三毛田
2024-09-19 21:10:57
1068文字
Public 1000字
 

55 05. 胸に染み込む想い

55日目 恋をまだ知らない

『君は、私以外のすべてを忘れる』
 そんな呪いのような言葉を告げられ、本当にすべてを忘れた。
 言霊って怖いなと思うと同時に、まっさらな状態で彼ら――星穹列車のみんな――に出会えたのは、僥倖だろう。
「丹恒」
「どうした。酷い顔だ」
 怖い夢を見て、ラウンジに行くのもなんか違う気がして。静かだけど誰かが近くにいてくれる。資料室しかないと思って向かうと、丹恒はアーカイブの機械から手を離して淡々と俺の表情を指摘して。
 そう口にした彼も、くっきりと濃いクマが。
「丹恒、ちゃんと寝てる?」
「この部屋にいると、昼夜の感覚が狂って徹夜をすることも多々ある。実は、昨日も」
 ふいっと少々恥ずかしそうに俺から視線を逸らす。
 常に冷静で、俺よりもしっかりとした判断ができる丹恒でも、夜更かしとかするんだ。
 そう思ったら、ちょっとだけ元気になった。
「なんだ。急に笑って」
「ううん。もう寝る?」
「そうだな。寝ないと、いい加減姫子さんに怒られる」
 深くため息をついて、前髪をかき上げる。
 その姿に、胸がきゅっと締め付けられて。
「穹?」
 このじわりじわりと湧き上がってくる感情がなんなのか、俺は知らない。
「一緒に寝てもいい?」
「残念ながら、そこの布団は一人用だ」
「そこをなんとか」
「はあ。支給された寝間着はあるか」
「うん!」
「風呂に入ってそれに着替えたまた来い。今日は外に出かけてただろう? お前が戻ってくるまでに、布団の周りを片付けておく」
「丹恒、ありがとう!」
 資料室を飛び出し、部屋に戻っていろいろ持ってシャワー室へ。全身綺麗にして、着替えてちゃんと髪の毛も乾かして。そして枕を持って資料室へと戻る。
「丹恒、穹です」
「ああ、入れ」
 ノックをしてから入ると、雑然としていた布団の周辺は綺麗に整えられていて。
「枕を持ってきたのか」
「うん。お邪魔するからさ、これくらいは自分で持ってこないとって思って」
「そうか。寝るぞ」
「はーい」
 お邪魔します。と頭を下げて、丹恒の隣に寝転がる。
「眠くないな」
「でも、寝ないと」
「ああ」
 眠くないと言いつつ、寝転がったすぐに瞼が動いている。
 その姿に、何故だか暖かい物が広がっていって。
 胸に染み込み、じわりじわりと広がっていくこれは。
 何だろう。今の俺には、それが何なのかわからない。でも、嫌じゃない。
「おやすみ、丹恒」
「ああ、おやすみ。きゅ、う」
 微かな吐息と共に、瞼の裏へと碧い瞳は消え。
 布団を引っ張り、きちんと丹恒の肩までかけ。