ろころころ
2024-09-28 19:45:00
17176文字
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Code:??? 炎は溶かす、そして導く







救助隊が"救助隊"として形を成したのは、今から約7年程前の話である。フレイム達の地道で熱心な救助活動はやがて人々の心をも打ち、欠損者も能力者も関わらず志願者が現れる

──────そうしてようやくfirefeather救助隊として、世界に名を轟かせるまでに成長したのだ。










「悲しみ、憎しみ、痛み、怒り、恐怖………きっと多くの感情に苦しむ人は沢山いる」
「だから俺は、此処を救助隊を、苦しみに悩まされている人々の居場所にしたいんだ」
「苦しみを知っているからこそ寄り添える。苦しみを知り乗り越えたからこそ強くなれる。君達は立派な戦士だ

──────さぁ、手と手を取り合おう。君達は決してひとりじゃない、君達の隣には何時だって仲間がいる」


フレイムは高らかに語る。そんな1人の青年の情熱に心を燃やした人々は、澄んだ青い空に向けて高らかに歓声を響き渡らせる。
大人も子供も、男も女も、欠損者も能力者も。全ての人々が互いに手を取り合い、仲間の温かさに触れ、寄り良い世界のために皆で手と手を取り合う
──────それが彼の望みだった。

希望に満ち溢れたとても美しい光景であった。












──────しかし、このようにも言う。
光あるところには影あり、と。


【エターナルシティ 南部 路地】

ブレイズ。隊長が呼んでいるぞ」
……………

青年が光の照らされる地で希望に満ち溢れたスピーチを行う裏では、青年を良く知る人物ブレイズ・ブルースカイが、青年の溢れんばかりの光から身を隠すように人気のない路地裏へと駆け込んでいた。
ブレイズは、フレイムと幼馴染でありながら能力者学校まで共に通い続けてきた腐れ縁。しかし、彼女達の関係性を知るものであればもう1つの影が足りないことに気がつくだろう。
フレイムとブレイズは、テレサという少女も含んだ3人でよくつるんでいたのだ。

「救世主サークルを開設したのはあいつなんだそれなのに、それなのに?何故、あいつが居ない居ないのに、何故勝手に進めて、恰も無かったことのように、都合の良い御託ばかり並べて!

──────巫山戯るな、ごっこ遊びは散々なんだよ!」
……………………
ブレイズは地団駄を踏むかのように足を無機質な灰色の地面に叩きつける。釣り上がった瞳からは溶けた氷から滴り落ちる水滴のように、ポロポロと涙が溢れた。
「そうだ!あいつは死んだ!それなのに、それなのに?あの男は壇上で、あいつの事など1つも触れなかった!何故自分が生きているのかも壇上に立っているのかすらも全てを追いやり、残酷な片面に目線を寄越す事すら無くただただ明るい部分だけを貪り食い……私は、わたしは、忘れないと誓ったのだから今でも鮮明に覚えているよ、目を瞑り瞼の裏に蘇る光景は何時だってあの時だ!そう!死んだんだよ!無様に潰されて!跡形もなく!この世界から消えた!!!」
普段の冷静な彼女を見ている他の者が見れば卒倒するだろう、半狂乱に絶叫系するブレイズは爪が皮膚にくい込み血を流すほど強く拳を握りしめていた。
蘇るのは、いつも笑顔だったあの顔が潰れ、何かもわからないくらいにぐしゃぐしゃになり、誇りも威厳も何も無いただの肉塊としてゴミのように地面にポイと捨てられた──────ただその一瞬の出来事。しかし鮮明に蘇るそれは、あの時の匂いも感情もブレイズに思い出させるのには十分過ぎた。
「お、おええええええ」
そのまま良い歳をして無様にも嘔吐し、力無くしゃがみこむ。びちゃびちゃと、吐瀉物が地面に叩きつけられる音が深いだった。

嗚呼、何もかもが気持ち悪い。
彼女を殺した奴らも
死んだ彼女も
それらを無かった事にして光だけを見る男も
そして影しか見れぬ自分も

全てが、全てが本当に気持ち悪かった。


「──────それは違うよ、ブレイズ」

もう1つの足音と共に、力強く、それでいて柔らかな声が灰色の空間にまるで光を灯すかのように響く。

それは、先程まで新たな希望の誕生に歓喜を上げる人々の下でその光の源となっていた男。
彼の名は、フレイム・レッドフェザー。
彼は幼い頃からブレイズ、テレサと共に世界を守る騎士団を結成することを夢見ていた。彼の父親はユニオン本部長、その息子である彼は普通であればユニオン構成員としての道を歩むはずであっただろう。
しかし、この男は自分の夢を捨てることなど無かった。
諦めることなど無かった。
消してどんな困難が待ち受けようとも、どんな大怪我を負おうとも、周囲に非難され反対されようとも、助けようと死力を尽くした相手が結果的に死んでしまったとしても──────彼は立ち止まることなく、真っ直ぐに歩み続けて来た。
ブレイズは今まで、そんな彼の強さを尊敬していた。
しかし、今回は話が異なる。
共に近い合い、夢に向かって努力してきた大切な仲間。ブレイズにとってそんな仲間は家族に近しい存在であった。しかし、彼にとっては異なるというのか?
………ブレイズ、僕だってテレサと一緒にあの場所に立ちたかったよ。勿論、君とも」
スピーチの時とは異なり、彼の声は小さく、枯れていた。
………………………
氷の彼女は何も言わない。本当は、わかっていた。今は亡き彼女が何を望んでいたかも。それを叶えてあげることこそが、彼女にとっての一番の労りだということも。

