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和綺
2024-10-06 14:54:49
1637文字
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蒼天は廻る
五歌ワンライ/ワンドロ
第3回「蒼」
完結後/5不在
「何色がお好きなんですか?」
尋ねられて、歌姫は伸ばした手はそのままに顔を上げた。見上げた先にはにこやかな顔があって、そうですねぇ、と歌姫もにこりと笑う。
親睦会の粗品は文房具で、そのまま粗品と記された白箱の中身は蛍光ペンが三本にボールペンだと聞いている。
「普段着は白黒が多いですかね」
「ああ、シンプルでいいですね」
「色で冒険するのなかなか難しいですよね」
そう言いながら、相手の視線が歌姫の巫女装束を見下ろしたので、歌姫はこっそりと口角を釣り上げた。今日の袴は緋色だ。
「こんな格好では説得力がありませんが」
「ああ、いえいえ、よくお似合いです。こういう明るい色もいいんじゃないですか?」
「歌姫先生は小物とかは暖色が多いですよね」
同行してくれていた補助監督が、ね、と歌姫を覗き込むようにしてにこりと笑う。それを見返しながら、そうねぇ、とぼんやり思い浮かべると、財布とキーケースは赤茶色、お気に入りのブーツは茶色だし、なるほどそうかも、と歌姫は頷いた。
「明るい色は好きよ。オレンジとかピンクとかも」
「じゃあ、歌姫先生はピンクにしましょう」
粗品を持ち上げた補助監督が、蓋を開けて色を確認している。
「これは黄緑
……
黄色
……
水色
……
っていうか三本全部同じ色って」
「あ、水色いただけますか?」
にこやかな顔が今度は補助監督を見下ろした。
「はい、もちろん。水色お好きなんですか?」
「そうですね。選びがちです」
「爽やかですもんね」
そうですね、と再び笑い返し、それでは、と去っていく姿に、歌姫もぺこりと頭を下げる。
「なかなかピンクが出ませんねぇ」
「別に何色でもいいわよ」
なんだかやたら真剣に開閉を繰り返している補助監督に苦笑いをして、歌姫は会場を見回した。近隣の学校が持ち回りで行う教職員の意見交換会は、毎年定期的に開催されていて、高専も特殊とはいえ学校という体を取っている以上、こうして誰かが参加することにしており、それはもっぱら歌姫の役目だった。
育てているのは呪術師といえど、一般科目の教育もきちんと行っていくうえでは、有意義な会だと歌姫も参加を渋ることはしていない。
「あ!あった!」
嬉しそうな声に、歌姫は振り返る。取り出された三本の蛍光ペンが補助監督の手のひらに並んでいる。
黒塗りの本体に、キャップ部分にピンクのラインが入っている。
「あら」
それを眺めた歌姫が、一本を指さした。
「これ水色じゃない」
「あ、ほんとですね。これは三本同色じゃないのか~」
「その一本はあげるわ」
「え?」
「行きましょ」
補助監督の手から二本を取り上げて、開封された粗品の箱を手に、歌姫は出口へと向かう。
「疲れたわね。コーヒーでも飲みに行く?」
追いついてきた補助監督を振り返ると、なにやら首を傾げている。
「なによ」
「歌姫先生、そんなに水色嫌いでしたっけ?」
「好きでも嫌いでもないわよ」
「そうなんですか? なんかそういうこと言うの珍しいですね」
ざわざわとまだ疎らにひとが残るなかを突っ切るように進む。歌姫はこういう場の有効性を知っているから、参加に否やはない。めんどくさいなどと渋ったりもしない。近くにある古い喫茶店のパンケーキを奢れなどと喚いたりもしない。
会場から出ると、空は一面の青空で、爽やかな風が歌姫の髪を揺らした。
「やっと涼しくなりましたね」
高い高い突き抜けるような青空は鳴りを潜め、なだらかに揺蕩う空は、けれどまだ青い。この世界に生きている限り、空はずっと青いのだ。
「さっきの」
「はい?」
「水色。別に嫌いじゃないのよ、ほんとに」
「えぇ? はい」
大したことのない話をわざわざ蒸し返したのがおもしろいのか、補助監督は笑っている。それをなんとも居心地の悪い思いで見ながら、歌姫は青い青い空を見上げる。
「ただ、見飽きたのよ、もう」
お腹いっぱいだわ、と笑ってみせると、補助監督ははぁ? と不思議そうに首を傾げた。
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