ユングフラウ
2024-09-29 22:50:51
3535文字
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削除バス

5~6年前に書いたものです。
色々とおかしい部分はありますが、そのまま載せます。

 とにかく私はこの世から消えていなくなってしまいたかった。
割と良好な関係である私の家族。でも時々、父が母と言い争いになっているのを聞くのが耐えられない事もあった。
あとこれはなぜだか分からないのだけれど私には二十歳までに死にたいという願望があった。
そんなこんなで私、高村榊は思った。そうだ、うわさで聞いたあの伝説を試してみよう、と。
バス停伝説と呼ばれている都市伝説を。

「実那はさバス停伝説って知ってる?」
私は友人である定明寺実那にそう聞いてみた。
「あっ、それ聞いたことあるよ。そんなこと聞いてどうしたの榊?」
「試してみようかなーなんて。まぁ、冗談だけどさ」
実那の質問に私はそう答えた。
「冗談でもそういうこと言うもんじゃないよ、榊ー」
「アハハ、ゴメンゴメン」
今の受け答えは不自然じゃなかっただろうか。と、話し終えて席に戻ってから私は思う。
今日は条件がそろう金曜日。伝説を実行するにはちょうどいい。
実那には伝説を実行することは冗談だと言った。
嘘ついたのバレてないかな?多分大丈夫だよね。
話を戻そう。伝説の内容はこうだ。
平日の上りの時刻表の最終の一時間後。金曜日限定で運転手以外誰も乗っていないバス会社のバスが発車される。
そのバスに自宅の最寄りのバス停(二ヶ所ある場合はよく利用する方)から乗って終点まで下りずにいると自分はこの世には存在していなかったことになるというものだ。
 誰が考えたのかは知らないこの伝説。今の私にはピッタリな伝説だ。
上りの最終はいつだったかな。そう思いながらスマホをスカートのポケットから取り出し、ギャラリーから最寄りのバス停の時刻表を撮影したものを探す。
「あった」
えっと、上りの最終は十八時四十五分。ということは十九時四十五分に存在しないバスが来るはずなのか。
もしバスが来なかった時はどうしよう。そのことについては後で考えてみても遅くはないかも。
とにかく誰にもバレないように実行しなくちゃ。

その日の夜――
私はいつものように母が用意してくれた夕飯を食べた。夕飯は冷しゃぶだった。
その後、母が洗った食器を拭いて片付けてから私は自室に戻る。
そしてパジャマ代わりに着ているTシャツとハーフパンツを脱ぎ、出掛けるための服装に着替える。
半袖のパーカーと黒のスキニージーンズ。これなら問題ないだろう。
「そういえば終点の運賃はいくらだったかな」
そう思った私はスマホを手に取り、バス会社の社名を検索して公式サイトにアクセスしてみた。
「えっと、運賃、運賃……。あった」
運賃と書かれたところをタップしてページを開く。出発地と目的地を入力する画面が表示されたのでそこに出発地と目的地を入力して検索と書かれたところをタップした。
検索結果には五百二十円と表示されていた。
この金額を用意して家を出れば終点でもし料金を払うように言われても大丈夫なはず。
私が運賃を検索したのは伝説を試しに行くとはいえ何が起きるか分からないと思ったからである。
 検索を終え、画面の右隅に表示されている時計で時刻を確認する。時刻は十九時二十分を指していた。
どこにも寄らなければ家を出るまで十五分程余裕がある。でもバス停に向かう途中、水くらいは買っておきたい。あまり時間をかけなければコンビニに寄ることもできる。
そう思った私は十九時半に家を出ることにした。
 バスの運賃も含め、必要最低限のお金を入れた財布。そして愛用の携帯音楽プレイヤーとヘッドホン。その三つをボディーバッグに入れて出掛ける準備をする。
あっ、一応スマホも持っておこうかな。パーカーのポケットにでも入れておけばいいか。
スマホをパーカーのポケットに入れようとした時だった。聴き慣れた着信音が鳴り響いたので画面を確認してみる。
実那からのLINEだった。「突然だけど明日、空いてる?」と表示されていた。
返信をタップしてアプリを開く。「ゴメン、明日は予定が……。」とウソの返信をする。
返信を終えて画面の右隅に表示されている時計を見る。そろそろ家を出ないといけない時間になっていた。
スマホをパーカーのポケットにしまい、ボディーバッグを背負う。誰にもバレないように気をつけながら家を出た。
 途中、家の近くのコンビニへと立ち寄ってお気に入りのミネラルウォーターと駄菓子のチョコレートを買った。
コンビニを出てすぐまた聴き慣れた着信音が鳴り響く。実那からの返信だろうと思い画面を確認するとその通りだった。「そっかー。いきなりそんなこと言いだしてごめんね。」と表示されていた。
私は既読無視をしてアプリを閉じた。
スマホをパーカーのポケットにしまいなおしてバス停へと向かう。
バス停に着くと私はパーカーのポケットからスマホを取り出して時刻を確認する。
時刻は十九時四十二分だった。
あと三分でバスが来るはずなのか。そうだ、持ってきた音楽プレイヤーで音楽でも聴きながら待つか。
ボディーバッグからヘッドホンのついた携帯音楽プレイヤーを取り出して電源を入れる。
起動する間にヘッドホンを装着して準備をしておいた。
メニュー画面が現れたので音楽を選択し詳細なメニュー画面を表示する。
曲の所から適当に選んで再生を始める。
そんなことをしながら待っているとバスがやって来た。
 乗車口が開き、私はそれに乗り込む。適当な座席に座るとバスは発車した。
音楽を聴きながら窓の外を眺める。何だかいつもとは違う感じがしてまるで異世界にでも迷い込んだみたいだ。この時間帯だからなのかは分からないが人の姿はあまり見えない。
時々、コンビニで買ったものを飲食し、音楽を聴きながら揺られること数分。窓の外の景色はいつの間にか見えなくなっていた。
そのことに関して私は何故か疑問を持たなかったし、怖いとも思わなかった。
それから三十分程経った頃、バスは終点へと近づいていた。
もう少しで停車というタイミングで窓の外から光が差し込んできた。光が差し込んできた後、バスの車体が急にガタガタと揺れ始める。
地震ではないな、何だろう……



