【ミスライ】既成事実

ノリと勢いで誤魔化してるオメガバースもの。ミスライ🍽️🧀編。

体全身の感覚が鈍感になって気怠さが足元から這い上がって纏わりつく。上手く回らない頭と熱っぽさ。悪寒が無かった代わりに如何いうわけか男特有の生理現象を目の当たりにして顔を顰めた。
俄かに沸き立つ羞恥心。普段であれば絶対知られたくないというのにぼんやりする思考が覆い隠してくれたお陰で父親に報告できた。

「ライオス。今後体が少しでも熱っぽく感じ次第これを飲みなさい」
「分かった」

幼少期風邪をひいた時に飲まされる煎じ薬と違い子供の手でも小さく思える白い包み紙に包まれたやたら苦い粉薬。
その正体はΩのヒートを抑制する薬草を乾燥させたものに加え、自分の第三の性がΩなのを知ったのは父親から走り書きで渡された薬草の名前とその効能を書かれた一枚のメモ用紙を無造作に渡された時だった。
父親言いつけを守り粉薬を飲み続け残りの包みが片手で足りる数になってしまい追加で欲しいと訊ねにいけば「次から自分で作れ」とメモ用紙を小さな包み紙の代わりに渡された。
見慣れた父親の文字を目で追い、書かれている内容を必死に頭の中で噛み砕いている最中、不意に上から落ちてきた父親の低く威圧的で淡々とした声はライオスの戸惑う心を力尽くで抑え込む。

「お前がΩだというのを周囲に悟らせるな」

ファリンの一件から村の住人や両親こと父親に対して不信感や猜疑心、そこはかとなく嫌気がさす反面、子供心ながら親の言いつけを守る素直さで今の今まで欠かす事無く抑制剤を服用し続ける律儀な自分に若干辟易する。
ただ一度だけ隊商に身を置いていたとある日、抑制剤が間に合わずヒート状態に陥ってしまった事があった。いつものようにヒートが来そうな気配に抑制剤を入れている袋に手を突っ込み、時間差で比較的入手し易いのに胡坐を搔きすっかりストックし損ねていたのを何も掴めなかった手のひらを見下ろして溜息を吐いた。
幸いその時たまたま一人での見回り役だったのと、風邪の初期症状染みた軽度のヒートで、なにより運よく抑制剤の材料である薬草を生で食したのが功を奏したらしくそこまで大変だったという記憶は無い。
しかし、思い出すだけで口腔内に広がる収斂味に口が窄まる。乾燥させる重要さをまさしく身を持って味わい、舌に残っている不快感に頼りなく眉尻が下がるというもの。
「あ、効いてきた気がする」
舌の上に蔓延っていた痺れが消えるのに比例して気怠い感覚と火照りが体から抜け落ちていく。
つと強制的に行動制限を課せられる不自由さ。なによりこちらの意思に関係なく本調子状態から引き摺り落とされる不便極まりない体質は面倒この上ない。やはり可能な限りヒート状態に陥りたくないものだ。そうライオスは改めて思った。
まだ奇跡的に実体験をしていないが、Ωはヒート時にフェロモンを撒き散らして、悪戯にαを興奮状態にさせた挙句発情させる厄介な性質から忌避されているのを小耳に挟んだ事がある。
「(ならば、むやみやたらに第三の性をカミングアウトするのはよそう)」
幼少期何故父親からΩだというのを周囲に悟らせるな、と言った意味を今更ながらに理解する。
そのお陰かライオスは周囲から勝手にαまたはβとしか思われず変なトラブルに巻き込まれる事のない日々をメリニ国の王に即位するまで送っていた。