彼女は、自分の死をもって世界の救世主となるバトンを二人繋いだのだ。

「ブレイズ、僕は彼女の想いを無駄にしたくないよ……
………………………
それでもブレイズは何も答えない。最早、何も言うことが無かった。何も言えなかったのだ。

「行こう、ウェン」
いいのか?」
フレイムは、少年の問いに緩やかに頷く。
「彼女には、きっと時間が必要なんだ」
なんというか、難儀だなぁ。とっても解せないぞ」
青年は、少年の手を引いてその場を立ち去った。

2つの足音が遠ざかっていくのを聞きながら、ブレイズは、只々灰色の壁をぼんやりと眺めていた。















【救助隊本部 ユニアの部屋】

「そうそれじゃあブレイズちゃんは

本部に戻ったフレイムは、ブレイズの様子を救世主サークルの顧問であるユニアに伝えた。
彼女はフレイム達が能力者学校の生徒である時から世話になっている女性教師であり、同時に剣や能力使用の師でもあった。明るく穏やかで心優しい彼女だが、元は国家に務める軍人であったという。底無しの体力に加え夢中になると周りが見えなくなる性格から彼女の施す訓練は非常にハードなことで有名だった。例えば戦士や登山者達が体力作りに登山するため"鍛錬山"と呼ばれているデスモンテを、半日で往復するというミッション。勿論彼女も着いてくるのだが、彼女の進む速さと言ったらまるで鹿のようにぴょんぴょんと岩場を飛び跳ね駆け上がって行くのだ。一方のフレイム達は着いていくだけで精一杯で、成果と言えば師がより一層化け物に見えるようになっただけであった。

そんな彼女だが、心根は優しく生徒思いな性格。テレサのことも聞いた当時はショックを受けていたと同時に自分が同行しなかったことを悔いているようであったが、流石は元軍人。立ち直るのも早く、次の日には立ち直る様子も無いフレイムとブレイズの二人を引っ張り出し例の山登りに引き連れて行った。ブレイズは途中で辞退したのだが。


「ふ、フレイムさぁん!あっ!隊長の方が良かったですか!?す、すみませんすみません!慣れるように頑張りますぅ〜!」

慌てた様子でバタバタと駆け寄ってくるのは、リトル・レインと名乗る白衣の少女。片手には白い封筒を握っている。
「フレイムで良いよ、俺も隊長って呼ばれるのは慣れないしなぁ。それで、何かあったの?」
「ああっ!それがそれがなんですよぉ!これ、ポストに入ってて
リトル・レインは握って皺の着いた封筒を差し出す。宛名すら書かれていない無地の封筒。彼女が中を確認したのだろう、シールで留められていたようだが剥がされていた。フレイムは封口を開き中から一枚の紙切れを取り出す。
……………!」
紙切れに書かれた文字を見て、フレイムは目を見開いた。


"ブレイズ・ブルースカイは本日をもって救世主サークル及び救助隊を脱退させていただく"


「なっ、な!?脱退!?」
………ブレイズちゃん
慌てるフレイムと、悲しげに眉を下げるユニア。
そんな二人に対し、リトル・レインがおずおずと手を上げた。
「あのぉごめんなさい私とサニーがあの場所に迂闊に近づいていなければ、テレサさんもブレイズさんもこんなことには
彼女は、テレサが倒れたあの時の事故以来、救助隊の一員となった人物である。過激派テロ組織のジェネラル・ジェネシスの復讐鬼、剣闘士グランが"平等かつ公平な裁き"を称して無差別テロを起こした際に襲われていた彼女と弟のサニーを、テレサは命懸けで守り抜いた。彼女が伝えたいのは、その事に関してだろうか。
「いいや、それは違うよ」
フレイムは、すぐさま否定した。
「テレサの行動は騎士として正しかった。そして、君達が助かってくれたおかげで、テレサは素晴らしい騎士としてこの世を去れたんだ」

リトル・レイン。科学技術と開発に長けている彼女は救助隊員共用の端末用アプリの開発や様々な医療器具の改良等、入隊して間も無いのにも関わらず様々な技術で救助隊を発展させた。彼女の存在は救助隊の創立にも大きく貢献している。テレサの判断は正しかった。騎士としても、救助隊員としても。彼女が助けた技術者はこうして今も、彼女の代わりに救助隊を支えてくれている。

「テレサは自分の想いを、炎のバトンを、君に託したんだ。だから君は堂々と胸を張って生きてくれ。それが、きっと彼女の為にもなるから」
フレイムは少女の肩に手を置く。少女の瞳からはボロボロと涙が溢れた。

