紬実
2022-05-30 00:52:08
1220文字
Public ジェステ
 

マクステ前提のジェステ

マクステの幸せを願いつつも不意に歯止めが利かなくなってスティーヴンの前に現れてしまうジェイクが好きだな(幻覚)と思い書きました。ジェイクは間久部緑郎ぽいですよね……誰か分かる人……

ほんの少しの違和感。
彼と過ごすようになってからこの言葉はよく聞いていた。頬を緩めながらも僕は眉間にわずかなシワを寄せる。
「愛してるスティーヴン」
マークの言葉を頭のなかで反芻する。きみはいつもそう言ってくれるね。
懇願するように、愛しさを確かめるように。そして今日はそこに焦りのようなものが含まれていた。
「きみ、マークじゃない」
抱き締められた感触すら同じだった。それでもなにか心の奥底が些細な違いを教えていた。
ゆっくりと身を離すとマークによく似た彼は口の端をニヤリと歪ませた。
「やっぱりわかるか」
「わかるよ、きみは誰」
「俺はジェイク、ジェイク・ロックリー」
「ジェイク」
今度は僕が確かめるように名を呼ぶ番だった。
いつから、とか、どうして、とか言うべきことを考える前にもう一度抱き締められる。マークとは違う少しだけ乱暴な手つき。
「愛してるスティーヴン」
「ええ……と」
困った弱々しい声が漏れ出る。ジェイクは溜め息をつくと「あいつより……」と呟いた。
「俺の方がお前を愛してやれるよ」
耳元で囁かれ肩が震える。突き放そうとした手をとられ眼前で彼の睫毛が揺れるのを見る。
「マーク」
「あいつは来ない」
吐息のかかる距離で見つめあい、彼の考えていることを探ろうとした。それでも、なにも読み取れない。片方だけ充血した目は僕を見据え、その奥にある気持ちを取り出そうとしているようだった。
「お前が好きだよスティーヴン」
何度も愛してる、好きだと耳元で囁かれる。彼の言葉は僕の胸をくすぐり、動揺させた。
マークと似ている声。見た目だってそう変わらない。けれど、目の前にいるのはマークじゃない。
「ジェイク、僕はきみをよく知らない」
「知ったら俺を愛してくれるのか?」
荒々しい態度は変わらないくせに、その表情の一端に影が差すのが見えた。
「お前はなにも知らなくていい」
君もマークと同じことを言うんだ。全く知らない人物であるはずなのに、僕は妙に納得をした。確かに彼もマークのもうひとつの人格なんだろう。
革手袋をはめた手が僕の頬をなぞった。少しだけひんやりとした感触が肌を伝う。
「あいつは来ないよ」
もう一度繰り返すとジェイクは僕と唇を合わせた。逃げることだってできたはずなのに、僕は動くことができなかった。
「ジェイク」
彼の名前を呟く。見た目によらない優しいキスに彼の本質を感じた。
僕を見るジェイクは濡れた唇の間から舌を覗かせながら目を細めて笑っていた。
「愛してるよ。お前が生まれた時からずっと」
背筋を駆ける悪寒はマークに対する罪悪感か、彼の一部を垣間見た喜びからか。それこそ熱に浮かされたように彼のことをもっと知らなければいけないと思った。
僕がマークを愛するように、この好意を無下にはできない。
「僕もきみを愛せるかも」
そう言うとジェイクは目を光らせ、面白いものを発見したとでも言いたげな笑みを浮かべた。