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菜穂子
2024-10-07 21:00:50
1185文字
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おいしいものはとっておく派
巧晶 女子寮に引っ越した晶くんが男子寮にお邪魔する話 ちょっぴり青春の情動
コンコンと窓ガラスを叩く音がする。
この部屋の窓ガラスを叩く人は一人しかいない。寮の3階の部屋の窓を外から叩くことができる人物自体そうそういないが。こんな場面を、生徒会執行部なんかに見つかれば大変なことになるだろう。まあ、喜んで窓を開けてしまう自分も自分なんだけど。と苦笑しながら、巧海は窓を開けた。
「邪魔するぜ」
窓ガラスを叩いた主、晶はするりとしなやかな動きで部屋に入り、そのまま巧海のベッドにダイブした。女子用の制服の短いプリーツスカートから、白い足がするりと伸びている。窓際にベッドを置いたことを少しばかり後悔しながら、巧海は晶を視界から外すようにベッドを背もたれにして床に座った。
巧海の手術の付き添いで渡米したのち帰国してから、晶は男装をやめて女子生徒として学園に通っている。女子寮での生活は、いろいろと大変らしい。最初は遠巻きに晶を見ていた女子生徒達も、最近は女子と分かった上で告白してきたり巧海とのことを根掘り葉掘り聞いてきたりするようになったのだとか。なんでも、元HiMEの面々に揶揄われたり舞衣に世話を焼かれたりするのを見てたら話しやすそうに見えてきたという噂だ。もともと晶は、女だと気づかれないよう、人と距離をとって生きてきた。多くの人に囲まれることにも、女子として扱われることにも慣れていないのだ。そういうわけで、疲れ果ててはこうして時々巧海の部屋に休憩しに来ている。
「自分のベッドよりこっちのが落ち着くな
……
」
彼女が自分のベッドでくつろぎきっている状況で、僕は落ち着けるわけがないのですが。そう言葉にする勇気は、巧海にはまだなかった。
「なんていうか、ごちそうを前に待てされてる犬の気分がわかるなぁ」
ぼそり、聞こえないように小さく呟いた声は虚空に消えた。かと思われた。
「別に待てをした覚えはねえけどな」
性別を偽って過ごしていた名残なのだろう。晶は人の気配や声に特別敏感だということを、このとき巧海は思い出した。思わず振り返って晶を見ると、顔を枕に埋めて隠している。枕からはみ出た耳は、気の毒なほど赤くなっている。ほんの出来心というか、いたずら心というか。その耳に一瞬だけ口付けてみた。きゃあ、と短い悲鳴をあげて晶は飛び上がった。
「なにすんだ!!」
「ねえ、晶くん。それ自分がごちそうだってわかってて言ってる?」
晶はますます赤くなって巧海を睨みつける。一見クールに見えるのに、晶の表情はくるくると変わる。それをひとりじめできることがたまらない。なんてニヤニヤしていたら、巧海の胸の辺りにドン、と衝撃が走る。
「
……
そりゃ、まあ」
どうやら、今度は赤くさせられるのはこちらの方らしい。まだ手を出すつもりはなかったのだけど。いつまで我慢できるかなあ、なんてぼんやり思いつつ、巧海は抱きついてきた晶のことを抱きしめ返したのだった。
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