そんな二人の姿を遠目に眺めていたユニアは、物陰に潜む影に優しく声を掛ける。
「キミもよく頑張ったよ。小さい子に、あの光景は苦しかったよね」
……………あ、えと
おずおずと物陰から姿を現した10歳程の少年、サニーは戸惑いながらもユニアの元へやってくる。
「ご、ごめんなさい
「謝らなくても。隊長がお姉ちゃんに伝えていたこと、キミも聞いてたんでしょう?キミだって今じゃ私達の仲間の一人さ。胸を張って生きていいんだよ」

ユニアは少年の頭を撫でる。

一室に、二つの嗚咽が響いた。














【救助隊本部 執務室】

「ブレイズちゃぁぁああん!うわぁぁぁあん!ウチが守ってやる言うたのに全然守れんくってごめんなぁぁああ!」

一方その頃、此方でも泣き声を上げる者がいた。
彼女の名はアリシア。ブレイズとテレサの学友の看護師で、事故当時は二人の頼みで救助活動に加わっていた。その後はテレサの想いを継ぎ自分も救助隊の創立に貢献したいと名乗り出て、自ら救助隊の医療班の一員となった。

「ウチは、ウチはなぁ、ブレイズちゃんの巻き髪をクルクルするの好きやったんやで
「巻き髪ならテレサにもあったと思う」
ウェンくんあんた人の心無いってよく言われへん?」
「そうだろうか」

さて、至る所でテレサの死によって大きな影響を受けている救助隊だが、こうして公式に"救助隊"となった今ではあまりぐずぐずもしていられない。やることが山積みである。街のパトロール、救助依頼の募集地域の拡大、新入隊員の募集と育成、設備の拡大拡張、物資の補給、テレサが抜けた事による役割分担の再配置考えるだけで無限に出てくるでは無いか。

「どうするどうするか………うーん、色々と解せないんだぞ
「なんや?働きすぎでおかしくなったん?ウェンくんもまだ子供なんやから……うん?ウェンくんって幾つなん?」
「八つ
「八つ???」
八つの少年に頼っている救助隊は色々と大丈夫なのだろうか?アリシアは改めて入隊を考え直そうかと思った。

……まぁやることは多いが、こればかりは仕方無い。地道に駆逐せねば
よっこいしょ、と少年は自分より大きな棺桶を担ぎ立ち上がる。
「えぇ、どこ行くん!?」
「ブレイズを探しに」
「この時間に出歩くのは補導されるんじゃてかブレイズちゃんに心無い言葉言ったらウチは承知せんからなぁ!」
………………ならキミも着いてきてくれ。彼女を説得するんだ」

ブレイズは中々にお堅い人物。そんな彼女を自分に説得出来るかは怪しい、アリシアとブレイズの関係性はフレイムやテレサよりも深いものじゃないのだ。
そんなフレイムですら説得出来なかったのに、
「いや無理やろ!出来るわけないやろ!」
「そうか?なら俺が」
「やります!やらせていただきます!」


こうして、看護師少女と棺桶少年は失踪したブレイズを探しに向かった。













【エターナルシティ 南部 路地】

「はぁっ、はぁっ………────クソッ!」

ブレイズは走っていた。
走る、走る、ただ足を動かし地面を蹴り前に進む、後ろから迫る複数の足音に追いつかれないように全力で、必死に、死ぬ気で────

「くくっ、逃げ切れるとでも?全く舐められたもんだなァ?─────そぅれ」
……………っ!?……ぐっ……あがっ!?」

ブレイズの首元に"何か"が突き刺さる。大した痛みでは無かったため一瞬気を緩めたがふと、意識が薄れ始めていることに気がつく。

………っこのふざけ………

最後に見たのは、男の胸元で光るバッジ。

"ジェネラル・ジェネシス、第8小隊"

(またお前らか!)

そこで、ブレイズの意識は途切れた。

















…………………
………………………………

いずちゃ………ぶれいちゃん………

…………ブレイズちゃん起きて!』

懐かしい声、ハッと目を覚ますとそこは見慣れた救助隊寮の自室であった。
しかし、不思議なことにブレイズは突っ立ったまま眠っていたようだ。
そして顔を上げると……そこには

………っテレサ!?」

懐かしい、あの少女の姿があった。
ブレイズは衝動が押えきれずに駆け寄る。そうして彼女に触れようとした手はまるで空気を掴むかのように突き抜けた。
……なっ!?どうなっている?」
声を掛けたはずのテレサからの反応は無い。彼女の視線の先を追うと、そこには寝台、そしてそこに情けない顔を晒して寝そべる────
『んん…………なんだてれ………はっ!?おい待て今は何時だ!?』
自分の姿があった。
(…………………………こんなもの見たくも無い)
寝坊した自分の姿など誰が望んで見ようとするだろうか?慌てたように起き上がり支度を始める自分と、それを見てくすくすと笑う彼女の姿。少し前まで存在した日常……いや、これは

(あの日の、朝?)

ブレイズの頭に一つの嫌な予感が走る。そうだ、これは紛れもなく、あの日テレサが死んだ日の朝の出来事だ。

ブレイズはこの結末を知っている。

ジェネラル・ジェネシスの復讐鬼、グランによる無差別テロ。それらを止めるためにブレイズ達は看護師アリシアを連れて、コンケット地区とバイオ地区の境界線テロが頻繁に起きている地域へと向かった。
そこで出会った少女、リトル・レイン。弟とはぐれたと言う彼女に協力した結果、犯人のグランと対峙することになった。グランは少女の弟、サニーを人質にブレイズ達と向き合う。
そうして戦いが始まり───



駄目だ。これ以上は思い出したくも無い。そもそも彼女が死んだあの時から、一週間程度の記憶が無いのだ。人間あまりにも大きなショックを受けると自己防衛として記憶が消えると言うが、それなのだろうか?

