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カッパ巻き大車輪
2024-09-20 19:17:24
1946文字
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小説
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スネ6♀の小説
621ちゃんの脳内コーラル焼き付け中和手術をめぐるあれこれ。いつもの事ですが色々激しく捏造してます。
いつぞやの閣下から621ちゃんにヤケクソ告白したお話のゆるーい続き。
昨日から風邪の様な症状を見せていたレイヴンを、念の為にと施設に詰める医師の元へ連れて行った時のことだ。
診察後、柔和な面持ちの初老の医師は、タブレットに表示されたレイヴンの医療情報を一頻り眺めてから向き直った。
「風邪の引き始めですな。お薬を出します」
診察用の丸椅子に腰掛けたレイヴンは、薬と聞いて表情を曇らせ俯いている。
隣に立ち、苦笑しつつ機嫌を取る為にその背中を撫でてやっていると、医師は思わぬ言葉を続けた。
「第4世代型の術式を受けているとありますが、脳内コーラルの焼き付けを中和する処置を受けるつもりは?」
少女にとっても思いがけない提案だったらしく、返答もせずに固まっているのを見て、代わりに答える。
「何か、問題がありましたか?」
「いえいえ。簡易検査ですが、数値の上は特に身体への悪影響は出ておりません」
手を振って否定した医師は、ただ
…
と続ける。
「いずれ受けるつもりがあるのでしたら、こういったものは早いに越したことはありませんので。今は、そう難しい処置でもなくなりましたし」
「
…………
」
「ああ、この分野に関しては、閣下にご意見はご無用でしたな」
人の良い笑顔でそう締め括る医師に、曖昧に笑いながらレイヴンを立ち上がらせる。
引き上げる間、見上げてくるレイヴンは何かを感じ取ったのか、一言も発しなかった。
執務室へと戻ると、少女は真っ先に定位置となった応接用ソファに陣取った。
いつもなら自身はデスクへと向かうところだが、後を追いかける様に隣に腰を下ろす。
レイヴンは不思議そうにこちらを見た後、嬉しそうに笑った。
「スネイル、少しお休みする?お話しする?」
「受けたいですか?」
「え?」
コーラルの強い浸潤を受けた赤い瞳に、男が一人映っていた。
「脳内コーラルの、中和手術です」
レイヴンは数度瞬きした後、はっきりと告げた。
「受けたくない」
「何故?」
「スネイルが、受けてほしくなさそうだから」
核心を突いた言葉に、一瞬呼吸を忘れてしまう。
この少女は、見ていない様でよく人を見ている。
僅かでも動揺を悟らせないように、一呼吸置いてから口を開く。
「
……
コーラルの焼き付いた脳組織の修復によって、旧世代型に多く見られる思考の希薄化や人格の変質を改善出来たという報告があります」
多くの者は、何かと引き換えにしてもこれを受けようとする。
当然だろう、受けない理由が無い。
「手術を受け
……
今より多く、広く物事を見られる様になった時、」
一度言葉を切って、黙したままの少女を見る。
「貴女は、私を選ばないと思う」
それは、ずっと胸の内に隠していた思いだった。
にも関わらず、自分でも驚く程にあっさりと言葉に出来てしまったのは、いずれこうなると、初めから分かっていたからのようだった。
「誰かを愛するという事を知らなかった貴女の
……
その無知に付け込んだという自覚はあります」
この関係を始めるきっかけは、私の告白からだった。
レイヴンはあまりよく理解していなかったようだが、与えられる好意に無邪気に喜び、いつしか同じ物を返そうとしてくれた。
きっと、一番初めに伝えたのが私だったというだけなのだ。
他の者がそうしても、彼女はいずれ、それに応えたのだろう。
「好き」
目線を伏せて、ぼんやりと過去を思い返していたからだろうか。
短く告げられた言葉を一瞬理解出来ず、顔を上げる。
目が合うと、レイヴンは言い募る様に捲し立てた。
「スネイルのこと、好き。ちゃんと、自分で考えて、そう思ってるよ。本当だよ、嘘じゃない」
「レイヴン、」
「しんじて」
大きな緋色の瞳に見る間に溜まった涙は、しゃくり上げたのと同時にぼろりと溢れた。
咄嗟に引き寄せて抱き締める。その背は哀れな程に震えていた。
私に出会って初めて人を愛したのなら、その愛を疑われたのも初めてだったのだろう。
「すみません、貴女を、疑いたかった訳じゃない」
「
……
ぅん」
胸元に縋り付いて一頻り泣いた後、レイヴンは勢い良く顔を上げた。
「手術は、受けないよ」
そしてこちらが口を開くより先に、言葉を続ける。
「だって、きっともっと好きになっちゃうよ、スネイルのこと。中和手術を受けたら」
「今だって、こんなに好きなんだもん。たくさん考えられる様になったら、もっと好きになっちゃって、スネイル困っちゃうよ、きっと」
それが、受けた方が良いに決まっている処置を断る、彼女なりに精一杯考えた理由なのだろう。
稚拙な言い分も、未だ赤い目尻で笑ってみせる姿を見てしまえば、騙された様に頷いてやる他にない。
たった一人しか知らない少女が叫ぶ幼い愛に、縋りたくなる。
たとえ、無様な男に成り下がっても。
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