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いを
2024-09-20 22:08:08
2342文字
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刀神
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散文まとめ
刀神
花を一本、差し出すだけで壊れる海/青嵐(140字お題)
あの花の名前を忘れてしまった。香りもあまりしない花だった。だから記憶に残らなかったのだろうか。けれど鮮烈な色だった。それを海に投げ入れると花は浮いたまま流れて行った。魂は楽土へ向かうのだと、私はそのとき信じていたのだった。花は今は海に沈み、海に住む命たちの一部となっているのだろうか。
生え揃った透明/桂木(140字お題)
遠い昔、昔とはいってもたかだか二百年ほど前の話だけれど、お前たちにとっては遠い昔だろう。まだ俺がぺーぺーだったときのこと。主が死んだんだ。いや殉職ではなくて、大往生でな。「おれは極楽へいけるかなぁ」と主は言ったんだ。それが最期の言葉だった。お前なら俺がなんて言ったかきっと分かるだろう。
ぼやける前の愛を憶えていてね/菊司(140字お題)
幸せになってほしいんだ。その役目俺じゃだめかなぁと思うワケなんだけど、でもきみはきみが一番いいように生きてくれることを祈っているわけで、しんどい思いしてまで俺に縛られなくてもいいんだよ。愛は苦しくてナンボかもだけど、きみにはきれいなものも見てほしいんだ。だから、覚えててね。俺なりの、
神はなくとも火は灯る/青嵐(140字お題)
生気の味をいたく気に入ってくれたらしいその刀神がいる。膝に手のひらをあてて、静かに目を伏せる。以前組んでいた刀神が「塩っ辛い」と言っていた生気は彼が呑む酒のような味だったのだろうか。ほがらかに笑う彼の若々しいおとがいは、私の中で永遠になるのだろう。きっと。いや、もう遅い。私は。
「胸と胸のあいだにある唯一を教えて」/桂木(140字お題)
薄いガラスの向こうにねっとりとした甘そうなケーキが置かれている。それを見た瞬時に「甘い」という感覚を思い出す。舌の上でじんわりととろけるような。あれはパフェというらしい。まるで執着みたいだと思う。一度触れたらずっとそこにへばりついているそれ。その感情はきっとあんな風に甘いのだろう。
あらゆる禍津を/桂木(140字お題)
こういう勝負って俺、あんまり好きじゃないんだよ。でもお前は酒が好きだったから、少しならいいよ。制限時間三十分でどれだけ飲めるか勝負しようじゃねぇか。健啖家が多いから酒が強いってわけじゃないの知ってたけど、お前はよく俺についてこれてたもんな。もう年なんだから無理するなよ。元主殿。
正しくなくても祈って/青嵐(140字お題)
目の前のくちびるが面白そうにゆるんだので、襟足のあたりを撫でてみる。つやつやとした長い髪が指の間をさらりと流れた。そのまま手をほおに触れ、「こちらでも生気は差し上げられますが」と呟く。私は、〝私がこちらが
好
い
い〟と感じてしまうものだから、ほおの次に素直に
くちびる
そこ
に押しつけた。
水面と最初の夢/桂木(140字お題)
雪が降っていた。足跡が、雪をてんてんを凹ませていた。まだ汚れていない清い雪だ。古い神社に奉納されて数十年がたつがこのあたりは毎年特別雪深い。腰を折って雪を拾い、そのまま口に入れた。冷えた塊がすぐに体に馴染んで水となって通り過ぎる。後ろを見ると次々降る雪で足跡はすっかり消えていた。
ほんの少しの浄化/青嵐(140字お題)
帯をほどくと、足もとに蛇がのたうつように落ちた。ぷすんと降魔が不満そうな声で鳴く。そこまで驚くほどでもなかったのだろう。そのまま浴衣の腕を引き抜いて、鏡に映った私の姿を、私の目がぼんやりと見つめる。ほかの人よりは貧相な分類に入るからだの鎖骨のくぼみに、うっ血したあとが残っていた。
真夜中に開く/青嵐(140字お題)
死ぬかもしれない、生き残るかもしれない。すべて仮定の生き方だ。それでもいいと言ったのか、それがいいと言ったのか覚えていない。けれども私はたしかに笑っていた。大義名分を果たせるかもしれない。そんな希望を私は感じ、同じくらい信じていた。死ぬことが怖いと言ったあのころの私はもういない。
「伝えたい、けれど忘れてほしい」/青嵐(140字お題)
海にぬれた砂浜は、すぐに白く乾く。私がここにいることを知っているひとは、ひとりでいい。これは夢なのだから。藤の鮮やかで華々しい色を見上げた。その下にその〝ひと〟がいた。ほんの少し笑ってみせる。この海と同じくらいにその姿が美しかったから。私はひとり老いて、きっとあなたを置いていく。
雪景色/桂木(140字お題)
雪が降るなんて珍しい。いやこの地域では珍しくないと主が言っていた。「いい天気だ。俺達には少なくともな」太い枝から雪が落ちる。今の主の髪色は雪の色と似ていて、景色にかぶった。せめて見失わないように音と足跡を聞き、見る。火花が散り、雪の中に消えていく。この氷はそう溶けてはくれないよ。
道化師たちの指と指/桂木(140字お題)
妖魔が暴れているのか、後ろの壁が吹っ飛んだと思いきや今度は天井からなにかが降ってくる。主がいる場所まで逃げているわけだが「おじちゃん鬼なの?」と左腕に抱えた少女が暢気に首を傾けた。あどけない顔だちだ。「そうだな」と頷く。すると初めて見たぁ、そう間延びした無邪気な声が聞こえてきた。
とおく鳴り響く/青嵐(140字お題)
私がなぜ刀遣いになったのか。少しでも多くの人間を妖魔から救いたいという思いだけではないこと、私自身も分かっているつもりです。それでもその思いを捨てたことはありません。今立たないでいつ立てというのでしょう。私は私である限り刀遣いで居続ける。どれほど傷つこうが構わない。私は刀遣いだ。
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