お芋さん太郎
2022-06-04 12:55:30
4860文字
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マレウスの秘密

※ツイステ
※マレ監
※マレウス・ドラコニア
※性別不明監督生

以前pixivに投稿していた作品です。落書きなので続かない。

コンコン、コンコンと窓が揺れた。
談話室で山のような課題と格闘していた監督生は、小さく響くそれに気が付きハッと顔を上げる。

今宵の風は凪である。
窓を意地悪くつつく木の枝ではないだろう。

グリムはクッションの上でとうの昔に夢の中、暖炉の火は彼を照らして不安げに揺れる。
いくら治安の悪いNRCでも今まで夜襲は無かったが、用心に越したことは無い。無視するべきだ。
監督生も頭ではそうと分かっているはずだったが、今日に限ってなぜだか胸が騒ぐ。

耳を澄まさねば聞こえないほどの音なのに。
なぜだかその音に引き付けられるのだ。

すぴすぴと息を漏らす相棒を起こさぬようにそっと立ち上がり窓辺に近寄る。
手にはデュースが置いていった金属バット。
そっと窓のカギを外して小さく開き。

「人の子、人の子」

聞きなれた声を聞いた。

「人の子、人の子」

しかしそれは聞きなれない声色で、どこか縋るようなものだった。

「ツノ太郎?」
「ああ僕だ、人の子」

監督生は窓を開け放ち、自分を人の子と呼ぶ彼の姿を探す。
闇夜に紛れる黒い色合いを好む彼だが、いつもであれば2mもの身長を有するためいつも自然と目にとまる。

しかし今日ばかりは姿を探すのに苦労をした。
だってまさか未来の妖精の王が地に尻をついて窓の真下に座っているとは、さすがの監督生にも思いもよらなかった。

加えて今日は月も星も身を隠す曇天で、いつもの蛍のような緑の光も見当たらない。
監督生にツノ太郎と気軽に呼ばれるマレウス・ドラコニアの纏う黒はいつだって高貴に溢れ、こんなにも重たい闇は彼にはとても似合わない。
それなのに小さな暖炉のか細い火さえも眩しく感じられるほど、今日のマレウスは小さく感じられた。

「どうしたのツノ太郎、こんな夜更けに」

マレウスが立ち上がり、無言で監督生を荒々しく抱擁した。

驚いたのは監督生だ。
窓を挟んでいるから寄せられたのは体の上半分だけだが、強く引かれたために腕のポジションがおかしな場所にある。

それに、彼の吐息が首筋にかかってひどくむず痒い。
とてもじゃないがこんな体制は続けていられないと思った。

でもこんなマレウスは初めてだったし、監督生はどうするのが正解か、どんな言葉をかけていいのか検討もつかない。
オロオロとしているうちに、彼から焦げたような匂いと鉄の匂いが香ってくることに気がついた。

