高梨 來
2024-10-06 14:08:56
5246文字
Public ときメモGS2/小説
 

祝福をあなたに

氷上くん、お誕生日おめでとう。
卒業後、19歳のお誕生日を共にお祝いする夜のお話です。
ヒロインデフォルト名:海野あかり

 大好きな格くんへ
 19歳のお誕生日おめでとう。生まれてきてくれて、私と出会ってくれて本当にありがとう。これまで格くんと過ごしてきた時間、格くんからもらった気持ちはどれひとつとっても掛け替えのない大切な宝物です。
 こうして格くんの生まれた日を今年もお祝いさせてもらえるのが本当に嬉しいです。これからも格くんと一緒にたくさんの大切な時間を過ごさせてもらうことが出来ればとても嬉しいです。
 色々と頼りないところばかりの私だけれど、これからもどうかよろしくね。格くんのことが本当に大好きです。

 あかりより

 追伸
 数時間後には会える予定なのに夜分遅くにごめんなさい、どうしてもすぐにお祝いしたかったの。会ってからも沢山伝えるので待っていてください。
 一年に一度の何よりも大切な日を一緒に過ごさせてくれて本当にありがとう、格くんのことが大好きです。


 午前零時に時刻が切り替わった瞬間、もどかしく震える指先で携帯メールの送信ボタンを押す。
 何時間も前から何度も書き直しては読み返し、を繰り返したから、誤字やおかしなところはないはずだと思うのだけれど――胸いっぱいの安堵と裏腹の緊張感で、いつになく心が打ち震えているのを感じる。
 重たいって思われちゃうかな? もしかして。だってきょうは、いままでいちばんの特別で大切な日――私と格くんが恋人同士になって初めての格くんの誕生日だから。
 受け取ってもらえるといいな、 私のいまのとっておきのこの気持ち。 格くんはもう寝ている時間だろうし、きっと他にもお祝いのメッセージはたくさん届いているだろうけれど――明日の朝、目を覚ました格くんが目にしてくれるのなら何よりも嬉しいから。胸の高鳴りを抑えるようにそっと手を当てて深く息をのめば、たちまちに脳裏にはこれまでの沢山のかけがえのない時間が過る。
 ありがとう格くん、 本当に大好きだよ。 この気持ちを伝えさせてくれて、本当にありがとう。
 噛み締めるようにぽつりと心の中でだけそう囁きながら、 携帯電話の液晶に映し出された待ち受け画面――格くんの好きな写真家さんの撮った星空の写真をぼうっと眺める。
 どうしよう、なんだかどきどきしすぎて、胸がいっぱいでちっとも寝られる気なんてしない。明日はデートだから、寝不足で行くわけになんていかないのに。 約束の時間がお昼過ぎからなのがまだしもの救いだよね?
 明日になればまた会える、十九歳になったばかりの格くんに。ちっともおさまってくれそうになんてない胸の高鳴りを深く噛み締めなが、らひとまずは、と入眠の準備のために携帯電話の電源を落とそうとしたところで、ちかちかと瞬く画面が新着メッセージの通知を告げる。

『新着メッセージー通 格くん』

 えっ、どうして? 格くんはいつもならもう寝てる時間でしょ? 胸の高鳴りを抑えられないままに震える指でボタンを押せば、 画面に広がるメッセージにますます胸の鼓動は早まる。

『夜分遅くにすまない、誕生日のメッセージ本当にありがとう。 もしよければ少しだけ声を聞かせてもらってもいいかな? もう休んでいるのなら無理は言わないから。明日、君に会えるのを心から楽しみにしているよ。』

