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カッパ巻き大車輪
2024-10-08 00:12:46
1921文字
Public
小説
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スネ6♀の小説
閣下がウダウダごちゃごちゃしながら、621ちゃんへリップグロスを贈るお話。
仕事がひと段落し、キーボードから手を離す。
モニターを見つめ続け、微かに乾きを覚える瞳に数度瞬きし、短く息をつく。
ふと、デスクに放ったままの冊子が目に入った。
特に興味を惹かれた訳でもないが、手元に引き寄せ表紙をめくる。
そこには、見慣れた自社ACパーツから、自分には縁のないファミリー向けの製品までが幅広く掲載されていた。
表示されている価格は、通常と比べれば随分と抑えられている。
というのも当然で、これはアーキバスが年に数度行っている社員向けの割引販売なのだ。
簡単に言ってしまえば、福利厚生の一環である。
毎回見たところで、これといって欲しい物が見つかる訳でもない。
しかし、手広くビジネスを展開している自社の製品開発動向に対し、あまり無関心でいるのも宜しくないと、配布されれば一通り目を通す事にしていた。
ぼんやりと眺めながら捲っていくと、あるページで手が止まった。
そこには、女性向けの化粧品が並んでいた。
美容方面の事業も、小規模ながら展開していたなと思い出す。
アーキバス社員の男女比率は、母体となる業種が兵器開発な事もあり、圧倒的に男性が多い。
それでも女性職員はいるし、こういったページも需要があるのだろう。
まじまじと見る機会もあまりないので、思わずじっくりと見ていると、そのうちの一つに目が留まった。
細身のリップグロスは、透明なケースから中の色がそのまま見えている。
淡く柔らかい赤は、ある少女を思い出させた。
コーラルの浸潤を受けた赤い瞳を柔らかく細め、淡く色付いた頬で笑いかけてくる少女。
似合う、と思う。
そもそも、こういった冊子に掲載するくらいだ。万人受けする色に違いない。
しかし、与えたところで喜ぶだろうか。
普段目にする彼女は、化粧気も飾り気もない。
それが気にならない程度には、愛らしい顔をしている。いや、それは今はどうでもいい。
化粧をする習慣のない人間に化粧品を贈るのは、嫌味と取られるかもしれない。
……
私が贈ったら、使うだろうか。
それを言ったら、何を理由に贈るというのだ。
誕生日でも記念日でもない。
「
…………
」
あれやこれやと考えてるうちに、段々と苛々してきた。
何故私がこんな物の事で、仕事でもないのにこうも頭を巡らせねばならないのか。
馬鹿馬鹿しい、と冊子をデスクに放って、再びモニターに向き直る。
「
…………
」
数度キーボードを叩いた後、結局視線は冊子に吸い寄せられてしまった。
自室に招いた少女は、目の前に差し出された物を不思議そうに見つめている。
「
……
さっさと受け取りなさい」
「もらっていいの?」
首肯代わりに更に差し出すと、レイヴンはおずおずと両手で受け取った。
「スネイル、開けていい?」
「ええ」
少女が慣れない手つきで細い紙箱を開けている間、妙に落ち着かず視線を逸らす。
「わぁ」
考えていた台詞を言おうとして、小さな感嘆の声に視線を戻すと、艶やかな赤い瞳を溢れん程に見開いたレイヴンがいた。
視線は手の中のリップグロスに釘付けだった。
角度を変えて、その煌めきに魅入っているようだ。
——
気に入らなければ、捨ててもいい。
そう言うつもりだったが、すっかり言いそびれてしまった。
「とってもきれい。これ、くれるの?」
わざわざ手渡したのだから、そうに決まっているでしょう。
いつもの自分ならそう言ってやるだろうに、小さく頷くことしかできなかった。
少女は顔を綻ばせると、感極まったかの様に抱きついてきた。
小さく唸りながら額を押し付け、受け止めるのに容易い小さな体で、精一杯喜びを伝えようとしているらしい。
散々迷った挙句、最終的に腹立ち紛れに選んだ品でここまで喜ばれるとは思わず、些か居た堪れない心持ちになる。
何と声を掛けたものかと考えているうちに、レイヴンは顔を上げると、塗ってみたいと呟いた。
大事そうに握り締める小さな手からリップグロスを受け取り、顔を上向かせる。
形の良い上唇にチップを滑らせると、少女はふるりと震えた。
「じっとしていなさい」
「だって、初めてで、くすぐったい」
誰かと交際するのは初めてだと言う彼女からまた一つ奪えた〝初めて〟に、先程までの居た堪れなさは消し飛んでしまった。
ふっくらとした下唇まで塗り終えて、仕上がりに笑みが浮かぶ。よく似合っている。
己の見立ては間違っていなかったと上機嫌でいると、同様に機嫌良く顔を近づけてきたレイヴンはふと動きを止め、唇ではなく頬を擦り寄せてきた。
「?、何をしているんです?」
「ちゅうしたら落ちちゃうから、ほっぺ」
「
…………
」
そこまでは考えていなかった。
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