ともかくどういう状況かはわからないが、彼女を止めねばならない……ブレイズは直感的にそう感じとっていた。

「おいテレサ、聞こえていないのか?テレサ!」

必死で叫ぶが返事は無い。視界の中の"もう一人の自分"には微笑みかけるのに、同じ存在であるはずの自分には何一つ反応を示さないのは正直気持ちが悪くて仕方がなかった。

その間に身支度を整えた自分とテレサは部屋を後にする。

ブレイズも、二人に渋々着いていく他無かった。




『あっ!やっと来た!ブレイズちゃんお寝坊さん?珍しいなぁ、疲れとったん?』
『最近任務が立て続けだったからね。大丈夫かい?疲れているなら休んでいても
『ご心配どうも。だが、私のことは気に留めてくれなくて構わない』
『気にしないようにしても寝癖が目に留まんぐっ』
『お子様は大人しく菓子でも食ってろ』
言葉を塞ぐかのように机に並べてあったお菓子を少年兵の口に突っ込む。そして何事も無かったかのように会議室の椅子に腰をかけた。そんなブレイズの様子を見て、テレサが楽しそうに笑った。

(………………なんだこれ、拷問か?)

だから、何故寝坊した自分を見せつけられなければならないのか。全く理解不能である。


そうして、会議は進んだ。本日の予定、想定外の出来事が起きた時の対処法。様々なことを、ここで決めた。一見、何も間違っていないように聞こえる策略でも、ブレイズはこれらが全て間違っていることを知っている。よく見れば穴だらけ、勘違いだらけも甚だしい。

しかしこうしている間にも事は進む。テレサ以外の誰かが自分の存在に気が付かないかと、全員に一通り話しかけてみる。勿論結果はお察しの通り。
紙を通じて伝えることも考えたが、ペンにも紙にも触れることが出来ない。
そんなこんなで過ぎていく時間。
時は一瞬だった。あの人同じ分の時を眺めているはずなのに、本当に一瞬だった。



『あのっそのぉ!お、弟がいなくてっ!そ、その、10歳くらいで、背はこのくらいで、青い服を着た!』
『弟さん?みんな、見てないかい?』
『見てないなぁ。いつはぐれちゃったのかな?』
『さっ、さんじっぷんほど前ですっ!一緒に走ってたのに、気づいたら後ろにいなくって、まわり探したんですけど、みつからなくって』
『ユニオンも来てるみたいやし、ユニオンが保護したかもしれへんで!ウチらも一緒に探すから元気だし?』
『ほっホントですかぁ!?あっ、ありがとうございます!このご恩は、かならずや!」


(嗚呼この約束が彼女を)
ブレイズとてこの姉弟を恨んでいる訳では無い。二人のせいだとも思っていない。誰が悪いかと言えば、ジェネラル・ジェネシスのグランだろう。

でも、だとしても。ブレイズには、フレイムやテレサのような"自分の大切なものを犠牲にしてまで他者を助ける"心がわからなかった。

出来ることなら大切な幼馴染には笑って生きていて欲しい、ブレイズにとってはそれが一番の願いであった。

けれども、二人はそれを望んでいない。だからブレイズも、二人のことを尊重するためにも、誰かを守ろうとしていたのだ。

それが、こんな形で返ってくるとは思っていなかったのだ。




一行はそんなブレイズの後悔など知る術もなく、少女の弟を探して進む。
少女が走ってきた道を辿って行くと、不意に爆音が鳴り響き強い熱風が一向を襲った。
……!氷風よ!』
もう一人もブレイズがエレメント能力、「吹雪」を発動させる。
爆風と相殺し、火傷を負うことは防げたようであった。
『いっ、今のがもしかして、あれですかっ!?え、エレメント、のうりょく!』
『そうだよ。ブレイズは氷混じりの風を吹かせる事ができるんだ』
『すっ、すごいですぅ!わ、わたしっ、能力もってなくてっ!いやあのっ、欠損もないんですけどっ
『無欠損者とは珍しい能力持ちより希少だというじゃないか。私の能力なんてそうも珍しいものでも無いし』
『っで、でも!今私が火傷しなかったのはブレイズさんのおかげですっ!ホントに、すごい力、ですよぅ!』
少女はブレイズの手を取って跳ねる。後ろからニヤニヤとした腹立たしい視線を感じた。
─────と、その時。
『よぉよぉ、俺の”裁判所“で随分と余裕じゃあないか?ああ?』
…………っな!誰だ!?』
背後から響く男の低い声に、フレイムとブレイズ、テレサは剣を抜く。

