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じべ田
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うちよそ妄想
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X2U 怪盗探偵自陣の小ネタ
大正浪漫 X2U 怪盗×探偵 げんみ✕
//////////////////////////////
時代考察等々が正確かは調べ切れていないので、あいまいなところあるかと思うけど「こうだったら」ぐらいで!
電話だしたかったのと、偽物ネタを扱いたかった。
X2U 怪盗×探偵 げんみ✕です。
//////////////////////////////
月が欠ける夜。
広い屋敷内をぜぇぜぇと荒い息を吐きながら逃げる黒い人影が一つ。
「待てやゴルァ!!」
そんな影を追いかけて荒っぽい声を吐き捨てるのは、薄暗い夜でも映える金色の髪をした青年だ。
その表情は疲れが抜けきっていないものの、どちらかと言えば「怒り」がむき出しである。
誰もが一目見れば「捕まったら危険」と思わせるほどの血走りっぷりだ。
その形相を目にした影は一瞬ばかりヒッ、と悲鳴を上げるもののすぐに長いコートを翻してポーズを決める。
「ふ、ふははは! ちょっと勢いがあり過ぎじゃないかな、この怪盗ブラッ
…
」
「うるせぇテメェがあいつを名乗るんじゃねぇ!!」
パァン!!
青年が腰に手をまわし、何かを掲げて音を響かせる。
それは天井に向けられて放たれた拳銃の発砲音だ。
「
……
ひぇ」
「いいか、お前が偽物だってのは分かってんだよ。いい加減にしろよコンチクショーが。こちとら連日連夜引っ張りだこで疲れてんだ、大人しくしやがれ」
「な、なななな
……
」
上に向けていた銃口を真っすぐに向け直し、青年は木の床を踏み鳴らしてゆっくりと人影へと近づいていく。
窓から零れる薄暗い月明かりに金色の髪と、据わった紫紺の瞳がかすかに照らされ、揺れた。
「はい、そのままそのまま。大人しくしろ」
口調は静かだが目つきが怖い。
これが探偵か?
そんな疑問が男に浮かんだが問いかける余裕はなかった。
銃口はそのままに、青年が男の帽子と目元を隠していた仮面を取っ払う。
「
………………………………………………
」
そうして、じぃっと無言のまま細められた視線で男を見据え。
「
……
あ、の
……
」
視線の強さに耐え切れなくなった男がポツリとこぼす。
が、青年は盛大なため息を吐いて視線をそらし。
「やっっっっっっっぱりアイツじゃねぇじゃねぇか、クソが。まぁおっさんの時点で違うって分かってたけどよ」
おっさん。
その言葉に男はヒクと頬を引きつらせる。
「わ、私はおっさんなどではない! かい
…
」
怪盗ブラックキャットなのだ!
そう続けようとしたものの、青年の視線の殺意が増したので言葉を止める。
「
……
もういい。お前が偽物だって確定したからな。サツに渡すわ」
「へ?」
――
ゴッ!!!
間抜けな声を発した瞬間、青年の手が素早く上がり、そのまま振り下ろされる。
頭に響いた衝撃の痛みを認識する間もなく、男は明々する視野の中で意識を昏倒させていく。
せっかく怪盗騒ぎに便乗して金目の物を取ろうとしたのに。
そんなあさましい魂胆は、目の前の青年によって力づくで止められることとなった。
+ + + + +
「あーぁ、やってらんねぇぜ」
ペラペラとテーブルの上を埋め尽くす手書きのメモや資料を広げながら、ハジメは一人愚痴りながらペンを走らせる。
机にばらまかれた紙たちは最近溜まっていた依頼のためのものだ。
ここ最近、ちょっとした別件が積み重なったせいで報告が滞っており、それを解消するためにハジメは頭を掻きむしりながら手を動かしているのだ。
「ったく、この忙しいときに重ねてくるんじゃねぇよ
……
」
ブツブツと誰もいない室内で呻きつつも手を止めないのは仕事に慣れてきた証拠だろうか。
