sevendays23
2024-09-28 22:41:29
2959文字
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発熱に寄り添うもの(熱コック)

東の海に滾ってしまったブツ。


「ん……

ぱちりと深夜に目を覚ます。柔らかなソファー。アクアリウムバーの布団の中。赤い顔と枕に広がる湿った金髪の下で熱に浮かされた瞳が揺れる。彼はこの船の料理人。戦いで毒を食らい、今まで気を失っていた。もちろん、夕飯はもう準備しておいたから、仲間たちは食べ損なってはいないだろうが、自身の胃袋がくうと鳴った。

……

仲間たちはアクアリウムバーに集まりいびきをかいていた。不意打ちに女性の敵にやられた毒。きっと心配させたのだろう。口をきゅっと瞑って、ふらっと歩き出す。

「メシ……

白飯がまだ残っているだろうか。そうしたらおじやにすればいい。残っていないなら、米のお粥を炊けばいい。米すらないことは、ないはずだ。どちらにせよ、食べて寝たら、きっと治るはず。船医の治療は的確だから。それに、仲間たちの食事の片付けもあるし、ちゃんと仲間たちは食べているか把握しなければ。そうコックとしての思考で苦しい気持ちや誰かに頼る気持ちを押しやって、彼はふらふらとキッチンに向かおうと、甲板に出れば。

……っ」

ぶわりと寒い風が、扉から吹き込んだ。思わず、体をすくませてしまう。

「サンジっ」

だが、ぽふりと受け止められた。丸めた背中を少し持ち上げて、ぼうっと見やると、見覚えのある顔が入ってきた。

……る、ふぃ」

「だめだぞ、いま出たら。外さみぃから、もっとしんどいぞ」

強く言い聞かせる。扉の外はびゅうびゅうとつよい風が吹いていて、雪すらも見えた。

「なん、で」

「おれとブルックは船番だ!」

船長は扉を閉じて、彼をひょいと持ち上げる。いつもなら抵抗できるのに、全く力が入らなかった。

「腹減ったんだろ。チョッパーの言ったとおりだ」

……お前は」

「おれも、みんなも、サンジのメシいっぱい食ったぞ!」

船長はししっと笑いながら彼をソファーに横たえて、お布団をかけてから仲間たちを見渡した。彼らがお腹いっぱい食べれたことにホッとすれば、自身の空腹がふわりと遠のいた。