 文面だけなのに、ありありとあの優しくて心地よい声が聞こえてくるのを感じる。
 驚きと喜び、その両方を隠せないままに私はリダイヤルボタンをすぐさま押すと、息をのむような心地でスピーカー越しのコール音に耳を澄ませる。
 そんなのおなじだから、私だって――こらえようのない胸の高鳴りを無理やりに抑えつけるようにしていれば、数回のコールののち、すっかり耳になじんだやわらかくて心地よい大好きな声が聞こえてくる。
『もしもし』
「もしもし、格くん?」
 いつもよりも少し声を潜めるようにしてしてそっと呼びかければ、同じように少しトーンを控えめにした、やわらかく穏やかにくぐもった声が届けられる。
『夜分遅くにすまない、わがままを言ってしまって――電話をくれてありがとう。僕からかけるべきだったのにね』
 あまりにも〝らしい〟としか言えない心遣いの数々に、ぎゅっと心の奥を掴まれるような心地を味わう。そういうところだよ、本当に。もう、どれだけ格くんのことを好きにさせてくれるの? とめどなくあふれ出すような愛おしさを噛み締めるような心地で、そっと話を切り出す。
「こんばんは、格くん。十九歳のお誕生日おめでとう。ごめんね、こんな遅くに。まさか格くんがまだ起きてるだなんて思ってなかったの。日付が変わったらすぐに格くんに伝えたくって、どうしても我慢できなくって。どうしよう、すごく嬉しいな」
 心のままにもつれた言葉を口にすれば、スピーカーの向こう側からは、あたたかなため息がそっとこぼされるのがかすかにだけれど確実に伝わる。
 ねえ格くん、電話ってすごい発明だね? 私たちいま、こんなにも離れ離れでいるはずなのに――まるで、すぐ側にいてくれる格くんからに直接、格くんの息遣いを届けてもらえたような心地になれるんだから。
 パジャマ越しの胸へとそっと手を当てるこちらを前に、やわらかに綻んだ格くんの声が鼓膜を伝って心の内へと優しく注がれる。
……ありがとう、本当に。なんだか今日はいつになくそわそわして、眠れなかったんだ。君のことを考えていたからかもしれないね。君との約束のことを確認して明日に備えよう、そしたら寝られるはずだと思ったんだ――本当に驚いたよ、君からのメッセージが届いていたんだから。本当に嬉しかったんだ。いまの僕には、君の存在そのものが何よりもの贈り物なのかもしれないな」
 少しばかり気恥ずかし気に――それでいて、何よりもまっすぐな優しさと心からの思いやりを込めて届けられる言葉が、心の内側を穏やかに貫いていくのを私を感じる。
 どうすればいいんだろう、こんなにも掛け替えのない気持ちを受け取らせてもらえるだなんて。 今日は格くんの生まれてきてくれた何よりも大切な日で、プレゼントを渡さないといけないのは、 私の方なのに。
 思わず言葉を詰まらせるこちらを前に、スピーカー越しに、少し焦ったようすの言葉が届けられる。出来ないけれど、
……どうしたんだい? なにかまたおかしなことでも言ってしまったかな? すまない。 それとも寝てしまったのかい?』
 うろたえた様子を隠せない口ぶりに、 思わず笑みがこぼれてしまうのをこらえきれなくなってしまう。
「違うの、格くん。 ごめんね、 心配させちゃって。 私、 すっごく嬉しくって。 本当に嬉しくって……嬉しくって。 だってきょうは格くんの誕生日でょ? ありがとうって言わなきゃいけないのは私のほうなのに、私ってば格くんからもらってばかりだなあって。 ありがとう、本当に。 格くんのことをお祝いさせてくれて本当にありがとう。 どうしよう、 何回ありがとうって言っても言い足りない気がする。 格くん、本当にありがとう。 私、 格くんのことが大好きだよ」
 もつれた言葉を必死に紡ごうとするうちに、いつしかじわりと目頭が熱くなっているのに気づく。よかった、 格くんが隣にいる時じゃなくって。 だって、格くんに心配なんてさせたくないもん。
『あかりさん……その、 』
 もどかしげに言葉を探すようすが、かすかな息遣いからありありと伝わる。
 いつもそうだ、 他の誰よりもうんと思慮深くて優しい格くんは、いつだって目の前にいる相手の気持ちに寄り添ったとびっきりの愛に満ち溢れた言葉をうんと丁寧に伝えてくれることを私は知っているから。
「ごめんね格くん――ありがとう。 どうしよう、 もう数時間もすれば会えるのにね? 声が聞けるのって嬉しいね、 どんどん気持ちがあふれ出しちゃうや」
 奇跡みたいだなと、改めて私は思う。
 私たちは同じ星にこうして共にいて、 隣にいられるわけではないのに、こうして声を通じて言葉にのせた想いを分かち合うことが出来て――こんなにも脆くて頼りない感情をありのままに明け渡すことを許されているだなんて。