「久々にやばい気がする……
魔物が跋扈するダンジョン内と比べ格段に生と死の駆け引きが少ない、とはいっても選択を間違えたら最後パーティメンバーどころではない国ひとつ沈みかねない重圧をライオスはライオスなりに受け止め慣れない公務を毎日こなしていた。
ヤアドとカブルー達が融通を利かせ適度に余暇を入れてくれるのもあって無理がたたる事態は避けられている。が、心身ともに蓄積されていく疲労感に毎度泥のように眠ってしまう日が無くなる事はな無かった。
泥濘の如く眠りについた翌朝。重たい体を起こして漸く抑制剤を服用しているのにヒート状態が収まらない現状に鈍く火照る額を押さえ先の言葉を力なく呟いた。
イヅツミが持って来た魔物を皆にバレぬようこっそり食べたのが原因で体調を崩したか。そんな考えが一瞬脳裏を過っていくも、イヅツミ持参の土産を食べたのは一か月以上前、遅効性が過ぎる。
次に厄介な風邪か、はたまた流行り病か。全てが鈍重で思考機能が低下している中、それはまずないとライオスは軽く頭を振い追い出した。何故か。
……無性に体が落ち着かない」
下着を元気よく押し上げる勃起かな。
しかも、下腹と如何いうわけか後孔が疼いて仕方ない。一度意識を向けてしまえば最後、口寂しいもうひとつの口と化した後孔がやたら収縮をくり返し、切なく下腹の奥がきゅんきゅんする不思議な感覚は今まで体験した事がない。
「あー、今日の公務は休ませてもらおう……
熱に浮かされた頭で一先ずカブルー達に体調不良であるのを伝え休むべく、いきり立つ己自身を隠すため権威の象徴であるローブを羽織り自室の扉に寄り掛かるかたちで開けた。
普段より増して重たい扉を開けるや否や、強烈な匂いが嗅覚を刺激し垂れ下がった目を限界まで瞠った。咄嗟に鼻を手で覆い敏感までに反応してしまう匂いを少しでも吸い込まないよう足掻いた。
働かない頭で匂いの原因が何なのか探せば、それは灯台下暗しよろしくライオスの視界よりやや下から声が上がる。
「丁度良かった」
視界端に映り込んだ褪せた銀髪。昏く吸い込まれそうな黒い目。乾き掠れた低い成熟した声色に背筋が甘く痺れた。
え、あっ……?」
想定外の訪問者にライオスは口元を押さえたまま後退り、ライオスが後退った分だけ西方エルフ国の外交官であるミスルンが部屋主もとい国王の許可なく寝室に足を踏み入れ、視線を逸らさず扉を後ろ手で閉めた。やたら室内に響く扉が閉まる音をやれ他人事のように聞いていたライオスの体が突如浮遊感に包まれ、次の瞬間には先程まで寝入っていたベッドの上に出戻りしていた。背中に感じるベッドの柔らかさ。口元を押さえても尚、隙間から容赦なく入り込む原因不明の匂いがライオスの内太腿を無意識に擦り合わせる。
困惑の色を称えた金色の目で疑問を投げかければ、一拍置きライオスに転移したミスルンが希薄な表情であるが欠けた長耳を微かに上向きにさせ──、徐に上着を脱ぎ始めた。
困惑を通り越して混乱するライオスを余所に、上着のボタンをじれったくしているのかは定かではないものの緩慢な動きで外していき治癒魔法でも消せない傷だらけで脂肪の少ない引き締まった上半身をライオスの眼前に晒す行為に益々ライオスが混乱の一途を辿ったのは言うまでもない。

「何故服を脱ぐんですか」

純然たる籠った疑問は終ぞ喉奥から先へ吐き出されずにライオスの手で覆った口元を隠すように被されたミスルンの上着から発せられる匂いに思考が蕩けた。ゆるゆると口元を覆っていた手を離して、鼻先を脱ぎたての温もり消えぬミスルンの上着に埋め肺いっぱいに匂いを取り込んだ。
「いい匂い
「だろう」
お気に入りのタオルを嗅ぐ仕草で独り言ちる面持ちは解れ、冷たく乾いたミスルンの指の背が頬を撫でる慈しみ溢れた感触に下腹がきゅんきゅん切なくなって堪らない。影を従え見下ろし降下してくる表情の起伏が少ないミスルンに目が釘付けになってしまい離せない離せられない。
「ライオス」
ただ名前を呼ばれただけで体が歓喜に打ち震えミスルンの上着を握っている手を思わず伸ばしそうになってしまうのを必死に抑え込んだ。
「お前はΩだな」
ミスルンの問い掛けにライオスは素直に頷き、次の「今、ヒートか」の問い掛けにも上目遣いで頷き、「第三の性について詳しく知っているか」の問いには少しだけ間を置いてから首を横に振った。こと魔物に置いては好奇心から生態系や何やら詳しく知りたい欲求で隅から隅まで調べる割に、人間については相変わらず興味をあまり抱けない所為で【ヒートになると面倒くさい】程度の知識しか持っていなかった。
そんなライオスの態度を見て軽く握った手を口に添え、虚空を見遣っていたミスルンの左目がすっかり発情しているライオスを捉える。
「掻い摘んで説明する。第三の性とは──……



