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溶けかけ。
2024-09-22 13:10:42
2330文字
Public
ほぼ日刊
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雨の愛悼歌
未亡人ヌヴィレットと拙宅双子のお話です。
⚠子ども捏造注意、ヌヴィフリ結婚してます
土砂降りの雨の中、一人の男性が佇んでいる。その表情は長い銀糸に遮られ、窺い知ることが出来ない。嘆き、悲しむ友人に声をかけたくとも、旅人には資格がない。何かを言うために口を開いては、言葉が見つからず、落胆しながら口を閉ざす。無意味なことを繰り返す旅人の横を小さな影がすり抜けていった。銀波のようなそれは、二つ分。佇む彼と彼の愛した女性との愛の結晶。いや、忘れ形見と言うべきか。
「パパ
……
!」
「ぱぱ
……
!」
「泣かないで
……
っ!!」
喪服を泥で、或いは砂で汚した小さな手にはそれぞれ、穏やかな湖水の色をした花と夜明け色の星が握られている。
男性
――
ヌヴィレットの上着の裾を掴み、彼と彼女の子供たちは泣き出しそうな、それでも精一杯の笑顔を見せた。
自身の子どもたちを見た彼は少しの間、時が止まったように動かなかった。「ヌヴィレット?」旅人の呼びかけに、我に返ったヌヴィレットがゆっくりと屈み込み、小さな二人をぎこちない動きで抱き締めた。
「ぱぱ、ままが『あめがふったらぼくのかわりにぱぱにあげてね』って
……
!」
舌足らずで、それでも一生懸命に伝える娘。足からは転んだのか血が出て、喪服は泥だらけだ。その手には湖光の鈴蘭が握られている。
「パパ
……
ママが『泣き虫は嫌いになっちゃうからね』って言ってたよ」
喪服を砂で汚して、母親の言葉を正確に伝える息子。その手にはルエトワールが握られている。二人を抱きしめ、小さく息を零すヌヴィレット。
「不甲斐ない父親ですまない。
……
二人共、よく頑張ってくれた。
――
ありがとう」
二人の頭を撫でれば、子どもたちは堰を切ったように泣き出した。ヌヴィレットは、わんわんと大きな声を上げて泣く双子に、抱き込む力を強くした。
「姉さんのわからず屋!」
大きな声と共に走り去る足音が聞こえて、仕事帰りのヌヴィレットは目を丸くした。フリーナがいなくなって早数十年。子どもたち二人の成長は顕著に違ってきていた。
「何があった?」
ヌヴィレットが尋ねる。部屋の真ん中では未だ幼い姿をした娘が仁王立ちで立っていた。彼女は彼の声にビクリと肩を跳ね上げた。疚しいことがある、と言っているようなものだとヌヴィレットは小さく肩を竦めた。
「父様には関係ないわ!」
ぷい、とそっぽを向いた娘にヌヴィレットは内心で溜息を吐いた。外見こそ、自身に良く似ているが、性格は妻のフリーナに良く似ている娘は少し強情なところがある。ヌヴィレットは部屋へと足を踏み入れると小さな体を抱き上げた。
「関係なくはないであろう? 私は君たちの父親なのだから」
「姉弟喧嘩は姉弟がするものだからパパは部外者だわ!」
屁理屈を捏ねる娘にヌヴィレットは苦笑する。きっと、フリーナならばもっと上手く情報を引き出せたのだろうが、彼にそのような手腕は端からなかった。出来ることは真摯に問いかけること
――
それだけだ。
「父様なんか嫌い! 弟も嫌い!」
腕の重みが不意に軽くなる。娘の気配はすでに家の中にすら存在しなかった。
「姉さんが悪い」
娘と話したヌヴィレットは今度は息子の部屋へと歩を進めた。部屋の隅で膝を抱えて蹲っていた彼はヌヴィレットの姿を見るなりそう言い放った。
「話したいことなどは
……
」
「ない。いつまでそうしていても、無駄なこと
……
父さんなら分かってるでしょ?」
ヌヴィレットは手を小さく上げて首を横に振る。降参だ。容姿はフリーナを彷彿とさせる彼だが、性格は自身に似ているところがあることを良く知っている。
つまるところ、今のヌヴィレットに出来ることはないということだろう。ああ、彼女がいてくれたら
――
なんて詮無いことを想う。「こら、ヌヴィレット! 甘えるんじゃない!」と叱咤激励するフリーナの声が聞こえた気がした。
「二人ともこんな所で何を
……
」
その日の夜、すすり泣く子どもたちの声を聞いたヌヴィレットは子供部屋を訪れていた。夜雨がしとしとと降るなか、部屋の隅に一塊になって泣く姿はヌヴィレットの胸を締め付ける。
「ままにあいたい
……
」
娘がぽろぽろと涙をこぼす。息子は自身の姉に「泣かないで」と言いながらも、色違いの青い双眸からは同じように涙を流していた。
ああ、やはり。私には荷が重い
――
幼子のままの小さな娘に、成長して少年となった息子。龍の力をより濃く受け継ぐ娘は自身の成長を拒否することが出来るのだ。
「まま、まま
……
わたし、このままで、いるっ
……
だがら、がえっできて
……
」
娘の言葉にヌヴィレットが目を見開く。自身の成長を犠牲にしてもフリーナが帰って来るように願う娘に何をしてやれると言うのか。失くしたものは戻らない
――
彼は痛いくらいに手をきつく結んだ。
「姉さんのばかっ
……
そんなことして、母さんが喜ぶわけないだろ
……
」
声を上げて泣く姿はいつぞやの葬儀の日を彷彿とさせる。ヌヴィレットが二人を抱き締めれば、大粒の雨が窓を叩く。
彼は泣きつかれて眠るまで、小さな二人を抱き締めていた。
「いつになったら君に会えるのだろうな
……
」
眠ってしまった二人をベッドへ寝かせ、その傍に腰を下ろすと、彼の手は胸元にある曇り空の色をした宝玉へ向かう。
ジャボから主を亡くした神の目を外すとゆっくりと口づける。あと何度、君を想えばいいのだろう? ヌヴィレットは雨の音に誘われるように目を閉じる。夢で逢えたら、なんて使い古されたフレーズが頭を過ぎる。
悠久の終わりを龍は望んでいた。たった一人の愛しい人と再び相見えるために。
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