視界に映ったのは─────嗚呼、此奴だ。此奴を許すわけにはいかない。テレサを殺した、あの忌々しい男。顔を見るだけで、いや、声を聞くだけで憎悪による吐き気と寒気がする。
ブレイズは、その衝動を抑え切れずにそのまま斬り掛かろうとして、腰の剣が無いことに気がついた。
(な!置いてきたのか!?)
記憶がぼんやりとして思い出せない。しかし、冷静さは取り戻せた。どちらにせよ、ここで斬りかかろうとも触れられない相手を斬れるわけが無いだろう。

『誰か、だって?くっ、ははは!滑稽!誰も何も、此処は俺の“裁判所”。勝手に侵入した愚かな鼠は貴様らだろう?
嗚呼そうだ、鼠といえばもう一匹

男は太い指で一人の少年を軽々と持ち上げる。まるで捕まえた溝鼠をつまみ上げるかのように。……そんな姿を見た少女は、悲鳴をあげた。
『さ、サニーっ!あっ、あの子ですっ!弟っ!』
『ああ、絶対に取り戻してみせる!ブレイズ、テレサ。行くぞ!』
フレイムの声に二人は剣を構える。
『ああ』
『絶対に負けないよ!』
深く頷く。

一刻一刻と、絶望の時が進んでいる。
───嗚呼やめてくれ。やめるんだ。

『ウェン、二人を頼んだ!』
『了解した』

フレイムが駆け出す、それに当時の自分、そしてテレサが続く。

やめろ、やめろ。頼むから、お願いだからやめてくれ。
勝てないんだ、否、勝てたとしても、失うものが大きすぎるんだ

嗚呼、見たくない。どうしても見たくなくて、身体が震えて、目を瞑り手で覆うが、それでも音は聞こえてくる。キンキン、と金属がぶつかる音、液体がビシャビシャと地面へ飛び散る音、呻き声に唸り声、不安定な呼吸に少女達の悲鳴。

──────全てがまるで地獄のようだった。



『いやぁっ!もう、もういいですっ、皆さんがしんじゃいますっ!』
『アリシアさん。彼女を連れて離れてくれ』
『な、何言うてるん!?あたしが居ないと治療だって皆を放って逃げろって言うん!?』
『戦いが終われば、戦力となるのは戦士ではなく医者だ。無駄な犠牲は増やすべきじゃ無い』

会話が雑音のように聞こえる。もはやその意味すら理解出来ないように、片耳から音として拾っては片耳から抜けていく。

少女の悲鳴が遠くなっていくと思ったその時




──────遂に、その時は来てしまった。

「う………あ、なぜ……


先程まで瞑っていた瞳が強制的に開けられる。覆っていた手が押さえつけられたように上がらない。
まるで、まるで、全てを見届けろと言われているように。



その刻は、訪れた。



ガシャン、ガシャン

無機質な機械音が、錻が擦れるようなキィキィとした耳障りな音が、戦場に響く。

蒸気を吹き出す音、独特な匂い。そして重みを感じさせる振動。全てが、あの時と同じだった。

男が、クソ野郎が、笑みを浮かべた。


『──────あ』

少年を、その機械兵に向けて、投げた。
体重の軽い少年は軽々と飛び──機械兵の両手の平を合わせるような形で並ぶ、二枚の盾代わりの鉄板

──────その間に落下した。



ギ、ギギギ───ギ、

人気を察知した機械兵は、その手の平を合わせるように近づける。


『あっ……あぁああっ!?いやっ!やめてっ!いや──────』


少し離れた位置からでもはっきりと聞こえる姉の悲鳴、それすら無視をして、無機質で無慈悲な機械は少年を潰し──────





………っさせない!』



嗚呼──────遂にこの時が、来た


少女が走った。長く美しい髪をなびかせて、機械兵から最も近い位置にいた彼女は、なんの迷いもなく、真っ先に少年の元へ向かうと
──────機械兵の両手の間を少しでも広げようと、保とうと、両手をめいいっぱい広げ、地面に叩きつけられた反動で動けない少年に一言、

『ごめんね』

そう伝えると、少年を蹴り飛ばした。


『あがっ?』

少年は機械兵の鉄板すら飛び越え、テレサの背中側に落ちる。



「──────あっ、」



その瞬間、駆け寄る仲間が辿り着くよりも先に、彼女の腕の力が抜ける。



「っひ、あ、やめろ、、、やめてくれ

──────い、嫌だぁっ!」



機械兵には、ブレイズの悲鳴も、届かない。




ギ、ギギギ、ギギ


ギギ、ギ


──────────────────────────────────────────────ぐしゃっ


「あ、」

…………………


世界が、静まり返る。



何も、わからない、考えられない、そのはずなのに、何故か目は開かされていて、頭は全てを理解していて、どうして、なんで、こんな仕打ちを、なぜ、、、



「あ、、、あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?!?!?」



叫んだ。

腹の底から、腸が、全て飛び出てしまうくらいまで叫んだ。


それでも、ブレイズの目は、この物語の続きを見なければならないようだった。


自分は、自分は何をしていたのか、全く記憶が無い中自分の記憶を辿ろうと、探ろうとあの光景から目を逸らそうと、自分の姿を捉える。


そこには、地面に這いつくばり、ただ言葉にもならない何かを吐き出している、無力で無様な自分がいた。


『うわぁぁぁぁぁあああ!お前っ!よくも、よくもっ!』

フレイムは狂ったように叫びながら、高笑いする男に斬りかかった。男はそんなこともあたかも理解していたかのように大剣を薙ぎ払い、フレイムを斬り飛ばす。鮮血が飛び散り、瓦礫の山へ叩きつけられる。
『感情的になるのは良くないぜぇ兄ちゃん!』
とどめに斬りかかる男とフレイムの間に、ウェンが割って入った。


