ななき
2024-09-27 02:04:11
654文字
Public 吸死
 

夢でも死神でもないハッピーエンド

(ドラロナ)
どこか遠い海辺の街に住んでいた人による思い出話

私が昔住んでいた街には、おかしな男がいた。
毎晩、小さな瓶に紐をつけて引きずりながら海岸を歩くのだ。
何をしているのかと問うと、彼は、恋人の身体を集めているのだと答えていた。
磁石に寄り付く砂鉄を失った恋人の欠片だと思い込んだ、かわいそうな男。

瓶に時折話し掛ける素振りをする他は穏やかな男で、私も何度か話したことがある。
彼が持つ瓶の中には黒っぽい砂が入っていて、
瓶についた同じような砂を集めては、また瓶に入れていた。
もうすぐなんですと笑う彼に海辺の街の優しい住民達はいつも、
早く会えるといいねなどと気休めの言葉を掛けたものだった。

彼を最後にみたのはおそらく私だろう。
深夜、海岸の作業小屋に忘れ物を取りに行った帰りのことだ。
彼と、見たことのない痩せた男が泣きながら怒鳴りあっていた。
助けに入るべきかと逡巡する間に、痩せた男が彼を全てから隠すように抱きしめた、ようにみえた。

ように、であるのは私が彼らの姿を見失ったからだ。
月が翳ったことによる一瞬の闇が去った時、そこには誰もいなかった。
夢か幻のように、かわいそうなあの男は消えてしまったのだ。

まさかあれだけ怒鳴りあっていた相手が蘇った恋人ということはあるまい。
痩せた男は迎えにきた死神か何かで、とうとう気が触れた彼は、海に入ってしまったのだろう。
しかし私は、あのふたりが海の底で仲良く喧嘩しているような気がしてならない。

満月と波に散る光を背景にしたふたりは、
それはそれは美しく幸せな舞台の一幕のようであったので。