「え、ちょ、ちょっと待ってツノ太郎!変な匂いがする、これってまさか
「ああすまない」

焦る監督生をしり目に、マレウスがマイペースに体を離した。
そして室内の光に照らされた彼を見て、監督生が悲痛な声をあげる。

「血! 嘘、えっ、怪我!?」

彼はいつでも上品に制服を着こなすのに、今の風貌は酷いもの。
ジャケットはそもそも着ておらず、シャツはヨレヨレ、ホコリにまみれて赤黒いシミが派手に飛んでいた。

まったくこんなこと誰が予想しただろうか?
妖精の王になろうという人物がいかにも危険に巻き込まれたというような格好で、護衛どころか従者のひとりも連れていない。

ヒッと息を飲み慌てに慌てた監督生だったが、頼れるのは自分だけだと思い直し、窓を飛び越えマレウスに駆け寄った。

「どうしたの!? 痛いところは?」
「問題ない」
「問題しか無いよ!」
「本当に大丈夫なんだ、これは僕の血ではない」

じゃあ誰のだよ!
叫びたい気持ちを堪えて、マレウスを寮へと誘う。

「とにかく、寮にあがって。このまま放ってはおけないよ」
「いいんだ人の子。ただお前に会いに来ただけだ」
「いや、でも

瞬間、マレウスの姿は消えた。

光ひとつない暗い庭からどこへ行ったのか、監督生には分からない。
本当に、なにひとつ分からない。

ただただ友に寄り添えない自分を、虚しく感じた。
無力な人間であることを口惜しく思った。



さて、その夜からマレウスの夜の訪問は絶えなかった。
ある日は野に咲く小さな花を握って、ある日は可愛く歪んだクッキーを懐に、ある日は泥だらけになりながら。

そして彼は決まって言う。

「ただお前に会いに来た」

それはきっと秘密の逢瀬だ。
二人しか知らない、秘密の時間。

マレウスはきっと何か困り事を抱えているのだろう。
そう見当はついたものの、監督生はそれを誰にも相談できなかった。

それはマレウスがあんまり優しく笑うからだ。
少しの言葉を一生懸命に選んで、寄りかかるように発するからだ。
きっと彼はこの時間に支えられていて、この時間がなくなったら潰れてしまうのだろう。

それだけは避けなければならなかった。
次の日も彼がマレウス・ドラコニアでいるために必要な逢瀬なのであれば、それを彼から奪うことは監督生にはできなかった。
何も聞かずに頷いて、彼の言葉を待つことしかできなかったのだ。

「人間! 話がある!」

あれから何日かが経った昼休み、セベクに声をかけられた。
シルバーと、リリアまでお出ましだ。

ああマレウスの事か、と直感でわかった。

「あやつも子供ではないからの、口出しはあまりしたくは無いんじゃが」
「しかしマレウス様は寮長という立場。こうも深夜に出かけられては寮生達にも示しがつかない」
「お前は人間という立場でありながらマレウス様とは良好な関係を築いているからな!」
「もし何か知っていることがあったら教えてほしいんじゃ」

彼らがマレウスを心配する気持ちもわかるが、当のマレウスが話していない以上監督生が話せることは何もない。
どうせ自分だってなにも知らないのだから。

もし知っていたとしても正直には答えなかっただろう。
そう思ってしまうほどには監督生にとっても、マレウスの夜の訪問が心地よい時間になっていた。

だから「マレウスの気持ちを尊重して」なんて自分に言い分けて、きっと適当に受け答えたに違いなかった。
監督生は伏せ目がちに、指のささくれをいじりながら彼らの話を流す。
彼らが必死になればなるほど監督生の心は奥へ奥へと落ちていく。

「本当に何も知らないのか、人間!」
「セベク、ツノたマレウス先輩は、セベクのことを心から信頼していると思うよ」

上目に見る3対の瞳は彼への想いに充ち、どれもこれもが太陽みたいに輝いて見えた。

いっぽう自分は、水面にべったり張り付いた月だ。
その光はまやかしで、ただゆらゆら揺らぐ水面を叩くだけ。
キラキラした薄っぺらい優しさで慰めた気になっても、そこには何も存在しない。

監督生はなんだか急に惨めな気持ちになって、ぷいとそっぽを向く。
何か言いたいはずなのに、固く結んだ口からは言葉の1つも紡がれなかった。

「監督生?」


シルバーの昼休みのそよ風のような声が耳を撫でる。
監督生は心地よい響きに口を少しだけ開き、熱く長い息をひとつ吐いて、逃げるようにその場を去った。

友人に隠し事をしているのに心はまったく痛まなかったことが妙に悲しい。
しかし同時に、マレウスの秘密を守るれたことに安堵した。



「人の子、人の子」

そしてその夜もマレウスはやってきた。
彼の無事な姿を確認してホッと胸をなでおろし、いつものようにそばに駆け寄る。

「ツノ太郎、今日も来たんだ」
「だめか?」
「ダメじゃないよ。でもリリア先輩たちが心配していたから」

マレウスの手を取りそう伝えると、彼の瞳にまつ毛の影が落ちる。

きっと彼はいま迷子になっているんだ。
監督生は心中でそれを確信していた。

迷子だから、毎夜ここに来る。
自分に、会いに来る。

茨の谷の次期王などではなく、誰かの君主でもない、ディアソムニア寮の長でもない。
ただのマレウスでいるためにここに来る。

きっとどこの誰でもない「監督生」に背中を押してもらいたいのだろう。
立ち上がるための情熱と前へ進むための勇気をちょっとずつ小分けにして、それを「その時」に彼に手渡すのが自分の仕事。
それが、今の彼にとって必要なことなのだ。