ぐしゃりと、小さな身体を大剣が間二つに切り捨てる。

……え、……は?」


ブレイズにはもう何が何だかわからなかった。これは、過去を見せられているわけじゃないのか?そうでないのなら、そうでないのなら、、やめてくれ、もう何も奪わないでくれ、


『なっ、は?ウェン、どうして?』


唖然とするフレイムに、クソ野郎は汚い嗤い声を浴びせる。


『ぎゃはははははっ!マジかよ!?水から突っ込んで気やがった!ガキ一人でなにが出来』
『五月蝿い』


そう言ったのは、フレイムだった。



『五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い!!!!!』



彼の両手は、燃えていた。否、火を纏っていた。



彼の火は、皆を照らす光だった。
暗闇の中でも皆を導く光だった。


そんな彼の炎が、誰かを燃やす為に、明々と燃えていた。


『死ね、死ね、死んでしまえ全て、全て燃えて死ねばいい


……お前を、俺は許さない』



男が何か言った。その言葉ですら、炎の渦で掻き消された。



炎は、人々にとっては欠かせない存在である。炎は人々を照らす光となり、温める熱源となる。

炎と人は切っても切れない存在である。

機械兵も、男も、そんな大いなる存在に抗うことなど出来ない。



──────全てを、業火が、灼熱が、火炎が、





男の怒りが、燃え尽くした。





















…………………
………………………………

いずちゃ………ぶれいちゃん………

…………ブレイズちゃん起きて!」


「──────ッテレサ!?」

ブレイズは少女の声とサイレンの音で目を覚ます。既視感に勢い良く顔を上げる。
視界に写ったのは、灰色ばかりの煉瓦造りの床と壁。そして、

「ええと、ウチやで?そのテレサちゃんやなくてごめんなぁ
「えっ、あっ、いや、すまない……その、混乱していたようで

──────戻ってきたのか。悲しそうな表情を浮かべるアリシアに申し訳なさを感じる。彼女だって、テレサの友人であったというのに。

「その、ブレイズちゃんを探しに来たんやけど剣が落ちてたからこの辺おるかなぁって
「アリシアさん。終わったぞ」
聞き覚えのある、少年特有の声にドキリと心臓が跳ねる。

「あれ、ブレイズ起きてた───ぐえっ」
……………てる」
「な、なんやブレイズちゃん!ホントにどうしてもうたん!?」
……生きてる、んだな」

ウェンをマントごと引き寄せるブレイズの今にも消え入りそうな声を聞き、ウェンとアリシアは疑問を浮かべた顔を見合わせる。
「む、解せないな。俺は死なないぞ?」
「ぶ、ブレイズちゃんがスキンシップを!?へ、変な夢でも見たん……あっ!」
アリシアが思い出したかのように懐を漁る。取り出したのは、一本の注射器。
「これなぁ、あの野郎共が隠し持っとったんよ!ブレイズちゃんの首元にも一本刺さっとって。んでよく見たらコレ、最近流行ってる"過去にしまい込んでおいた記憶を掘り出す"薬なんよ!」
「薬…………
アリシアは注射器の中の液体をゆらゆら揺らしながら述べる。彼女の看護師としての知識は中々のものである。最近流行している薬を匂いや外見から見分けることくらい、難なくやって退ける。
……って、もしかしてブレイズちゃん。あんま掘り返すこと言わん方がええと思うけど……なんか見ちゃった?」
………………そうだな。お前を最初に呼び間違えたのが証拠、だ」
ブレイズは諦めて全てを伝えることにした。
あの地獄の一日を、まるで観客のように見ていたこと。テレサが死ぬ瞬間から目を瞑りたくとも許されなかったこと。最後にフレイムの炎によって意識が途切れ現実世界へ戻ってきたこと。
全てを聞き終えた二人は再び顔を見合わせる。
冷静さを取り戻してきたブレイズは、二人のその反応に疑問を持った。
「なんだ?あの時の過去をもう一度私に思い出させているのだと思ったが記憶違いでも?」
「いやぁ、合ってるんよ。合ってるんやけどさぁ、ブレイズちゃん、覚えてへんの?」
「何がだ」
「フレイムの炎を消したのはキミだぞ。ちなみにサニーを助け出したのは俺だし、その後にキミとも合ってるはずだが」
………なっ、どういうことだ?そもそもお前のあれは幻覚だったのか?フレイムを庇い
「そうだぞ。というか、それも含めて皆に後ほど説明したはずだが」
「まっ、まじで覚えてへんの!?聞いたら思い出したとか
…………………
沈黙。
いや全く、全くにして記憶が無い。テレサの死から一週間程が経過するまでの記憶が、まるでぽっかりと穴が空いたかのように存在しないのだ。絶望による衝撃で現実と向き合えていなかったのはあるだろうが、廃人のように何もしていなかったと言われた方がまだ納得出来ただろう。
「む?若年性認知か?」
「こいつの首締めていいか?」
「やめときって。血が青いかもしれへんよ?」

