Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
yn
2024-10-07 22:19:11
2052文字
Public
movie100
Clear cache
005:知らなすぎた男
映画タイトル100題からおかりしました。
良い仕事をする末弟
いや、そりゃあ俺だって悪い気はしねえさ。若くてボインのおネェちゃんに言い寄られて、嬉しくねえ方が嘘だわな。
でも考えてみろよ。こちとら並んで歩けば悪くて援助交際良くて親子に見えちまうようなオヤジだぜ? 年若い
……
そうだな、お前くらい? いやもっとか──いでっ他意はねえよ! お前だって三桁大台だろ!
だからつまりな? もっと若い吸血鬼ならまだしもってェことよ。
前科を数えたら真っ黒けだし、ハゲだし、何よりもお前らが一番大事だし、本気になる相手として普通に考えたらどー考えても欠陥物件だろ、俺って。そりゃオヤジさんもああいう態度になるわな?
なんつーか、人間の女ならさあ、会社員で、ローンも組めて、前科も無い、そういう「平凡な男」とくっつくのがいいに決まってるじゃねえか。そんで子供二人くらい拵えて、仕事辞めて家に入って、真昼間の学校行事とかにも行ってよォ、親父さんにたまーに顔見せに行って、夫婦で年取って、のんびり隠居生活謳歌して、テメェのガキと孫に囲まれて穏やか〜に逝くのが似合いだろ。親父さんもそれを望んでると思うがね。
あ、こーいうの今時分は言うとまずいんか? まあ言うて俺もまあまあ古い吸血鬼だからよ、その辺の価値観は勘弁してくれや。
ともかく、俺みたいなのに貴重な青春注ぎ込むのはおかしいだろってハナシがしたかったワケで
……
「あのさあ」
聞くに耐えないセリフを、手を挙げて遮る。滑らかな演説を止められたケンは不満げながらも口を閉じ、懐から煙草のソフトケースを引っ張り出した。
「あ、煙草吸うなら窓開けろよ」
「分かってら、で? 何よ」
のそのそ立ち上がった兄を目で追う。いつ見ても信じがたいジャンケン柄の着物の兄はゆったりと煙草に火をつけてこちらの言葉を待っている。
俺の一体何が間違ってる? と言わんばかりの態度だ。湯呑みをとり、ぬるい玄米茶を啜る。
本当に言わないとわからないのだろうか。あそこまで執着しておいて何を言うのかと呆れが半分、苛立ちが半分の心地だ。ここまでくるともはや介護ではないかとすら思う。
ケンは未だに表情を変えなかった。腹が立つ。こんな気分をまた味あわされるくらいなら今言っておいた方が自分の為になりそうだ。
「そんじゃ聞くけど、コユキちゃんがいざ人間の、ケン兄で言うところの『平凡ないい男』と付き合って結婚して、家庭に入って子供作ってニコニコ笑ってるところ、本気で想像したことある?」
「はあ? そんなん当たり前だろその方が良いンだから」
「ホントに?」
「ホントホント」
ケンが窓の外に煙を吐いた。外に逃げきれなかった煙が一筋寄ってくるのを手を振って追い返す。
「コユキちゃんが、『私の彼氏です』つって人間の男をケン兄に紹介してきたとする」
「良いことじゃん」
「あの子は律儀だから、きっと『結婚します』って報告もしてくれると思うわけよ俺は」
ひくり、兄の目尻がひくついた。火のついた煙草の先で、灰が増える。見なかった事にして、更に言葉を重ねた。
「子供拵えるってことはさ、言いたかねえけどそーいうこともするじゃん。わかる?」
「あ?」
「そこも含めて考えて、ケン兄は本当に、ほんとに、なーんにも感じないんだ?」
ぽかん、と開いた口から煙が漏れた。馬鹿面だ。
大ぶりな牙がチラつく。同族から見ても嫌味なほどに立派な牙。あの娘はケンの牙が好きだと言った。自分の料理を食べてくれる大きな口が好きなのだと。ケンには言わぬよう口酸っぱく言っておいたから本人は知らないだろう。口止めの半分はあの娘のためだが、もう半分は嫌がらせだった。
だってそうだろう。『若くてボインのおネェちゃん』に言い寄られていながら、こんな煮え切らない態度。腹が立つに決まっている。
──じゅう。
小さな音と共に、香ばしい匂いが鼻をつき思考を止めた。こたつから身を乗り出して様子を伺う。
「あ」
ケンの足元に落ちた煙草の火種が、畳を静かに焦がしていた。
「
……
で、そんときの焦げがコレでございます」
さながら料理番組で調理済みの品物を取り出すタレントのようだ。笑いながら畳を指し示すと、尻をずらしてこたつ布団から出たコユキが興味深そうにトオルの指先を見た。小指の先ほどの黒い丸。コユキは真剣な眼差しでそれを、見つめ、桜貝色の爪で何度か畳を撫でた。
〝知らなかったです、そんなお話ししてたなんて〟
「もうだいぶ前の話だけどね。そりゃ言わないでしょ、自分の恥部だもん」
あの時と同じ湯呑みを傾けて笑う。コユキはこたつ布団に戻ると丸い頬を少し赤らめて、それもそうですね、と笑った。少し伸びた髪の毛が揺れる。
「髪伸びたね」
〝はい〟
ケンさんが褒めてくれたから伸ばそうかと思って、なんて言われては堪らない。義弟相手に惚気んなよなぁ! と少し乱暴に言ったところで、コンビニにアイスを買いに行った兄妹がどたばたと戻ってくる音がした。
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内