三毛田
2024-10-04 17:14:06
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70 10. 愛する幸せ

70日目 あなたを愛することが出来る幸せ

 恋も知らなければ、愛も知らない。まあ、そんなこと知らなくても世の中生きていける。
 けれど、それらを知っている方が世間は優しい。時もあるらしい。
「訳わかんない」
「星によっては、独り身のほうが肩身が狭いらしいな」
「そんなの、不公平じゃん」
「なら、行かなければいい」
「立ち寄った場所がそういうところだったら、丹恒はどうするの」
「俺は列車から降りない。だから、お前は三月と共に行動すれば、白い目で見られることもないだろ……おい」
 思わず抱きついて背中に顔をぐりぐりする。それはあまりにも冷たい対応じゃんか。
 それとなのに悪いでしょ。とか、他にも言いたいことはある。でも、口には出さない。出したくない。
「俺はお前と行動したい」
「そういう面倒な風習があるところでなければ、俺は構わないが」
 丹恒の脇の下から少し顔を出すと、優しく頭を撫でられる。
 でも、声は戸惑っているような印象。
 突き放したと思ったら、声して優しくしてくれる。それは、とてもアンバランスで。
 けれど、丹恒のそんな態度が嬉しく思えて胸の内に温かく広がる何か。
 理由と原因は、直ぐ側にいた。いい意味で。
「うわ〜ん。丹恒〜」
「その走り方は転ぶ……うっ」
 両手を前に着き出して、鼻をすすりながら丹恒へと飛びつく。
 彼はちょっと苦しそうに呻いて。でも、俺を抱きとめてくれるくらいの胆力があるのはすごい。
 それとも、体幹がしっかりしているのだろうか。
「どうした」
 ポンポンと優しく背中を叩かれて。
「あう、ううう……
「泣いているだけじゃ、慰めようがないんだが」
 と、困ったような声。
 でも、みっともなくて情けない理由だから話したくない。
「穹、落ち着いたら話してくれるか?」
「教えたくない」
「そうか。それならそれでいい」
「聞かないの」
「お前が話したくないなら、話さなくていい。無理矢理聞き出す必要性を感じないからな」
……丹恒優しい」
「お前相手だからだな」
 ふっと笑うのが聞こえた。本当そういうところだよ。大好き。
 そう。
 俺は、この人が好き。
 好きになってしまった。
 そのことに気づいて、みっともなくて情けない悲鳴を上げてしまって。
 でも、丹恒の顔が見たくて、彼に抱き着きたくて、ぬくもりを感じたくて。こうして、愛に来て勢いよく抱き着いたのだ。
「もう大丈夫か?」
「うん。丹恒のおかげで、よくなった」
 まだ離さないでいると、今度はさっきより強めに背中を叩かれた。
 誰かを愛する幸せを、彼が教えてくれた。