目つきは若干良くないが、それは寝不足によるもので決して現状の忙しさへの不満ではない。
いや、もしかしたら少しばかりは仕事への不満もあるのかもしれないが、それを知るのはハジメ当人のみだ。
「えっと島崎さんへの報告書はこれでよし。相田のばーちゃんは
……
これでいいだろ。あとはぁ
……
」
書類を次々と封筒へまとめ、封を閉じていく。
起きた時に比べて減った書類の山に少しばかりの解放感を覚えつつ、ハジメは肩に手を当ててゴキゴキと首を鳴らす。
数時間にわたって机に向かう作業は嫌いではないものの、探偵として体を動かすことも多くなった今としては久しぶりのものだった。
ゆえに疲れたのだ、単純に。
「っあ~~~~~
……
茶ぁ飲もう
……
」
依頼主の金持ちからもらったいいお茶があったはずだと思い出し、机を離れて湯の用意を始める。
開けた缶からは良い香りが立ち上り、少しばかりの気疲れを取ってくれるような気がした。
湯を注げば湯気に交じってさらに香りが強くなっていく。
「ほんとにいい香りだなぁ。よくわかんねぇ俺でもうめぇって思うもん」
急須から湯飲みに茶を注ぎ、席に戻って一口すする。
暖かさと香りに思わず大きく息を吐き出して味を堪能していると、事務所の扉がトントントン、と叩かれた。
その音にハジメは湯飲みを持つ手を宙で止めつつ、扉を見つめて何度か瞬きを繰り返す。
今日は書類仕事に精を出そうと扉の前には「休業」の看板を下げているはずだ。
まぁ焦っている依頼人であるならそんなもの関係なく飛び込んでくるのは来客はあり得るのだが、それにしては叩き方が丁寧だった。
(性急な客じゃなさそうだな
……
それなら
……
)
そんな丁寧な叩き方をする人物に思い当たる節があった。
あったので、呑気に茶をすすりながら扉が開くのを待った。
なぜなら、その人物にはこの事務所の鍵の一つを渡しているからだ。
理由はいたって単純。
仕事のために事務所を空けていたら、その時訪ねてきた彼に微妙に嫌味を言われたからだ。
せっかく足を運んだのにだとか、客を待たせるなんて失礼じゃないか、だとか色々と。
嫌味のつもりはないのだろうが、ハジメはめんどくさいなぁと思った。
ので、その人物の『裏事情』を知っている自分の部屋で悪さなどしないだろうと鍵を渡したのだ。
仕事に関わる書類に手を出さないなら好きに出入りしろ、と。
なので、今こうやって扉を叩く人物相手ならわざわざ出迎える必要性がないと判断できた。
鍵を持っているはずだから開ければいいと。
案の定
――
少しの間を置いてがちゃりと鍵が差し込まれる音が響き、続いて扉の開錠音が耳に届く。
「っと、やはりいたね。やぁ、名探偵。邪魔するよ」
開いた扉の合間から顔を覗かせたのは、思っていた通りの人物
――
黒崎拓三その人であった。
「へいらっしゃい、今日は休みだ」
「看板かかっていたね、具合が悪いわけでもなさそうだが。どうした?」
「色々あってな。悪ぃけどマジでかまってる暇ねぇんだ」
ゴトリ、と湯飲みを机に置き、立ち上がって出迎える様子もないハジメに黒崎はわずかに首をかしげる。
普段であるならある程度忙しかろうと仕事机から立ち、応接のソファへと移動して歓談に付き合う青年なのに。
「おや、せっかく食事を持ってきたんだが? 赤い看板のカフェーの奥にできた店だ。サンドウィッチが美味しくてね」
「そりゃどうも。じゃあ食いながら仕事する」
「
……
ふむ、本当に忙しいようだ」
おやおやという雰囲気の黒崎に、思わずハジメは肩を落として盛大にため息を吐き出す。
「あのな、誰のせいだと思ってるんだ?」
「俺が何かしたかな? 最近はキミを吹っ掛けるようなことはしていないはずだが
……
」
それはおそらく『予告状を出していない』という意味だろう。
実際に、それは本当だ。
ここ数日
……
いや、一か月ほどの間、ハジメはブラックキャットに関しての事案に絡んでいない。
そう
――
『本物』のブラックキャットについては、だ。
「お前なぁ、知らないわけじゃねぇだろ」
