「やぁ、もう行くのかいメイジ様」
ヴァレンはハムスターの使い魔を連れたローブの男に声を掛けた。
「あぁヴァレン。そうだね、もう出発するところ」
目を隠す髪を鬱陶しそうに払って、ハムスターを連れた男─マーリンは微笑んだ。
「そうかい。君の旅の安全を願っているよマーリン様」
騎士の礼と共に言うと、マーリンは穏やかに笑う。
「君にまたしばらく会えないと思うと寂しいよ」
「もちろん俺だって」
ヴァレンがおどけたように返すと、マーリンは目を細めてため息をついた。
「君にはきっとそういう自覚は無いのだろうけど、ヴァレンはいつもそうやって僕から距離を取ろうとするな」
拗ねたようにそう言われて、ヴァレンは眉を下げた。
「別にそんなつもりは」
「ふふ、そんな顔するなよヴァレン。からかっただけだ。次にあった時はもう少し距離が縮まっていてくれると嬉しいよ」
屈託なく笑う顔が眩しくて、思わずヴァレンはマーリンの頭をかき混ぜるように撫でた。
「む、なんだ、今度は子供扱いか?」
「違うよ。じゃあなメイジ様、次は一緒に飲もうぜ。今度こそ将軍のおごりでな!」
そう言って去っていったヴァレンの背中を見送って、マーリンは微笑んだままちいさく呟いた。
「困ったな、会う度に好きになってしまう
……」
「大丈夫ですかマスター」
「ヴァレンさんがマスターを泣かせるようなことがあったらメイメイがやっつけてあげますからね!」
見上げてきたロンロンとメイメイに、マーリンは愛おしそうに目を細めて2匹の頭を撫でる。
「僕は平気だよ。さ、行こうか」
そうしてマーリンは次の街へ足を進めるのだった。
***
マーリンが旅に出て数年が経ったとある日。
聖石町の巡回をしていたヴァレンは、見覚えのあるローブ姿の男を見かけ、思わず声をかけた。
「メイジ様じゃないか!随分と久しぶりだな、今度はどこへ行って
……」
「すまないが、」
振り返った男は、最後に会った時とは髪型や目の色こそ違っていたが、それは確かにマーリンだった。それなのに
「君は誰だ?」

その目にはヴァレンに対する警戒の色が浮かんでいた。
「え
……?あ、ああ、申し訳ない。
……人違いだったようだ」
「そうか、じゃあ僕は失礼する。きっと使い魔が僕を探しているだろうから」
そう言って立ち去ったマーリンを呆然と見送って、ヴァレンは呟く。
「あれが、マーリンの記憶喪失
……?」
ホーガン将軍が言っていたのはこういうことだったのか。
ヴァレンは呆然としたまま、巡回の騎士が探しに来るまでその場に立ち尽くしていた。
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