……じゃあ……、ねる」

「だめだっ。腹減っておきたんだろ!」

……いいよ。おまえ、ふなばん、いそがしいだろ……

「よくねぇっ」

船長はふくれっ面をして料理人の額に手を当てた。

「サンジも腹いっぱいにならねぇとだめだ!こんなに熱くてしんどいのに腹減ってるのまで我慢するなんて許さねぇ!」

「でも、どうしようも、ねぇだろ……

「どうしようもある!まってろ!!」

船長はリフトの方へと真っすぐ行った。額に手を置いたまま、彼をソファーに横たえたまま。

……

困ったように体を起こそうとすると、ソファーの下から伸びてきた腕。布団の上から体をくうと押さえられて、視線が向いた。

「そこにいろ、アホ」

ゴツゴツの腕。小さめの、低い声。剣士だ。

「たまには、食うだけもいいだろ」

いつもよりどこか柔らかい声。そして、その声は続いた。

「そうよ。あんた一歩も動いちゃダメなんだからね、ホントは」

「そうだぜ。お前さぁ、ずっと苦しんで起きなかったから、あいつすげぇ心配してたんだからな。あっ、それはおれたちもだが……

「ちょっと、喋りすぎ」

航海士も狙撃手もこちらの方に転がってきて、彼をなだめるように見上げている。申し訳無さが込み上げ、眉を下げ謝罪を口にしようとするも、剣士がまたぽすっと体を叩いた。

「それは、誰も望んでねぇだろ」

「そうだそうだ、サンジは悪くねぇからな!攻撃したやつが悪い!」

「そうそう。だからご飯食べて早く寝ちゃいなさい。熱が出てるから気落ちするだけだから」

優しい、仲間思いの会話。料理人は眉をさげたまま、口を少しだけ緩めた。

「あっ、お前ら起きてたのか!」

船長はししっと笑って、何かを片手で掴んで戻ってきた。白い御椀と蓮華。温かい湯気がほわほわと溢れているのがわかる。

「そりゃ起きるわよ。あんたうるさいもん」

「おれはうるさくねぇぞ!ほら!フランキーもロビンもチョッパーも寝てるだろ!」

「どうだかな」

「ねてるんだー!」

「わかったから静かにしろって!サンジに早く食わせてやらねぇとだろ!ほらほら、おれさまがしちまうぞー」

「だーめーだ!!」

船長は狙撃手のうねうねした手をふくれっ面でかわして、ゆっくりとレンゲで御椀の中のそれをすくい上げた。とろとろの白い粥。湯気がほわほわと溢れて、黄色い卵もとろとろとしていて、いかにも美味しそうだ。

「サンジ!あーんだ!!」

……

「あーん!」

船長がレンゲをこちらに近づけてくる。だが、船長にこんな事をさせている申し訳無さと先程仲間達が励ましてくれた言葉が戦って、ぴたと固まった。

「冷ましが足りねぇんだろ。それじゃ激熱だ」

「あんたサンジくん火傷させる気?」

「熱いうちに食ったほうがうまいだろ!」

「限度ってあるんだよ限度。もうちょいふーふーしてから出せって」

「よしきた。ふー、ふーっ」

航海士がこちらにウインクしてきた。剣士が呆れた目をして、狙撃手がちらちらと慌ててこちらを見ているからきっと思考は筒抜けらしい。
彼はついに降参した。

……いただきます」

「おう!くえ!」

ししっと向けられた笑顔に近づけられたお粥を、口元で吸うように食べる。少し食べただけで、ぽかぽかと温かさが広がった。柔らかく、だしが効いていて、それでいて優しい味。

「うめぇ……ありがとう」

「ナミが作ったんだ!まだ食え!なっ!」

……ナミさんも、ありがとう。お前らも」

何度も溢れたお礼。申し訳無さより、仲間の想いが勝って。仲間たちの表情が緩む。

「ししっ、いーから食え!まだあるからな!」

「そうそう。ナミが無料で作る!なんてそんな機会ねぇぞ、ぎゃぁぁ!!」

「美味しいならよかったし、あんたは余計!」

「ははっ、調子に乗るからだ」

「くらっゾロ!ゾロのあーんなことやコーンなこともいうぞ!」

「なっ」

「えっ、なにそれ気になる教えて」

「おれもーー!」

「おれ、も」

「てめぇはおとなしく粥食って寝てろアホ。ウソップはちょっと面かせ」

「ぎゃー!脅さないでゾロくんきゃー!!」

安堵したからか、あっという間にいつも通りの光景に戻り、ぎゃあぎゃあと騒ぎ出した仲間たち。

「うぉんうぉん、あいつら流石だぜぇ」

「チョッパー、サンジはもう私達が起きていても遠慮しないと思うわ」

「ゔゔ……でもぉ」

「サンジさん!無事に起きて何よりですー!!」

「ほら、ブルックが入ってくれたわよ」

「わーん!サンジィ!よかった!!」

「うぉぉんよがっだぜぇぇ」

……心配かけたな」

「ほら、起きてただろ」

「あ゛い……ゆるじで」

「気なんか使わなくてもいいのに」

「なー。あっ、サンジ!全然食ってねぇ!もっと食えー!!」

……ははっ」

音楽家がそのタイミングで輪に入っていく。すると寝たふりをしていた仲間たちも起き上がり、そこに加わっていく。
仲間を想う、夜の話。更け行く夜の中、広がりを増していくのだった。