マレウスが手を握る力を少し強め、躊躇うように口を開く。

「しかし……いや、待て」
「? どうし「シっ!」

マレウスが言葉を切って顔を上げ、監督生の疑問すら制する。
黒い影の落とす木々のざわめきが消えた。
空気がピンと張りつめる。

寒くはないのに手のひらにジワリと汗がにじんだ。
マレウスが監督生を背にかばい、マジカルペンを構える。

来る、と思ったその時。
寮の裏手の森で何かが動いた。

そいつはまるで人の悪意のように、音も無くスルスルと滑るように忍び寄ってくる。
毛むくじゃらで、長くて丈夫な尻尾が揺らぎ、6本の鉤爪を使って地を這うサソリのような形の化け物だ。
体長はマレウスの3倍はある。

ゆっくりと、しかし確かな足取りで近づいてくるそいつの眼は黄土色に鈍く光り、気色の悪さに拍車がかかっている。
交互に動く足。獲物を求めて宙をさまよう尻尾の先。
監督生はそれらから全く目を離せずにいた。
目を逸らした瞬間に殺されると思った。

頭の奥でガンガンと警鐘が鳴る。
動くことはおろか、声を発することさえも息をすることさえも忘れて、猫に睨まれたネズミのようにただ時が過ぎるのを待つばかりだった。

「大丈夫だ。僕がいるから怖がるな、人の子よ」

100年の氷も解けるような声が耳に届く。
ギュウと抱きすくめられた温もりが体に染み入る。
ゆるりと触れられた頬がかすかに熱を持つ。

そしてマレウスは、ぱちくりと開かれた監督生の瞳にひとつだけ微笑んだ。

「すぐに片付ける」
「ツノたろ

掴もうとした手は届かなかった。

マレウスが化け物に一歩近づくと、監督生の足元に防衛魔法の陣が浮かんだ。
もう一歩近づくと、彼の制服が漆黒のAラインドレスに変わる。
腰の部分でキュッと細く締まり、上半身は細かなレースで飾られている。
裾にはスパンコールの星がチラチラと華やかに散っていた。

さらにもう一歩。
頭に茨の冠を、靴が深緑のヒールに変わる。
ただでさえ見上げるほどの身長がさらに高さを増した。
それでも彼は歩みを止めない。

最後の一歩で、マジカルペンが杖に変わる。
彼を象徴する、地味で無骨なドレスに似合わない糸車の杖だ。
最強の杖だ。

「僕の縄張りに入り込むとはいい度胸をしている。誉めてやろう」

マレウスは巨大な化け物を前にしてひとつも臆することなくそう言った。

すると化け物は足を苛立たし気にカチカチと鳴らしながら、なんと声を発した。

「不遜な態度モ今のうちダ。今度コそ、お前を、殺スフェアリー・ゴッド・マザー!」
「ほう面白い。僕がお前に後れを取るとでも?」
「黙レ!殺ス殺ス殺ス殺ス!」

化け物が尻尾を振り上げマレウスめがけて一気に下した。

同時にマレウスが杖を振るとピカピカと輝きが舞い、大きなピンク色の風船が現れた。
尻尾は風船に弾かれて跳ね返り、すぐさま風船は爆発。
衝撃で森の木々がザワザワと揺れた。
続いて赤と青と黄色のリボンが化け物を縛り上げる。
化け物の関節がギシギシと不気味に唸る。

「大きいのは威勢と図体だけか?」
「殺ス殺ス殺ス殺ス!」

マレウスが冷笑しながら「とどめだ」と呟き杖を振り被り。
しかしそれを振り下ろすことは叶わなかった。

化け物が突然倒れ伏したからだ。
倒れた化け物の影からは3つの影。
リリア、シルバー、セベクだった。

3人ともが武器を構え、そしてこれでもかというほどに目を見開いていた。
化け物を倒したはいいものの、マレウスの姿に心底驚いているのだ。

「マレウス、お主
「まさか、わ、若様が
「フェアリーゴッド・マザー?」

マレウスは目をスッと細め、静かに肯定の意を示した。




続かない