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Public まほやく
 

いやらしい雰囲気になる事はあるが、恋人に手を出される気配が全くない(パラロイオーカイ)


 いやらしい雰囲気になることはあるが恋人に手を出される気配がまったくない。
 そもそも言葉できちんと恋人同士だと確認したわけではない。旅先から送られてくるメッセージにこれこれこういうことがあって「きみのデータを再確認した」という文面がしだいに増えてきて、それはつまり「また、きみのことを考えていた」とか「また、きみのことを思い出した」という意味だけれど、熱烈な友愛のしるしのように思っていた。
 それを一身に受けているうちに、こちらのほうも甘いものを食べたときや生きている小動物を見かけたときに彼のことを思い出すようになって、彼が帰ってきたときに「俺もおまえのことを思い出したよ」と伝えたら「それって僕が『特別』になったってこと?」と尋ねられた。
 ああ、もしかしたらそういうことなのかもしれない、と思って、「そうかもしれない」と正直に答えたら、「じゃあ、僕たちは『特別』同士ってことだ」と言われて、それが指す意味ははっきりとはわからなかったけれど、送られてくるメッセージやスキンシップの頻度や熱量ははっきりと増した。
 そうなったら、ますます相手のことを思い出したり考えたりするもので、今のカインが「僕が『特別』になったってこと?」ともう一度尋ねられたら、はっきりと「そうだ」と答えるだろう。
 恋をしている。
 とはいえ、オーエンにとっての「特別」が自分にとって同じ意味を持つのかはわからなかった。ハグは、こういう関係になる前からしたことがある。手を繋ぐのは、人気の限定スイーツの店舗やワゴンに走って向かうときに手を引かれて、そのまま繋ぎっぱなしになっていたことが何度か。キスは、まだだ。
 CBSCを食べる口元を眺めていた。小さな口が大きく開かれて、やわらかな桃色のソフトクリームを食むさまを。人間のものとなにも変わらない赤い舌先が、唇の熱に溶けて伸びた桃色の液体をぺろりと舐めとるさまを。

「なあに」

 妙にあどけない声でオーエンが尋ねて、見つめていたことに初めて気づく。ドキリと跳ねた心臓が、いつから高鳴っていたのかはわからない。
 「なんでもない」と言うと、「ふうん」とつぶやいて「よくわからないがまあいいか」という顔をされる。本当に、自分の視線の意味に気づいていないのかもしれない。
 もし自分たちが恋人同士ならば、触れ合いたい。そういう気持ちをストレートに伝えるのが恐ろしいわけではない。伝えずに、憶測や遠慮で関係性がこじれてしまうほうが恐ろしい。けれど、タイミングというものがあって……悶々と考えていると、オーエンが「溶けてる」と指をさした。

「あ、ああ……

 その指先をたどると、たしかに自分のぶんのCBSCが溶けて、手まで垂れてきている。

「もったいない」

 きゅっと眉をひそめると、オーエンが身体を寄せた。肘をつかまれて、伝い落ちた甘いしずくを舐め取られる。べろりと手のひらを舐めあげ、それから、そこまで液体は至っていないはずの、手首のほうにツツツ……と舌先が下りていく。
 熱い吐息だか声だかが漏れそうになって、思わず天を仰いでしまう。ここが家でよかった。

「甘いね」

 オーエンはそう言って、にっこりと笑う。やっぱり、その笑顔は無垢であどけなくて、彼はこの世に生まれたての赤ん坊なのだという気がする。本人は自分が全知全能で、知らないことなどなにもないと言うけれど。

「どうしたの? 顔が赤いよ」

 熱でもあるの? と言って、額をくっつけられる――彼は触れ合わなくても、自分の体温を小数点以下まで正確に計測できるのではないのだろうか? そう思うけれど、至近距離で見る両目の紅にうっとりする。人工物とは思えないぐらい、けれど人工物であると言われれば心底納得するほどに、彼のすべては整ってうつくしい。ひとの美醜にそこまでの興味はないけれど、好きなひとがうつくしいのは見ていて楽しくて、うれしい。
 キスがしたい。
 ぼんやりとそんなことを考えていると、「熱はなさそう」と言って顔が離れていく。きっと離れて見る自分の顔はますます赤かったはずだ。オーエンは目を丸めて、「ああ、こんなところにもついてる」と言う。CBSCが、だろう。
 触れられたのは頬で、え? と思う。自分では気がつかなかった。子どもでもあるまいし、ゆっくりと食べていたから、なおさらそんなところにソフトクリームがつくわけはない……けれど、オーエンの顔に長く見とれていたから、そういうこともあるかもしれない。
 自分の指先で拭おうとするところを、制された。ゆっくりと顔が近づいてきて、ぺろりと頬を舐められる。

……ちょ!?」

 驚いて身体を引いたけれどオーエンに気にした様子はなさそうで、「ああ、ここにも」と言って、より口元に近いところを指される。またオーエンがふたりの距離を詰めてきて、ああ……とふたたび天を仰ぎたいような気持ちになっていると、彼は急に俯いた。そのまま動かない。

「どうした!?」

 故障か? と慌てるが、よく見ると身体が震えている。くっくっと笑い声も聞こえてきた。

……おまえ」

 まさか、と思って低い声を出すと、オーエンが顔をあげた。そこには愉快そうな笑みが浮かんでいる。

「全部わかってて、俺をからかってたのか?」

 オーエンは悪びれずに肩を竦めた。

「僕が全知全能で、知らないことはなにもないって、もう何度も伝えたと思うけど」

 きみがなにをしてほしくて、僕がなにをすべきなのかぐらい、知ってる。そう言う表情には、さきほど見せたあどけなさは微塵もなかった。そうだ、こういう男だった。性格が悪い。なぜ、それが頭から抜け落ちていたんだろう――恋をしているからか。

「じゃあ、なんでこんなことしたんだよ」

 俺がしてほしいことがわかっているなら、素直にそうしてくれればいいのに。うらめしげな声が出た。返ってくる答えはわかっていた。悔しがる表情や怒る表情、恥ずかしがる表情が見たいから、だ。
 オーエンは楽しそうに言った。

「だって、僕は全部知りたいから。さっさとキスしてしまったら、キスがしたくてしたくて我慢しているきみの顔は二度と見れないでしょう?」

 次はセックスがしたくてしたくて我慢している顔を見せてね、と言って、顔を近づけられて、三度目の正直になった。