す。
それを持って眠り込んでいるイロの傍に近寄ると、床がギイと鳴った。この家も相当古いなと思いながら床に座る。
そろそろ起こしてもいいかもしれない。
――
が、よく見えない視界でも彼の寝顔を見続けているのもいい、とも思う。
ふと、彼の体がすこし丸くなる。そしてゆっくりと首が動いた。
「おはようございます」
ぼんやりとした黒い目が一度まばたきをする。ああ、とか、そんな声も漏れていたかもしれない。
「飲みますか? 水ですけど」
「飲む」
袖から腕がにゅっと出て、素直にペットボトルを受け取った。そのままキャップを捻って口に含み、のみこんだ。
「今日はさすがに店を開けないと。そろそろ出ますけど、イロさんは好きなだけここにいてください」
「
……
」
むす、とした沈黙だった。
「店にくるなら、お好きなように。私としては来てくださると頼もしいですけどね」
「どうしてもっていうなら行ってやる」
「じゃあ、お願いします」
笑ってみせると、彼は思いきりミネラルウォーターを煽った。酒のように。
「おい、ジジイ。シーツどうすんだよ」
「ああ、洗濯機に入れておきます。換えのシーツもありますし、大丈夫」
大丈夫、というふくみのある言葉にイロは顔をしかめた
――
気がした。
文机の上に無造作に置かれたサングラスをかける。途端に、視界がさらにぼやけて真っ暗になる。
これがいつもの視界だ。
イロの姿も黒い影に変わる。
衣ずれの音が聞こえた。着替えているのだろう。さすがに着物を羽織ったままでは寒いのかもしれない。
「あたたかいものでも食べたいですねぇ」
人間の肉にありつければの話だが。
窓の外を見ると雨は小雨になっていて、じき上がりそうな気配を感じた。
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