「何がかな」
「偽者だよ、偽者」
「あぁ、その件か」
紙袋からサンドウィッチを取り出し、そっと一つをハジメに差し出す黒崎は意味深に笑みを深くする。
「
……
知ってんじゃねぇか、その顔」
「まぁもちろん、知らない理由がないな」
出されたそれを受け取り、一齧りしてハジメは眉間のしわを深くする。
「だったらどうにかしろや。俺が駆り出されて大変なんだよ」
「なぜ俺がどうにかしないといけないんだ。偽者が勝手にやっていることじゃないか」
「そうかもしれねぇけど! でもお前が鶴の一声じゃねぇけど
……
こう、なんかやらかしてくれたら減ったりしねぇかなって」
「なんだいそれは
……
別に偽者は俺が用意したわけでも、依頼してやってもらっているわけでもない。勝手に増えているだけだ」
「そうだけど
……
そうかもしんねぇけど!」
あくまでも「他人事」である黒崎の態度に、ハジメは怒りと悲しみを綯交ぜにした表情で立ち上がり詰め寄る。
「知ってるか!? お前が大人しくしてる間に数人の偽物が暴れまわって俺は睡眠不足だし仕事も滞ってんだよ! 警察は予告状が来たら俺に連絡してくるけど、俺にゃお前からの予告状が来てるわけでもねぇからいつも突然だしよ
……
おかげで大変なんだぞ!」
「ご苦労なことだ。まぁそれがキミの仕事だからしかたがない」
「お前なぁ
……
」
にこりと、心の底から「他人事だから知らん」と突きつけられてハジメは眉尻を下げて椅子に腰をドカリと落とす。
「ったくよぉ。お粗末な侵入方法だったりやり口が雑だったり
……
『ただの泥棒』過ぎてこれにいちいち呼ばれてたら体もたねぇっての」
「ふぅん
……
」
サンドウィッチを齧り終えたハジメの顔をマジマジと見つめていた黒崎だったが、ふいにその手を伸ばして顎をガッと鷲掴みにする。
「ぶッ! なんだよ、サンドウィッチならもう飲み込んだぞ!」
「そうじゃない
……
ふむ
……
」
「
……
なんすか
……
」
じぃっと己を見据えてくる黒曜のような瞳を見つめ返しながら、ハジメは瞬きを何度か繰り返す。
しばらくしてそっと離れていった手を視線で追いつつ、挟まれていた顎を擦っていると「確かに」と彼が小さくこぼすのが聞こえた。
「目の下に少しばかり隈があるな、らしくない」
「寝不足だっつってんだろーが
……
」
「キミほどの体力バ
……
健康優良児でそれほどとは。もしや俺が思っている以上に偽者が多いのか?」
「お前今バカって言おうとしたな?」
「そうなると
……
新聞に載っていない事案もあるのか?」
「偽者か? あぁ、もはやただの泥棒じゃないかって記者がつまんなそうに帰ることもあったしな」
「ふむ」
つまんなそうに。
その単語に黒崎の眉がピクリと反応したのをハジメは見逃さなかった。
「いいのかぁ? せっかく騒ぎ立ててくれてる記者共が『ブラックキャット』から興味を失っても」
「それは確かに困るな」
ハジメの意図する言い回しに黒崎が気が付かないわけがなかった。
彼の果たすべき目的は「ブラックキャット」の名が世間に知れ渡っていなければ意味をなさない。
まして興味を無くされるというのはもっとも避けたい事態であろう。
「とはいえだ。俺に偽物の出現情報は入ってこない。キミに予告状を送っているわけでもないのであれば、俺はほぼ新聞などの事後報告と騒動でしか知り得ないのは致し方ないだろう?」
「まぁそうなんだけどよ。何も連中全員が『明日盗みます!』なんてアホ言ってるわけじゃない。大体は猶予がある。暇作っといてくれりゃ俺の連絡が間に合って、運良くカチ会えるかもしれないぜ?」
「それはそうなんだろうがねぇ
……
」
「なんだよ、ノリ悪いな」
良い案じゃないかと思っていたのに、渋った様子の黒崎にハジメは肩を竦ませる。
「カッコ悪くてお間抜けな偽物を本物が締め上げる! お前の株がさらに上がるってもんだろ?」
「へぇ、俺の株が上がっていいのかい?」
「そこには突っ込むな。お前の気分を盛り上げるためだ」
「上げたいのか落としたいのかはっきりしたまえ」