……いずれにせよ、ブレイズが思い出したのはテレサが死に、フレイムによってあの戦いは終止符を打たれた事実だけである。その間も過去のブレイズは絶望に落とされ唖然としていたわけであり、自分の無能さを如何に理解したら瞬間であった。
しかし、彼女たちの話ではフレイムの炎の後処理をしたのは自分らしい。確かに当時のメンバーであれば、消火出来る能力を持っているのはブレイズのみだ。覚えていない為、胸を張って言えないのも事実であるが。
………アリシア。先程の薬の話に戻るが、それを所持していた男共は何処に行った?私を狙った目的は?」
「あーそれなんやけど
アリシアが気まずそうに答える。
「そのぉ行先はなぁ、えっウェンくん何処やったん?」
………例の薬を打ち返したら眠ったから、トラックに詰めたら、その、エンジンがかかっていてだな。まぁ何事もつけっぱなしは良くないってことだろうな」
……先程から騒々しいこのサイレンは
膝の上から俺は知らないぞ、とぼやきが聞こえてくる。救助隊がユニオン警察に世話になってどうする。まぁ脱退した自分にはあまり関係の無い話だが。
「それともう1個はぁあんまこんなこと言いたくないんやけどぉウェンくんもいるしぃ
「この化け物のことは気にするな。…………まぁお前が言い淀んでる時点で大方理解したがな」
膝の上から解せないぞ、とクレームが飛んでくる。彼女が戸惑うことと言えば、まぁ女が暗い路地を一人で歩いていたとなればそういう目的で薬を盛って攫おうという魂胆だろう。
……いや、睡眠薬でも麻痺針でも無いのだろう?」
「いやぁ、多分業者側が間違ったんよぉ。パケ似とるし、見た目も匂いも似ててなぁ。ウチもブレイズちゃんの反応見て、どっちか判断しようと思ってたんよ」
業者側のミスで、自分はあんな胸糞悪い記憶を掘り返されたというのか?理不尽極まりない話である。忘れていた記憶が蘇ったとはいえ、出来れば永久に忘れてしまい記憶であった。
とはいえ、もう一度あの光景を目にしたことは、ある意味でブレイズに冷静さを与えた。客観的に事故を見つめ直すことで自分の弱さ、間違いそして仲間の強さを、改めて実感した。

……なぁ、ブレイズちゃん。ほんとに救助隊やめるんか?あんたとたいちょーと、テレサちゃんの夢やったんやろ?」
………そうだな、夢、だったよ」
「テレサちゃんの夢見てた救助隊にさ、多分あんたは居なきゃダメだと思うんよ。あんたが居なきゃ、テレサちゃんが夢見た救助隊にならないと思うんよ。そしたらさ、」
……………………
「テレサちゃんが自分の命を犠牲にしても守りたかった夢が、叶えられないままになっちゃうと思うんよ。

──────それって、めっちゃ悲しいことやと思う」
……………………………

テレサはいつも言っていた。大きくなったら三人で、街のみんなを守れる騎士団を作ろうね、と。
三人で。そうだ、三人で、だ。
ブレイズだって夢見ていなかったわけじゃない。三人で正式な騎士団を作り出すことを。

「でもその夢は、叶うことは無い。彼女がいないから」
「ブレイズ、本当にそう思うかい?」

聞きなれた声が、灰色の路地に灯りをともすよう響く。膝の上から少年がひょいと降りた。

…………フレイム放って置いてくれと伝えたはずだが?」
「無理だよ。君は困ってるんだろう?困っている人を助けるのが、救助隊の仕事だからね」

フレイムは、笑顔を見せた。
それは、助けを求める人々を安心させる為にと、彼が一番に向ける笑顔だった。

「俺さ、あの後アリシアと一緒にテレサの部屋を掃除したんだ。女性の部屋を漁るのは気が引けたけどでも、あのままにしておくのも良くないと思って。テレサなら、早く片付けて自分の代わりになる人材を住ませろ、って言うと思ってさ」
彼女はいつだって救世主サークルの発展のために死力を尽くしていた。目的の為になら時に残酷にもなれる、勇敢な女性だった。
「そしたらさ。彼女の金庫から、これが出てきたんだよ。君にも見せなきゃって思ってたんだけど、君はあまり思い出したくないみたいだったから」
そう言って、フレイムは一枚の紙切れをブレイズに手渡した。
ブレイズは、渡されたそれを一度じっと見つめると、破かぬようゆっくりと開く。
そこには、懐かしい彼女の綺麗な文字が並んでおり、彼女の声を思い出させるような柔らかな文章が綴られていた。




"拝啓 救世主の皆様へ

調子はいかがお過ごしでしょうか?皆は、無事に頑張ってくれてるかな。きっとこの手紙を読んでるってことは、私はこの世界にいないんだよね。大丈夫、寂しくないよ。ママもパパもいるし。それにね、なんとなく、こうなる気がしてたんだ。私の勘ってよく当たるんだよ。だからね、私は君たちを置いて言っちゃう気はしてたし──────私が居なくても、君たちは私の夢を叶えてくれるって、確信してるの。

