kotokoto__0118
2024-10-04 00:54:33
1534文字
Public 同居人
 

そっと、目を逸らした

同居人 通過前に書いたやつ ネタバレなし
はるくんと縹はたぶんこういう出会いだった

 バケツをひっくり返したような雨の降っている日だった。いつも通り店の中で適当な読み物をしていたら、突然屋根にあたる雨音が強くなったものだから、一瞬本から視線を外して、ガラスの向こうの外を見て。
 ずいぶん降っているな、と思った。傘立てを出すべきか、少し迷って。まあどうせ、誰も来ないだろう、とまた本に視線を落とした。
 それから、本のページを数枚捲るだけの時間が過ぎた頃。ガラリ、と音がした。入口の扉が開く音だった。

「いらっしゃい」

 反射的に言いながら視線を上げて、おや、と思った。そこに立っていたのは、見たところ高校生ぐらいの男の子だったから。珍しいな、と思って、それより先に自己完結する。傘も持っていないし、彼は全身びしょ濡れだ。きっと雨宿りだろう、とあたりを付けた。
 大丈夫かい、タオル持ってくるよ、なんて声を掛けようとして、けれど向こうの方が早かった。

「月見さん、ですよね。何でも屋をやっている」

 思わず瞬いた。”そちら”の客だとは、思っていなかったから。はて、いったい誰からの紹介だろう、と首を傾げながらも肯定するべく口を開く。

「まあ、何でも屋の月見、って聞いてるんなら俺のことだと思うけど……

 どうしたの、と続けようとして、それより先に彼が被せるように、半ば叫ぶように続けた。

「取材をさせてください」

 予想外の言葉に、また瞬いた。

 とりあえず、と座敷に上がらせて、タオルを渡してある程度体を拭かせて。そうしながら話を聞いた。
 曰く、小説家。
 曰く、高校生ではなく大学生。
 曰く、取材としていろんな人の話を聞いて回っている。
 曰く、その取材の中で俺の名前を複数回聞いた。

「だから、貴方を取材したいんです」

 そう締めくくった彼は、こちらをまっすぐ見上げていた。

 正直、変な子だな、とは思った。そもそも、俺が言えた義理ではないが小説家なんて珍しい職業だ。しかも学生やりながら書いているときた。その上、よりによって俺を取材したいと言う。

 正直、断ろうかと思った。俺を取材して、いいものが書けるとは到底思えなかったからだ。けれど。

「お願いします、きっと、貴方を見れば、書けると思うんです」

 そう言って、こちらを見据えるその子の表情が、どうにも、切羽詰まっているように見えて。まるで、どこか自棄を起こしているような。
 放っておけないな、と思った。どうせすぐに飽きるだろう、とも。

「まあ、俺で役に立つかは分からないけど。いいよ、好きな時に来な。だいたいここに居るからさ」

 そういえば、どこか俯きがちだった彼はぱっとこちらを見て表情を明るくした。感情の分かりやすい、かわいい子だなあ、なんて思いながら適当な裏紙に営業時間を書いて渡す。その頃には、すっかり外の雨も止んでいた。

 念のため、といつか誰かが置き忘れたビニール傘を持たせてその日は帰らせて。そうして、次の日彼は来た。その次の日も、その次の日も。

 そして、今日も。

「先生、こんにちは!」

 すっかり絆されてしまった。すっかり、懐かれてしまった。すっかり、関係ができてしまった。

「ああ、はるくん。今日も来たの」
「当たり前じゃないですか!」

 振り返りながら言えば、その子は少し頬を膨らませて答えた。それを適当に受け流しながら、いつも通りはるくんの分のコップに麦茶を注ぐ。いつの間にか、うちの食器棚には彼の分のマグカップが置かれるようになっていた。

「ありがとうございます!」

 にこにことそれを受け取る彼の表情も、もうすっかり見慣れたものになっていた。
 ……本当は、そろそろ蹴りだすべきなんだけどなあ。