閉めた扉に鍵をかける。プルアと共に出て行かなかった俺を少し不思議そうな目で見つめる彼女は、それでも嫌がる素振りなんて少しも見せなかった。
監視砦で唯一鍵のかかる部屋は本来研究室という名目だったはずだけれど、実質的にプルアの私室と化している。相も変わらず書類が散乱し、足の踏み場もない有様とはいえ、地下の雑魚寝用ベッドよりは万倍マシだ。長い長い旅を終えた姫様を休ませるならここしかないと満場一致で可決して、書類に埋まった仮眠用ベッドを掘り起こし、そこへ彼女を押し込んだ。
いつもの俺ならその時点でとっくに退室していただろう。だから彼女が疑問を抱くのも当然で、けれどそれはあくまで「いつも」の話でしかなかった。
机の前の椅子をベッドの横、彼女の枕元に持ってきて腰掛ける。まじまじ見つめられ続けたら休めるものも休めないだろうから、あえて背もたれを壁側に向けて横向きに座った。視線は向かいの壁から、床へと落ちていく。視界の端に映り込んだ彼女の脚が毛布の下でもぞ、と動いた。
きっと俺がいるだけでも落ち着かないだろう。けれど、今この部屋を出て行く気には到底なれなかった。
「……リンク」
柔らかな響きはどこまでも俺を心配していた。それがなんだか、無性に。
「私はもう大丈夫ですよ。貴方も魔王との戦いを終えたばかりなのですから、ベッドでよく休」
言いかけた言葉の続きは俺が飲み込んでしまったから聞くことはなかった。至近距離の翠が見開かれて、揺れている。初めて触れた唇はちゃんと暖かくて、硬い感触も、ひやりとした温度も、どこにもなかった。
唇を離して毛布から出ていた手を取る。
「すみません。でも……ここにいさせて」
嫌と言って欲しくなくて、しっかりと握り込む。いつの間にか呼吸を止めていたのだろう、彼女が息を吐くのと同時に、握ったままの手が毛布の中に引き込まれた。
ようやく瞼を下ろす。手の中に暖かさを感じながら、ふたりで眠りについた。
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