Nosmi
2024-09-23 18:35:20
3433文字
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とある果物売りの話 (ライシュロ)

清様(@kiyo_midnight)主催の「おいでよライシュロの町」企画参加作品です。

本編後、新メリニの青空市場で果物屋を営んでるおばちゃんモブ目線です。

 新メリニの城下町一番の名物は活気あふれる朝市だ。
広場に立ち並ぶ露店の品も買い物客も、あらゆる場所からやってきてるからここだけで世界一周旅行ができるなんて謳い文句も伊達じゃない。
ウチだってただの果物屋ではあるけれど、ここいらでは見かけない外国の果物も取り扱ってるんだ。
まあそれも珍しい果物と見りゃすぐ飛びついて仕入れてくる亭主のせいだがね。
こんなよくわからないもんを大量に買いつけてくるなって喧嘩も毎度のことさ。
でも仕入れちまったもんはしょうがない。それを売り捌くのもアタシの腕の見せ所ってね。
 今日も道行く通行人に片っ端から声をかけていく。
「そこの兄さん!1個でもいいから買ってきなよ!」
 ちょうど前を通りかかった男はこちらに目線だけよこすと、ある一点を見てギョッとした顔になった。
よし、足を止めさえすりゃこっちのもの。
「おっ、いいところに目をつけたね!こいつは今日仕入れたばかりの新商品だよ!見た目はこんなだけど現地の南国じゃあ大人気でね。どんな味か知りたくないかい?」
……どんな味なんだ?というか食べ物なのか?」
「ピタヤっていう立派な果物さ!この鱗みたいな皮は手でも剥けるし中身はそのまま食べられるよ。さっぱりしててそこまで甘くないから他の食材と合わせるのもオススメだね!」
 説明を聞きながら男は顎に手を当ててまじまじと果物を眺めている。
これはいけそうな感じがするので相手の身なりからもう一押しになりそうな話題を探す。
服装と髪型からして東方出身、腰から細い剣をさげているし、旅人か傭兵あたりかね?
「それとこれは体にすごく良いんだよ!元気でなくちゃ何にもできないからね。何か食べるにしたって健康になる方を選んだ方がいいに決まってる!お試しだと思って、1つどうだい?」
「あー……うん、ではこれを1つくれ」
「毎度あり!」
 お客は代金を渡すと商品をそのまま手に持って去って行った。
やっと1つ売れた、とアタシは内心ほっとした。隣に並ぶイチジクやブドウは順調に売れてるけど、これの見た目はどうにも派手だからみんな引いちまうんだよね。アタシだって初めて見た時にこれは魔物の卵だって言われたら信じたろうさ。
あとは物好きな常連が来てくれればもう少し売れるだろうけど、昼を過ぎて人も減ってきたし周りも店じまいする所が増えてきた。
今日はもうダメかねえ。
 そう思いながら空き箱を片付けているとさっきの客が戻ってきた。
「あれ、兄さん手ぶらじゃないか。さっき買ったの落としちまったのかい?」
「いや、美味かったからまた買いに来た。一袋頼む」
「あれまあ、そいつはよかった!すぐ用意するからね!」
 予想外の注文に上機嫌になったアタシは大きくて形のよいものを選んで5つほど袋に詰める。
「ありがとうね!この2つはおまけだよ!」
 入りきらなかったおまけは別の袋に入れて渡すとお客の手が止まった。
……いや、このおまけは返す」
「えっ?」
 おまけを断る人なんて初めて見たもんだからそりゃあ変な顔をしてたんだろうね。お客はちょっと困ったように笑って言った。
「ああ、要らないわけじゃないんだ。後日きっと別の人間がこれを買いにくるから、このおまけはそっちの方につけて欲しい。………多分、驚くかもしれないが」
「はあ、まあ兄さんがそれでいいならいいけど……
 そう言って1つの袋だけを片手に抱えてお客は足早に歩いていった。
よくわからないけど何か事情があるんだろ。買いにくるって言ってたけどいつ誰が来るかもわからないし、不思議な客だねえ。
まあまだ山盛りいっぱい残ってるから来てくれりゃあそれでいいか。
アタシはそう思って片付けに取りかかった。