無駄に素直な感情を口にするハジメの様子に、黒崎は呆れながらも眉尻を下げて笑う。
が、誘いに乗りにくい事情というのがあるのもまた事実で。
「キミの誘いは嬉しいんだが、あいにく俺が今『動いていない』のはそれなりの事情があるのさ」
「事情って
……
」
「わかっているだろう? 俺は俺なりに『忙しい』。金持ち共に泡を吹かせなければ気が済まないし、キミに捕まるわけにもいかないからね」
にこりと微笑む黒崎の言い回しに、ハジメはかすかに唇を尖らせて無言を返す。
それが「知っちゃいるけど」という返しになるとわかった上で。
彼が『ブラックキャット』として身を潜めているということは、裏の顔で世に紛れ、人々を欺いて虎視眈々と準備をしているからだ。
それらの準備が、一重に彼を『怪盗』足らしめるに必要なことであることをハジメは理解している。
だからこそ黒崎の言いたいこともわかっている。
偽物なんかに時間を割いて、本命の金持ちに絡む情報を入手する機会を失いたくない。
そういうことだ。
「
……
それはわかっちゃいるんだが」
ガリガリと爪を立てて髪を掻き毟り、ハジメはどうしたもんかと眉間のシワを深くする。
黒崎が普段、どのように世間に紛れているのかは掴みきれていない。
だからここから去った彼の跡を追ったとしても意味がない。
『黒崎拓三』でも『ブラックキャット』でもない彼をハジメは知らない。
初めて出会った豪華客船での姿以外は。
しかしである。
自分の仕事に支障が出ている現状をそのままにはしたくないし、そもそも愉快犯が蔓延っている原因はどうあがいても彼にあるのだからやはり納得がいかないのも事実だった。
「俺はお前は捕まえてぇけど他はどうでもいいんだよなぁ、ぶっちゃけ」
「そんなことを言っていいのかい、名探偵。記者も世間も泣くだろうに」
「いやもう数が多くてどうでも良くなったってのが正しいな、うん」
記者が飽き始めているのだ、世間だっていずれそのようになってしまうだろうに。
本音を言えばハジメだって世間が『ブラックキャット』から興味を失うのは避けたいところだ。
それは己の名声のためではなく、彼が描き続ける夢のためでもあり、それがいずれきっと世に意味をもたらすと信じているからだ。
そしてそれを追う自分がいれば、その効果はさらに増すだろうと感じているから。
「ったくなぁ。どうしたもんか
……
」
腕を組み、云々と首をひねり出したその瞬間だった。
室内にけたたましい鈴の音がジリジリと鳴り響いたのは。
「うわ、なんだい!?」
サンドウィッチを齧ろうとしていた黒崎が、珍しく慌てた声色を零す。
同じようにビクリと肩を揺らしたハジメであったが、音の出処にすぐに顔を向けて腰を上げる。
「あぁそうか。お前がいるときに鳴るのは初めてかもな」
「
……
なにがだい?」
「電話だよ、で・ん・わ」
あまり聞き慣れない単語に首を傾げていた黒崎であったが、ハジメが足を止めた先の机の上にあるものに気づいて大きく目を見開いた。
決して小さくはない、黒い四角い塊とコの字のような取手。
金持ちや大きな店などでは目にすることがあった、音声でのやり取りを可能とする装置だ。
それがハジメの事務所の片隅に置かれているという現実に、黒崎は珍しく驚いたままかたまってしまった。
なにせこれを所持するにしても相当な金がかかるはずだ。
ハジメの生まれを思えば持てなくもない代物だろうが、家との関わりを絶ち、援助すら拒んでいる彼が
これを手にする要素が思いつかなかった。
いや、何気に探偵業がうまく行っているのは把握している。
それなりに稼いでいるであろうことも分かっているが、ハジメ自身がこういったものを欲しがっている様子もなかった。
それがどうして、と黒崎は不思議でならなかった。
そんな黒崎を横目に、ハジメはどこかめんどくさそうに目を細めながら黒い取っ手を取り上げて顔の横へと押し当てる。
「はい、あり
……
あ、はい、っすよね。繋いでください」
口調もどこか投げやりで、黒崎はどうしたのかと目を細めつつ様子を伺う。
