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お芋さん太郎
2023-05-15 16:12:12
3360文字
Public
ロシナンテ生存IF
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①元海兵の男
#ドンキホーテ・ロシナンテ #スモーカー #麦わらの一味 #なんでも許せる人向け
真白の雪原に明るく輝く、まあるい麦わら帽子に声をかける。
彼は振り向いて、これまた丸い目を瞬かせながらロシナンテを見上げた。
麦わらのルフィには、このパンクハザードで出会ってから「おもしれー」と何度となく言われた。
海ブタ肉入りホルモンスープで口をいっぱいにしながら弾かれたように返事するルフィこそ、ロシナンテにとっておもしれ
―
海賊なのだが、それはまあ置いておいて。
「お前! ドジの
……
ドジ男!」
「ドジ男ってお前よォ。おれの名前は
……
アー、まァいい。麦わら、お前に頼みがある」
「頼み?」
スープに入った大きな肉をひとかじりして、ルフィが首をかしげる。
ロシナンテは頭をボリボリとかきながら、言いにくそうに続けた。
「さっきお前らの話を小耳に挟んじまったんだが、次いく島はドレスローザだっていうじゃねェか」
「いかにも。我が同心カン十郎が捕まっているゆえ、即刻助けに行かねばならん」
「わざわざ送り届けてやる義理は無ェがな」
「まァそう言わずに、ゾロさん。せっかくここの研究所でエターナルポースも手に入ったんですし」
「旅は道連れともいうしなァ!」
ルフィの代わりに答えたのは、ワノ国の侍である錦えもん。
この島では息子のモモの助を探していたというが、なんやかんやで協力関係を結び、いまに至る。
謎の多い人物だが、なにやらたいそう切羽詰まっているらしかった。
それを見かねたルフィが彼らの次なる目的地であるドレスローザへと送ることを決めたのが、つい先ほどのこと。
とはいえ、錦えもんの仲間にいるという『忍者』に釣られたというのが理由の9割ではあるが。
一部ノリノリな一味をよそに、錦えもんにちゃちゃを入れたゾロだけは警戒を緩めない様子。
しかし彼もなにか起きたらそのとき対処すりゃあいいと傍観を決めこみ、完全な反対というわけではなかった。
ゾロをなだめるブルックとフランキーをはじめ、ほかのクルーもやり取りに頷く。
「実はおれもそのドレスローザって国に用がある。ついでに船に乗せてもらえないか?」
「ああ、いいぞ!」
「わかってる、断られるのは承知の上だが
……
え?」
かたい声で緊張ぎみに言ったロシナンテに対して、返された答えは実に軽いもの。
これがルフィのいつもの調子なのだが、それを知らないロシナンテはついつい呆気にとられてしまった。
赤子の産毛よりもフワッとしたルフィの態度に待ったをかけたのは、一味のなかでも常識人を自負するというウソップだ。
「オイオイオイオイちょっと待てルフィ!」
「なんだよウソップ」
「なんだよじゃねェよ! 簡単に答えすぎだ! あいつ海兵だろ!?」
「『元』な!」
「うるせー! あんなやつ乗せたら何が起こるかわかんねえぞ!」
ロシナンテが合いの手みたいに口を挟むと、ウソップは歯をむき出して威嚇してきた。
海賊という彼らの立場を考えると、むしろウソップの反応の方が普通なはずだが、当のルフィはどこ吹く風だ。
ナミも慌ててウソップに加勢する。
「ウソップの言う通りよルフィ! いまは海兵じゃないにしても繋がりが無いとは言いきれない。ダマされて軍艦に襲われでもしたらどうすんのよ!」
「軍艦がくるのか!? コエー!」
チョッパーが足元でワーワーと騒ぎ、ウソップも「そーだそーだ!」と拳を突き上げる。
警戒は当然だ。
十年も前に軍を辞したとはいえ、本部中佐の肩書はダテじゃない。
一味には、危険を犯してロシナンテの個人的な頼みを聞く理由など、一切ないのだ。
ウソップとナミの言い分に、ルフィが首をひねった。
ずいぶんと高い位置にあるロシナンテの顔を見あげる。
「ん? お前、おれのことダマしてんのか?」
「いや、ダマしてはないが
……
」
「じゃあいいじゃねェか」
根拠なんてなにもないのに、ルフィはそれでいいらしい。