──
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──────

「・・・なるほど。つまり面白い具合に俺とあなたのヒートとラットのタイミングが重なってしまい、番わない限りこの状態が少なく見積もって数日、長くて数か月続くと?」
「そうだ」
すっかり身包みを剥がされてしまい最近だらしなくなったと小言を言われるふくよかな腹をミスルンの薄い手のひらが弄る感触に身をくねらせつつ、ミスルンの上着を嗅ぎ続け彼の説明を噛み砕き理解するという何とも器用な事をライオスはしていた。
そして、ミスルンもミスルンで淡々と話しているが既に一糸纏わない姿になっており、息もまた荒くなっているのを噛み殺し、その視線は枕に埋もれた一点に注がれ続け逸らされない。
「今までα体質の匂いを意識して感じた事がなかったが、これは確かに抗いがたい。俺はそこまで性欲が強い方ではないのにこんなにも誘発されるものなのか」
だがこの男、冷静に分析していると見せかけ正直いっぱいいっぱいのため発している言葉の大半をふんわりとしか理解していない上に、ミスルンもミスルンでまた半世紀以上ぶりのラットに襲われ情欲が今にもはち切れんばかりである。
怪我の功名と云うのも忌々しいが翼獅子に欲の大半を食べられた結果、ミスルンはライオスのヒートを至近距離で浴びても理性を欠いた獣にならずに済み、あとは番になる許可を裸一貫で健気に待ち続けていた。
ミスルンの細い指先が触れるか触れないかの繊細さでライオスの胸を円を描くようになぞり、選ばせるように見せその実選ばせない選択肢をちらつかせ理性の糸を丁寧に一本ずつ切っていく。
嬌声の赤子が産まれるのを宥め賺し、大きく息を吸ったライオスが慈愛に満ちた瞳にミスルンの切羽詰まった顔を映し込む。握り締めすぎて皺になってしまったミスルンの上着から手を離し、伸ばした手で緩やかな動きで淡く波打つ銀髪を手櫛で梳きその頭を抱き寄せた。
「──不思議だ。ミスルンとなら番になってもいい俺がいる。どうにもさっきから妙に落ち着いてて、性欲は全く落ち着いてないけど」
それがヒートとラットがかち合った所為なのか、他の理由なのかは不明だが不安ではない。上着に染みついた匂いではなく、鼻先を褪せた銀髪に埋め直接匂いを吸う。儚げな匂いは心を穏やかにさせ、ミスルンの遺伝子を欲しいほしいと身体が訴えかける。
「つまり承諾した、そう受け取って構わないな」
「もちろん」
「そうか」
嬉しい。と、重なり聞こえたミスルンの声に応えるべく、ライオスは首を捻り彼の前に血色が大分良くなったうなじを差し出した。












「・・・で、勝手に番を結んだと?」
「はい
「うん」
その後、何時まで経っても姿を現さないライオスを心配したカブルーが彼の寝室に踏み入ってみれば、既にお楽しみ尽くしたメリニ国王と西方エルフ国の外交官が仲良く身を寄せ合って寝ている現場の第一発見者になってしまった。
血の気が引く思いで二人を叩き起こして問い詰めると、一番あって欲しくなかった事を二人揃ってお手々を繋ぎ飛び越えるもんだからカブルーの額に青筋が立ってしまうのも止む無し。
ベッドの上で正座させられた二人の前に立つカブルーの威圧感は、かのレッドドラゴンも射殺さん勢いである。
これから襲い掛かる到底一筋縄ではいかない問題の数々にカブルーが目頭を揉み憤りを表すように唸りに唸り踵が苛立ちでリズムを刻む。
そんな彼の姿を見て流石に軽率だったと反省しきりなライオスが申し訳なさげに肩を落とし、ライオスの隣に座っているミスルンは反省の色など微塵も浮かべずに赤みが落ち着いた白い肌に映える自身が付けた噛み跡をうっとり眺め続けていた。