「
……
あ、ども
……
あぁ、はぁ、ですよね。その話でしか電話使ってねぇですもんね
……
えぇ、はい
……
」
丁寧な言葉ではあるが、声色はまったくもってやる気がない。
ちらりと時折彼の紫紺の瞳が黒崎を捉えるものの、言葉を出し始めるとそれは泳ぎ、宙に向けられる。
「あのー、いつも言ってますけどそれも偽物で
……
まぁ、それはそうですよね
……
いやそりゃヤツを追ってはいますけど偽物となると
……
」
『偽物』。
出された単語に黒崎は合点がいった。
これは自分の、ブラックキャットの『偽物』が現れたという連絡であり、対処をハジメにしてもらおうという相手からの依頼なのだろう。
電話の向こうの相手が金持ちなのか警察なのかは分からないが、ハジメがどえらくやる気がない様子からして確定とみていい。
(かわいそうに
……
)
電話があったという驚きが落ち着き、黒崎はフッと息を吐き出して笑みをこぼす。
当然だ、本物の『ブラックキャット』である自分がここにいて、そして自分は予告状を出していない。
というのであれば、彼が受けている話だって当然偽物からだと丸わかりだ。
それはハジメだってわかっていることで、ちらちらとこちらを見てはめんどくさそうに相手に説明をしている。
のだが、向こうもなかなかにしつこいらしく、会話が途切れることはない。
「だーかーらー、ほんとのほんとに偽物だから! 警察だけで警備してりゃ捕まえられますって! なんでって
……
だからそれは、なんつーか勘といいますか、アイツらしくないっつーか
……
」
どうしたらいいんだと首を掻き毟りながら、ハジメは思案する。
何というタイミングか、黒崎がいる状況で『ブラックキャットの予告状が!』と警察からの電話なのだ。
「ありえねぇわ!!」と声を大にして叫びたいし、さっさとそう言い切って電話をぶっちぎってやりたいのだが、それをどうしてだと言われると言葉に詰まる。
当たり前だ。
『今まさに事務所にブラックキャットがいますんで』なんて言えるわけがない。
本人から出しましたって言われてません、などと言えるわけがないのだが、警察に送られた予告状は天地がひっくり返っても本物に変わることもない。
(助けてくれよぉ)
そんな泣き言を思いながら何度か『本物』に目配せをするものの、電話への驚きがなくなった彼は最早「俺には関係ない。頑張れ名探偵」という空気をまとっている。
視線が生暖かい、というか楽しんでいる、絶対に。
(誰のせいだと思ってんだこんにゃろ〜〜〜!!!!)
その表情が、なんとなくムカついた。
ムカついたので、巻き込んでやろうじゃねぇかと悪知恵が働いた。
「
……
あ、ちょっと待ってください。俺にいい考えがあります」
天才では? 俺すごくね?
そんなことを思いながら唇の端を釣り上げるハジメと、そんな表情の変化に気付いて目を細める黒崎。
「いえね、ブラックキャットが大好きなあまりアイツを研究してる情報通が俺の知人にいまして
……
」
そんなことを言いながら、紫紺の瞳が細められながら黒崎をがっちりと捉える。
「丁度今日、顔を合わせることになっていたんでそのままそちらにお邪魔して、今回の予告状が『偽物』であると俺と一緒に解説してもらいますよ。ご安心を、彼も今までの『偽物』も見破っていますから
……
」
何を言ってるんだコイツは、嫌な予感しかしない。
ニンマリと笑うハジメの視線に黒崎の頬がピクリとひきつる。
こちらを『ブラックキャットに詳しい情報通』として警察に同行させるつもりか。
逃げよう。
本物だ、などと言って突き出されることはないだろうが、面倒くさいことに巻き込まれるのは確定している。
さっくりとそう判断し、席を立とうと腰を上げたもののハジメがものすごい勢いでその腕を掴みにかかる。
「電話は済ませた。逃げんな、俺と一緒に来い」
「怪盗に警察に行けと? 相変わらずキミの冗談はつまらないなぁ」
「アホか!! お前を本物だなんて言っても証拠もなんもねぇ!! ただひたすらに今回のやつも偽物だって解説しろ!! 俺はお前以外のやつに振り回されるのはごめんなんだよ!!」