提案したのはロシナンテのほうなのだが、頭が痛くなる思いだった。
よくこのノリで新世界まで来られたな、というのが本音である。
しかし彼ら一味の経歴と強さは本物だ。
そしてロシナンテには確実にドレスローザに行かねばならない理由がある。
なりふりなど構っていられなかった。
「ドジ男はいい奴だと思ってるけど、もし違ったとしても心配すんな! おれには2年間修業したお前らがついてるからよ!」
「ええ~~~!! ルフィお前
……
」
胸を張り高らかに声をあげたルフィに、一味は目をむいた。
熟れたリンゴのように頬を赤く染めあげ。
「や、やだも~ルフィったら、照れる~」
「そりゃあな、おれたちは頼りになるけど
……
エッエッエッ」
「スーパー任しとけ!」
「地獄の果てまでお供しますよ、ルフィさん」
「嬉しいこと言うわね」
「あったりめェだ! おれ様にまかせろ! な、ゾロ!」
「ん? あァ
……
船長命令ならしょうがねェな」
「んナミさんとロビンちゅあんは、このおれが! 命にかえてもお守りするぜ!」
「よーしお前ら! ドレスろうばに向けて」
「ローザ」
「ローザに向けて、出港だー!」
「オォー!!」
あれほどまでに反対していたクルーたちが、クルっと手のひらをひっくり返して雄たけびをあげた。
なにはともあれロシナンテの希望が叶ったのは喜ぶべきことだが、これでいいのかという感覚はぬぐえない。
目の前で繰り広げられるやり取りに、「なんて人たらしだ」と小さく唸るしかなかった。
ロシナンテの耳が、聞きなれたごついブーツの音を拾った。
振り返ると、海兵時代の後輩であるスモーカーが、葉巻をふかせて近寄ってくる。
しぶい顔を崩さないスモーカーに、ロシナンテのほうから声をかけた。
「悪ィなスモーカー。ここでお別れだ」
「アンタ、いったい何をするつもりだ?」
「
……
十三年前、北の海ミニオン島。そこでおれはドフラミンゴに、撃たれた」
スモーカーは何も言わなかった。
ただ誰がみても厳つい目をスッと細めただけだ。
「果たせなかった決着と約束にケリつけに行くだけさ」
ロシナンテは言いながら、スモーカーに火をくれと手で合図をした。
使い古した重量感のあるジッポライターのふたがカキンと澄んだ音を立てる。
ロシナンテの手には少し小さいが、よく手入れがされた良いものだということがよくわかった。
「おれは嘘つきで約束のひとつも守れない男だが」
「ああ、オマケに無鉄砲で考え無しで救えねぇほどのドジ野郎で」
「うるせェそこまで言ってねェよ! ちなみにドジは死にかけても治らなかった。筋金入りのドジッ子なんだ、おれは」
「イバることじゃねェだろ」
歯にもの着せない後輩の軽口は久しぶりだ。
懐かしくて、自然と笑みがこぼれる。
「迎えにいかなきゃならねェやつがいる。ドフラミンゴの元にだ」
スモーカーの目線は探るようなものだったが、今回ばかりは気付かないふりをした。
ドフラミンゴのことは、完全にロシナンテの私情である。
万が一にも現役海兵の彼を巻き込むことなどできない。
ロシナンテの引いた境界が分からないほど、スモーカーは野暮な男ではない。
聞こえるほどの舌打ちは手打ちの合図。
大きく長く吐き出す煙は、文句の代わりだ。
「おれはアンタに何かを言える立場じゃねェが」
野犬の眼がギロリと射抜く。
「コートに火がついてるぜ」
「うわっちゃァ! くそ、またやっちまった!」
可愛くない後輩とかつて幾度も交わしたやり取りだ。
いつもこんな感じで、情けない姿などいくらでも見せてきた。
だからきっとロシナンテは、スモーカーにとって頼りになる良い先輩ではなかっただろうに。
コートの火を消そうと雪の上をのたうち回っていると、彼の口元がスッと緩むのが見えた。
小さく動いた唇を読んで、昔のままだと改めて実感する。
これだから、これから起こることに巻き込めないのだ。
あまりに実直で、自分の正義を曲げられない男だからこそ。
借りたライターを手渡しで返す。
たった一言を添えるのを忘れずに。
「ああ、死なねェさ」
ロシナンテは怖い顔をさらに歪めるスモーカーを置いて、ルフィが手をふるサニー号へと向かったのだった。
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