菜穂子
2024-10-07 21:05:38
1362文字
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再会の夜

最終話の復活の後、巧海くんは晶くんのご実家に泊まったのかなという妄想です

少し湿った土の匂いと、畳独特のスッキリとしたいい香り。奥の部屋からうっすらとお線香の残り香も漂ってくる。枯れかけた木の葉が時々カサカサと音を鳴らすほかには何の音もせずしんとしている。
東京で育ち、風華学園に来てからも賑やかな寮で生活をしていた巧海にとって、こんなに静かな山奥で過ごすのは、生まれて初めてのことだった。
街灯ひとつ見当たらない真っ暗な景色を眺めていると、どたどたと忙しない足音が静寂を破った。
「待たせたな、これ巧海の布団」
見るからにふかふかの分厚い布団を両手で抱えながら、晶は足で襖を開けた。小さな晶の身体との対比で、余計に布団が大きく見える。
「客間で一人で寝るの心細かったら悪いな。俺今日はここの隣の部屋で寝るから、なんかあったら呼べよ。じゃ、おやすみ」
慣れた手つきで畳の上に布団を敷き終えると、晶は巧海に身体を向けないまま踵を返した。巧海は思わずその腕を掴む。
「どうした?」
ようやく巧海の方を向いた晶は、それでも巧海と目を合わせようとしない。
「うーん……どうもしないんだけど」
そう、どうもしないのだ。布団を敷いてもらったらあとは眠るだけだ。それでも、このまま目も合わさないまま眠りにつくことが寂しかった。何もなくても、会話をしたい。もっと顔が見たい。
「もう少し、晶くんと一緒にいたいなと思って」
照れ笑いを浮かべる巧海を見て、晶は深いため息をついてその場に力無くしゃがみ込む。
……俺、今日すげー浮かれてるんだ」
俯いて両腕に顔を埋めている晶の表情は、巧海からは見えなかった。それでも、耳が赤くなっているのはよく見える。
「俺のせいで消えたはずの巧海が戻ってきてここにいるのが、なんつーか、夢みたいでさ。どんな顔していいかわかんねえ」
いつも以上に素っ気なかったのは、浮かれているのを隠したかったから?らしくなくドタバタしていたのも、浮かれていたから?違和感の答え合わせができたそのとき、巧海の身体は自然と動いていた。しゃがみ込む小さな身体をふわりと抱きしめると、前よりも一回り細く感じる。この数日間どんな思いをして過ごしていたのかが窺い知れて、鼻の奥がツンと痛む。
「僕、晶くんがどんな顔してても好きだよ」
「おまえ、よくそういうこと平然と言えるよなあ……
少しだけ顔を上げた晶の視線が巧海の視線とぶつかる。居心地悪そうにまた目を逸らす晶に、愛しさで胸がいっぱいになった。
このまま離したくないなんて言ったら、どんな顔するかな。巧海が思い巡らせていると晶は巧海の腕からするりと抜け出した。
「悪い、俺なんかもういっぱいいっぱいだから、また明日な!」
部屋に入ってきた時と同じように足音を立てて出て行った。かと思ったら戻ってきて、少しだけ襖を開けて顔を覗かせる。
「言い忘れた、おやすみ!」
それだけ言い残して、襖をぴしゃりと閉める。返事をする間もなく去って行った襖の方に向かって、巧海はおやすみ、と小さくつぶやいた。
抱きしめた腕の感触がまだ残っている。それを反芻するかのように巧海は先ほど晶が敷いた掛け布団を抱きしめてみた。先ほどはふたつ聞こえた心臓の音も、今は自分の音しか聞こえない。
抱きしめたその布団は、分厚いのに軽くてふかふかで、少しだけ押し入れの湿った匂いがした。