「へぇ、俺は振り回していいのかい」
「揚げ足をとんな! いいからとにかく一緒に来てもらうからな。なんなら偽物の情報が手に入るんだ、本物としてどうにかしてくれていいんだぜ?」
「探偵が怪盗を頼るんじゃないよ」
「お前がもうちょい早く偽物に対してなにかしてくれりゃ、俺だってこんなことしなかったわい!」
「おやおや、責任転嫁とは
……
名探偵の誇りが廃るのでは?」
「お生憎様だな。俺は事件が解決するのであれば手段は選ばないぜ?」
「偽物なんて事件でもなんでもないだろう」
「事件だっつの!! っつかな、俺は腹が立つんだよ!」
「腹が立つ
……
何にだい」
ぐいぐいと腕を引く手を引き剥がそうとするも、その力はなかなかに強い。
しばらく話を聞いてガス抜きをしてやって、どうにか逃げようかとため息一つをついて続きを促す。
どうせ何もしない自分に対してだろうと黒崎が顔を曇らせるも、ハジメが口にしたのは意外なものだった。
「俺はな、盗みは許さないし悪いことだと思ってる。だからお前は捕まえる気でいる」
「知ってるさ。なんだい、藪から棒に」
「うっせ。お前が選んだ手段は嫌いだ、でもお前の『夢』は認めてる」
「
…………
」
「腹が立つのはな、そんなお前の『夢』なんて知りもしないクズが『ブラックキャット』の名前を弄んでることなんだよ! 挙げ句、それにつられて周りがお前の評価を下げることも気に食わない」
小さい瞳がじぃっとこちらを見据える。
その視線が、言葉のすべてが本心だと伝えるに十分なものだ。
「そんでもってな、お前がそれを良しとしているのも嫌なんだよ。もっと誇りを持て」
「
……
キミに怪盗の矜持を語られるとは思いもしなかったなぁ」
「茶化すんじゃねぇ、タコ」
視線を外し、肩を上げて溢せば腕が開放される。
真面目に語るハジメをほんの少しだけからかったのは事実だが、それがむず痒さからくるものであるというのは気付かれていないだろう。
「ま、そうだな。キミにそこまで言われてしまっては行かないわけにもね」
「お! マジか!」
「身支度の時間はくれるんだろう? 待ち合わせ場所を決めてくれ、そこにいく」
「わかった。そうだな、警察に近すぎてもアレだから
……
」
黒崎の答えに満足し、ハジメは表情を普段通りに崩して笑みを浮かべながら合流場所を口にする。
トントン拍子に予定は決まり、二人は顔を見合わせて頷きあう。
「
……
じゃあそれで。さっそくだが身支度をしてくるからお暇するよ」
「おう。来るよな? な?」
「しつこいな、キミは。予告状でも残したほうが信憑性増すかな?」
「いらんわ」
目を細め、呆れ顔で答えるハジメに黒崎はクスリと笑みを零す。
「安心してくれ。あそこまで言われたのならそれなりには応えるさ」
「ん? おう、そうか?」
黒崎の言わんとすることを理解しているのか、いないのか。
少しだけ不思議そうに首を傾げるハジメに、黒崎はさらに肩を揺らしつつも笑いをこらえる。
(人の夢を褒めておきながら無自覚か。やれやれ)
「キミこそ遅れるなよ。俺から声をかけるんだからな」
「わかってる。俺が見たことない変装だろ〜、面白そうだ」
なんとか黒崎を丸め込めたこととそれによって少しでも状況が好転する期待に、ハジメはニシシと笑いを零す。
もう一つ増えた少しばかりの楽しみを隠しきれずにいると「ウキウキするんじゃない」と肩を小突かれが、それもまた悪くないなと思ってしまったり。
片手を上げて事務所を出ていく背中を見送りながら、ハジメはふぅと息を吐き出す。
「っしゃ! 見てろよ偽物共
……
本物のブラックキャット様にどうにかされちまえってんだ!」
一人になった室内に「それは探偵としてどうなんだ」というツッコミが響きそうなことを口にしつつ。
誰よりも偽物に振り回せているであろう探偵は己の気苦労が終わることを切に願っているのだった。
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