いを
2024-09-23 14:53:22
688文字
Public ブツメツフツマ
 

落陽/落葉

無告
・公紲さん【higasa_onink】
お借りしています。

 靴底が廊下をきゅ、と鳴らす。
 窓の向こうは秋らしく暖色に染まった葉がかすかに見えた。きっとこれから早々に散っていくのだろう。
 公紲と進路指導室で会う約束をしている。仕事用のノートとペンをたずさえながら、長い廊下をただ歩く。
 ドアノブをそっとまわして狭い教室に入ると、公紲はどこか考え込んだ様子で窓の外を見つめていた。
「何を眺めているんですか」
 そう問いかけると、自然な様子で彼は「自分は何者になるんだろうなと」とつぶやいた。
 青少年らしい問いだけれど、健全な、ごくごく一般的な家で育っていたら、そんなことを考え込むことはなかったかもしれない。
 幼かった公紲の手のひらのあたたかさを思い出す。おおきくなった。本当に。
「君は何者にでもなれますよ」
 無告はそう答えた。
 せめてここにいる間は縛られないでほしいと願う。
 ――家に、血筋に。
 白い指が無告の指先に触れ、その体温をゆっくり感じながら静かに彼の言葉を聞く。
 焼き芋をやりませんかと言い、彼はかすかに笑った。
「昔、やりましたね。焼き芋。落ち葉を集めて」
 目を細めて思い出す。熊手でかき集めた落ち葉に火をつけて、ふたりでさつまいもを焼いた。銀紙を巻いて、火にかけて。焼き上がったものを、うれしそうに食べていた彼を思う。
 けれど。
 そう、けれど今はもうあの頃の公紲ではない。だからこそ無告は過去の公紲も今の公紲も慈しみたいと思う。
「休みの日、久しぶりに私の実家でやってみましょうか。焼き芋」
 日が落ちそうになっている。
 落ち葉のような色の夕日が、この狭い教室に鮮烈に差し込んでいた。