 昨日に続いて今日もいい天気だ。
市場もいつもの盛況ぶりであちこちから元気な声が聞こえてくる。
常連とついつい話し込んでいたら通りの奥からザワザワといつもと違う騒がしさが聞こえてきた。
何か事件でもあったのかね、と顔を見合わせていると、みんな口々に『王様だって』『えっ王様が来てるの?』『なんで王様がここに?』と話している。
「あら珍しい。お忍びの視察かしら?」
「アッハハ、こんだけ噂になってちゃお忍びも何もあったもんじゃないね」
 偉い人が来ていようがどのみち他人事だ。そのままお喋りを続けていたら2,3軒隣りから「あっ!」という声が聞こえた。
そっちの方を見る間も無く、ぬっと大きな影が店の前をふさぐ。
それだけでもびっくりしたのに、よく顔を見れば噂の王様じゃないか。
なんだってこんな店に?いやそれよりもこういう時の作法なんてどうすればいいんだい?
固まってるアタシの様子が全然気にならないようで、王様は構わず話しかけてきた。
「ちょっと聞きたいんだけど、昨日この店に黒髪で東方の格好をした男が来なかったか?」
「ああ……えっと、はい。その御仁なら昨日ここで買い物をしていかれましたけど……
「やっぱり!昨日『お前が好きそうな物を見つけた』ってこれをもらったんだけど、あっさりした甘さで食感も面白いし何より見た目がカッコよくて!それでもっと欲しいと思ってこの店のことを教えてもらったんだ。あとこの果物についての話も聞きたくて……名前は聞いたけど産地はどこ?どんな木に成るんだ?栽培環境や生育条件は?」
 最初は呆気に取られちまったけど、まるでその辺の男の子みたいに目を輝かせてあれこれ話してくるもんだから気が抜けるやら微笑ましいやら。
「すいませんね陛下、仕入れ先やら詳しいことはウチの亭主がやってるもんで、今は配達に行ってていないんですよ。市場が終わる頃には戻ってくると思うんですがね」
「そうか……それならとりあえず先に買っていいか?」
「ありがとうございます!いくつご入用ですかね?」
「えーと……1箱ってここに置いてるくらいの大きさだよな?じゃあ3箱」
「3箱!?」
「えっダメ?」
「い、いやいやダメだなんてとんでもない!ちょっとびっくりしちまっただけで……ありがたくて申し訳ないくらいですよ!」
「よかった、他のみんなにも食べさせたいんだ。後で城に届けてくれないか?市場が終わってご主人が戻ってきてからで構わないから」
 承知すると王様はにこっと微笑んだ。
昨日は6個しか売れなかったのに今日はいきなり3箱、それもお客が王様ときたもんだ。
「あの御仁、別の人がきっと買いにくるって言うから誰かと思えば陛下ご本人だなんて。まさか夢にも思いませんでしたよ!」
「えっシュローが?ああ、いや昨日の彼がそう言ったのか?」
「ええ。買ってくださった時に2つほどおまけをつけようとしたんですがね、その分は後日買いにくる方につけて欲しいって」
 そう聞いて王様のほっぺたはリンゴみたいに赤くなった。
まあねえ、自分の好みも行動もお見通しだなんてなんだか照れくさいもんだよねえ。
でも相手が好きそうなものを見つけて、ちゃんと自分で食べて確かめて、体にいいものを少しでも多く相手にあげたくて。なんとも健気じゃないか。
面と向かってできないあたり、いかにも奥手そうな感じだったしねえ。
なんて口には出さずにニコニコしていると、
……そのおまけだけ先にもらっていいかな?」
「もちろん!」
 まだ赤いままの王様に手早く果物を詰めた袋を渡す。
それを受け取って「ありがとう!」と言うが早いか王様は走っていった。
置いていかれたお付きの人たちが慌てて追いかけて行くもんだから思わず声をあげて笑っちまったよ。

 さて、嵐が去ったからには仕事の続きだ。注文の3箱分は家の納屋にちょうど残ってたから、あとはここにある一山だけ。
「さあさあいらっしゃい!王様直々に来られるほど美味しいピタヤだよ!これから話題になること間違いなし!買うなら今のうちだよ!」
 客引きのかけ声はこれ一度きりで終わった。次から次へと差し出される手の上の金と果物をひたすら引き換え、気がつきゃ台の上は端から端まですっからかんだった。
こりゃ今日はもうおしまいだね。
台の上を軽く拭いてかごを伏せ、箱を重ねて下に仕舞う。
ウチの人が戻ってくるまでにはまだ時間があるから先に買い物を済ませとこうか。
今日はいい日だからね。馴染みの八百屋と肉屋に寄って、あの人の好きなシチューを作ってやろう。
もちろんデザート付きでね。