 夏のある夜。高村榊という少女は何処かへ消えてしまった。
彼女は最初からこの世には存在していないことになるはずだった。誰に聞いたってそんな子はいたかなという存在になるはずだった。
でも何故なのかは分からないが一人の少女の記憶の中には存在し続けていた。その少女の名は定明寺実那である。

「あれ、榊の消した覚えなんてないのになぁ。おかしいなぁ」
実那はスマホの中の電話帳を見ながらそうつぶやく。
「電話番号は覚えてるし、直接番号入れてかけるか」
番号を入力して発信をタップする。
三回ほど鳴らしたところで相手が受話器を取ってくれた。
「もしもし、高村です」
「定明寺です」
次の日になっても榊からのLINEの返事がなく心配になった実那は榊の家へ電話をかけていた。
「あら、実那ちゃん。どうかしたの?」
「えっと、榊いますか?」
「何言ってるの実那ちゃん。榊なんて子、うちにはいないわよ」
「えっ……
どういうことなんだろう。榊とは昨日まで何の問題もなく話していたじゃないか。
「嘘ですよね、おばさん!わたし、昨日まであの子と話したりLINEもやり取りしてたんです!」
「ごめんね、おばさんの家には本当にそんな子いないの」
おばさんがわたしに怒るでもなく優しくそう言うのでなんだか申し訳ない気持ちになる。
「ありがとうございます。失礼します」私はそう言って電話を切った。
関根だったら覚えてるかな。おばさんとの電話を終えそう思ったわたしは関根に電話を掛ける。
「あっ、みー、どうしたの?」
「じつは榊と連絡取れなくなっちゃってさ。LINEも既読はついてるんだけど返って来なくて。関根知らない?」
「榊?誰それ?みーったら何か悪いもんでも食ったの?」
「関根、ホントに覚えてないの?わたし達部活も一緒で仲良かったでしょ?」
「だから知らないって。話はそれだけ?他に用がないなら切るよ」
ツーツー、と音がする。関根に電話を切られてしまった。わたしが「待って」と言う前に。
昨日のやり取りはまだ残っているだろうか。期待しながらLINEを開く。
「えっ……、何で……
名前はどこにもなかった。誰か嘘だと言ってくれ。
まさか……。ある考えが私の頭の中によぎる。
「ねぇ、嘘だよね榊……。昨日、冗談だって言ってたじゃない……
冗談が冗談でないと気がついた私は泣いた。
そしてわたしはこう思うのだった。
「待っててね榊、今すぐ会いにいくからね」