 もつれた言葉を解きほぐすような心地で訥々と伝えるこちらへと、いつも通りのやわらかく穏やかさに満ちた口ぶりで格くんは答えてくれる。
『それはその……同じだよ、僕だって君と。 なんだかすごいな、奇跡みたいだ。去年の僕に教えてやりたいよ、来年のお前は誰よりも大切な人とこうして気持ちを分かち合えるようになっているんだって。 驚くだろうなぁ、きっと! すごく嬉しいよ、本当にありがとう』
 誇らしげなようすを隠せないままにふつふつと告げられる言葉に、ふつふつと、まだ言葉にならない感情までがあふれ出していくのを私は感じる。
 ちっとも知らなかった、 自分の中にこんな気持ちがあることすら。噛み締めるような心地で息をのむこちらを前に、降り注ぐ光のような温かな言葉が続く。
『あかりさん、 その、まだ先になるかもしれないけれど、 いつか……今度は、誕生日になった瞬間を一緒に過ごさないかい? 君の誕生日と僕の誕生日の両方をだよ、 まだ確約は出来ないけれど、いつかきっと』
 とびっきりの優しい 〝提案〟を前に、私の胸の内は最高潮に高鳴る。
「いいの、 そんなの?」
 少しだけ気弱な返答を前に、すぐさま被せるように強気な口ぶりでの返答が返される。
『いいに決まってるだろう、 そんなの。 君はその……僕の特別な人なんだ、他の誰とも比べ物にならないくらいに』
 心からのぬくもりに満ちた "贈り物、が、じわりと胸の奥を満たしていくのを感じる。
 ねえ、氷上くんはひょっとして魔法が使えるの? 私、こんな満たされた気持ちにしてもらえるのなんて生まれて初めてだよ? 思わずじわりと熱くなる瞼をぎゅっと抑えながら、務めて明るい口ぶりで私は答える。
……ありがとう格くん。 ありがとう、 ほんとうに。 ねえ、 明日会ったら指切りしてもらってもいい? 約束がしたいの。 それとね、 まだ格くんに伝えたいことがたくさんあるんだよ? でも、いまじゃ勿体ないよね。ちゃんと格くんの瞳を見て伝えたいの、いいよね? 聞いてもらってもいい? どうしよう……いまからすごくドキドキしてるんだけど。こんな遅くまで付き合わせちゃってごめんね、ありがとう。……本当にありがとう。 そろそろお休みにしないといけないよね」
 思わす恐縮したようすで尋ねれば、幼い子どもをなだめるかのような優しい口ぶりでの返答がたちまちに被される。
『 いいんだよ、 そんなに謝らないでくれ。君にわがままを言ってしまったのは僕のほうなんだから……楽しみにしてるよ、すごく嬉しい。 誕生日を迎えてすぐに君の声が聞かせてもらえて、本当に良かった。こんなにも素敵なプレゼントをくれて本当にありがとう』
 鼓膜を通して心の内側、やわらかくて脆い、容易く触れさせることをためらってしまうようなうんと大切な場所がひたひたと湿らされていくかのような心地を味わう。
 ねえ格くん、どうして格くんはこんなにも私の心を思いもよらない方へと動かしてくれるの? あふれ出してしまいそうな愛おしさを深く噛み締めるようにしながら、ゆっくりと私は答える。
「そんなことないよ……ありがとう、こちらこそだよ。 ねえ、氷上くん。このままじゃきっと朝になっちゃうでしょ? だからね、いまからいっせーので『おやすみなさい』って言い合わない? そしたら私たち、ちゃんと寝る準備ができるから――そしたらまた明日、元気に会えると思うの」
『あぁ……君らしい提案だな、すごく』
 誇らしげな口ぶりで告げられる言葉に、心からの安堵としか呼べないものがふつふつとあふれ出していくのを私は感じる。私たちはこの星で同じ時を生きるごくありふれた恋人たちで、いまこうして話をしている間も、ひとたび家を飛び出せばすぐに会える距離に居て――これから数時間後には、彼の家族と共に、彼の生まれてきたことをお祝いさせてもらう約束だってしているのだ。
 私たちには明日の――それからずっと先の未来の約束だっていくらだってある。それはなんて嬉しくって希望に満ちた、誇らしいことなんだろう。
「ねえ格くん、いい? いっせーのーで」

 生まれてきてくれて、私と出会ってくれて、私を好きになってくれて――こんなにも大切なかけがえのない気持ちを私にいくつも教えてくれて本当にありがとう。格くんのことが心から大切で、誰よりも大好きです。

 心を込めて大切な言葉を口にする またすぐに会える、その時のために
 ……おやすみなさい、 格くん。 十九歳のあなたに会えるのを楽しみにしています。


 私と格くんの新しい物語が、またこうしてここから紡がれていく。