私はね、死んでも君たちのそばに居るよ。
だってほら、君たちは組織のこと考える時、必ず私のことも一緒に思い出してくれるでしょ?
だから、ずっと一緒。
君たちが生き続けてくれれば、私も君たちの心の中で生き続けられる。
君たちが前に進み続けてくれる限り、私の炎も消えないよ。
だから君たちにも、私の想いを、記憶を、燃料にして
────世界を導く灯火になって欲しいな。

ずっとずっと応援してます。大好きです。

Teresa・Flos "





………………

「ブレイズ。テレサの想いを、夢を、俺達が継いでいこうよ。

────俺達が、世界を救うんだ」

青年は、太陽のような笑顔で、
灯火のように暖かい手を、差し出した。

………………私もテレサの想いや皆の努力を無駄にはしたくないさ。けれども、私が戦う理由はお前達とは違う。

────私は、お前達が無事で、笑っていてくれればそれで良かったんだよ」

だから、ブレイズはその手を取る事が出来ない。例え彼の暖かな炎が、その手が、自分の冷たく固く覆った氷を溶かすことが出来るとしても。

「っなら!ブレイズちゃんがたいちょー達を守ったらええんちゃう?」
…………私が?」

食いつくように立ち上がるアリシアに、ブレイズは一瞬戸惑うがその意味をゆっくりと消化したのか、真っ直ぐと向き合う。

「世界を守るのが救助隊なら、救助隊をブレイズちゃんが守ってやればええんよ!ブレイズちゃんが苦しい時はもちろんうちらが助けるで?困ってる人を助けるのが救助隊、やからな!」
…………………
「ブレイズいや、救助隊の騎士様」

フレイムがもう一度、灯火を差し出す。


「救助隊を、みんなを、

────俺達のことを守ってくれないか?」






ブレイズは、初めてその手を、


取った。

それは、雪解けだった。















………ってなことがあってさぁ大変やったんよぉま、ブレイズちゃんもやる気出してくれたし、悩みも解決したみたいで結果は万々歳やけどなぁ」
「それはそれは、お疲れ様。二人とも。ブレイズちゃんを取り戻してくれてありがとう」
「俺は割と何もしてないぞ」
「確かにウェンくんは何もしてへんなぁ

夜の救助隊は至って静かである。昼の賑やかな空気が嘘のように、穏やかな朱色のライトがぼんやりと辺りを照らしていた。
ユニアはひたすらに謝罪を繰り返す姉弟をフレイムと宥めた後、フレイムがブレイズを探しに行くと出ていったため、姉弟達二人に新たな"役職"を与えていた。

「まずはレインちゃん」
「はっ、はいぃ!」
「そ、そんなにかしこまらなくて構わないよ?ただ私は、キミ達に生きる理由を見つけて欲しかったんだ」
「い、生きる理由、ですか?あ、えと、あの、私はお姉ちゃんなので、多分サニーを守ることがえと、その、役割なのに守れなくて、それでテレサさんか」
「ね、姉ちゃん
「はい、その話はもうおしまい!テレサちゃんだって、助けた子が笑って生きてくれてなきゃ報われないよ。彼女はキミ達に生きて欲しいって思って助けたんだからさ」
ユニアは姉弟の肩に軽く手を置く。
「キミ達には技術室を与える。技術室となる場所は、テレサの部屋だ」
「え、ええっ!?」
二人は驚愕の声をあげる。
「あ、あの、テレサさんの代わりなんかにおれたちは、なれません。能力もないし戦えないし」
「別に戦うことだけが救助隊の役目じゃないさ。例えば、キミ達が発明したロボットで怪我人を運んだり、人が通るには危険な場所を進んだり、偵察したり色々できるだろう?」
「技術……
ユニアは笑いかけた。新しい生徒が出来たのは、教員である彼女にとって実に喜ばしいことだった。

「どんな高度な技術でも、正しさを理解している人が使わないと意味が無い。キミたちは、その正しさをよく知っているよ」




こうして救助隊の技術顧問に認定された二人。後ほどテレサの部屋を改装して技術室に作り替える予定である。
「私はね、きっと二人ならテレサの想いを継いでくれると思ったんだ。形は違えど、あの子たちはテレサと同じく"正しさ"が何かをよくわかっているみたいだから」
「せやなぁ。にしてもメカニック姉弟の二人はともかく、たいちょーもブレイクちゃんも泣き疲れて寝るって子供みたいやんなぁ。安心してるって証拠かもしれへんけど」
ソファには四人で身を寄せ合うように眠る姿があった。ユニアは既に端末の写真に収めたようで満足気に眺めている。
「まだまだ子供ってことさ」
「ウチもあの子たちと同い歳なんやけど!」
「それを言うなら俺とサニーは何になるんだ?ミジンコか?」
「あはは!みーんな、私にとってはお子様だよ!」

ユニアはカラカラと笑った。








「firefeather救助隊は、この胸の炎がある限り、この背中の翼がある限り──────

永遠に燃え続けます
俺達が、世界を羽ばたかせる平和の羽となりましょう。世界を導く正義の灯火となりましょう。

俺達の炎が、世界を守ります」





Fin.