理由あって、高塔戴天と寝た。久々、と言うべきか、今の名になってからははじめて、と言うべきか。高塔の名を持たない俺には、後継ぎも経済的損失も関係ない。恋愛は自由だ。
その翌朝だ。戴天は愛らしかったと言っていいだろう。わだかまりがあるものの、お互い感情を曝け出した。今まで言えずにいた言葉を吐き出した戴天からは、宝石のような輝きが生まれた。事後「汗が匂いますから」と控え目に言ってシャワールームに消えた戴天は、また完璧な社長の振る舞いをしようとしていた。
それがどうだ。
朝日が差しても、戴天は俺の腕を抱き込んだまま目覚めない。何度声をかけても、むにゃむにゃと意味不明な言葉を返すばかり。昔から寝起きが悪い男ではあったが、話が通じない程ではなかった。揺すれば起きたし、寝ぼけながらでも支度はできていたのだから。
頭をぽんぽんと叩く。肩を揺すりながら声をかける。家に送り届けるためには起こさなければならない。
「おい」
「……んぁ……」
「起きれるか?」
「……ふ……ぅ」
あの頃のように揺するが、まったく効果がない。どうしてここまで。
――寝ていないのかもしれない。
社長になった。責任感の強い男だ、激務だろう。そして内外に隙を見せることは許されない生活。ストレスを感じるだろう。感じないとすれば、麻痺しているだけだ。
今は安心して寝ていると思うと、乱暴に起こすのもしのびない。俺は、身支度をしてやろうと考えた。
腕を引き抜き、裸体の戴天を抱きかかえる。長い髪がこぼれ、流れ落ちる。この部屋には戴天の寝巻きはない。念の為、空調は暖かくしておいたが、正解だったらしい。
脱力しながらも俺の首にしがみつく。お姫様だっこというやつだが、どうにも幼くロマンチックさに欠ける。呆れながらシャワールームに運んだ。
「……ぅ……」
「座れるか?」
風呂椅子に座らせると、俯きがちだが崩れ落ちることはない。転ばないなら一安心だ。
戴天が着けていた髪留めで簡単に長い髪をまとめる。シャワーをかけてやるのも考えたが、後々怒られると思うと行動には移せなかった。
俺は洗面器に湯を張り、手のひらで掬う。
「顔を洗うぞ」
「はい……」
なんらかの会話だと理解できたのか、ぼんやりとした返事が聴こえる。ぱしゃ、と温水で何度か顔をすすぐ。洗顔フォームは高塔の製品ではない、俺の普段づかいで申し訳ないが、せめてしっかりと泡立ててやった。
泡を流し、タオルで拭く。ぺちぺちと化粧水を塗ってやると、閉じたままのまぶたが微かに動く。この下にある鋭い瞳が、昨晩熱っぽく俺を見ていたと思うと不思議なものだ。
さて、ここまでやってやれば目が……覚めない。また船を漕いでいる。どこまですれば起きるのか。
「体も洗うか」
触れ合って寝ていた。少なくない寝汗をかいたはず。洗ってやって感謝するかはともかく、叱られることはないだろう。
温水で身体を流す。ふわぁと間抜けな声が聞こえたが、まだ目覚めない。泡立てたボディソープで肌を撫でてやると、リラックスしたようすでため息が漏れる。
「はぁ……」
「……警戒心はないのか」
昨夜あれほど官能的だった白い肌が、ただ無防備に俺の手の中にある。俺がその気になればスクープ写真をばら撒くことができるのだが、気付く気配もない。そのようなことをするつもりは無いが。
「触るぞ」
センシティブな部位、下腹に触れる。もちろん昨晩はそこそこに触れたのだが、早朝に触れるのは断りがいるだろう。今はベッドタイムではないのだ。
「ふぁい……」
ふわふわとした返事。あまり触れないよう、泡で撫でる。動物を撫でているようで、官能的ではない。
「んー……」
「……そういえば。アンダーヘアを気にしていたな」
夜を思い出す。ベッドシーンで触れた瞬間、「恥ずかしいです」と言っていた。整えられていたように見えるが、あまり触れられたくないらしい。
そしてちょうど、カミソリの買い置きがある。
「……アンダーヘア、整えるか?」
「……ふぁ……はい……」
戴天はこっくりと頷いた。
脚を開かせ、合間に入る。後ろから抱え込むことも考えたが、このほうが確実だろう。
たっぷりの泡で潤わせ、カミソリを当てる。軽く、形と長さを整える程度でいいだろう。淡い色のアンダーヘアだ。さほど目立たない。
「一回り小さくするか……」
肌を傷つけないよう優しく、撫でるように。自然な形を保つように。
「……少し左右のバランスが崩れたな」
花を生ける時とは勝手が違う。幸い戴天はまだこっくりこっくりと夢うつつだ。もう一回り小さくすることで、バランスを調節する。
「……む」
形がいびつになった。全体で整える。
「……むむ」
ボリュームが難しい。この小ささでは、少し間が抜けて見える。
「……仕方ない」
俺は、もっとも美しく見えるバランスに整えた。
服を着、戴天にも着せる。途中で自律行動が始まったので、目覚めは近いだろうと判断する。珈琲を用意していると、ソファに座らせられていた戴天が俺に声をかけた。
「……おはようございます」
「あぁ、おはよう。やっと目が覚めたか」
「なにやら色々とやっていただけて……ありがとうございます」
構わない、と答えて珈琲を手渡す。素直に受け取った。
「寝ていないのか?」
「……もちろん、睡眠が重要だとは思っているのですが。どうにも忙しく」
珈琲を啜ると、俺を見上げる。
「けれど、久々によく眠れました。あなたのおかげと言ってもいいでしょう」
いつもの不敵な笑みとは違う、少しはにかんだ笑み。俺は照れ隠しに、珈琲で口元を隠した。
お手洗いを借りますと言って立ち上がった戴天がものすごい速さで戻ってきた。
逆にいままで気づいていなかったのか。俺のシャツを掴みがくがくと揺さぶる。
「何をしたんですかっ?」
「すまない。バランスが崩れた」
「バランスをどうしたらそうなるんですか! 驚天動地ですよ!」
「許可は取った」
「寝起きの私を信じないでください!」
理不尽。俺は揺すられながら考える。
こんな姿を見られるのも、俺だけなのかもしれない。そう思うと、少し誇らしい。
「……フ」
「何がおかしい!」
どすの利いた戴天の声に、俺は笑いを堪えきれなかった。
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