著者: 雷歌/らいと
2018-12-10 14:46:05
1951文字
Public バンやろ
 

【bnyr / 大京】12月10日の小説用お題ったー。より

らいとの大京へのお題は『今はまだ見えなくても・あたたかな体温・ひらがなで呼ぶ名前』です。
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1.今はまだ見えなくても

 全力を使い切って、大和は楽屋で倒れこんでいた。
 歌詞にもあるように全身全霊で歌い切った。客もそれについてくるように最高の盛り上がりだった。
 ドアの開く音が聞こえて、視線だけをそちらへとやる。ドアからは見慣れた黒髪頭が覗いていた。
「大丈夫か、大和」
 倒れこんでいる大和の姿を見た京は、ぎょっとしてから急いで駆け寄ってきた。心配げな表情に笑いかける。
「今日さ、ちょーーーーッ楽しかった!」
 お互いがお互いを盛り上げ、歌っている最中に視線がかちあえばなんとも言えないものがこみ上げる。興奮のあまりそれが体に表れたときには、終わったら絶対シようなんて不埒なことも考えてしまったものだ。
 まだ実はおさまっていなかったりもするのだが。
 最高だった楽しかった、その言葉に偽りはない。けれど足りない。
 対バン相手であるOSIRISに対して、何かもう一歩足りないように感じていた。
 悔しくもあるがそこにまだ成長できる点を見出すこともできて、わくわくする気持ちは抑えられない。
 手のひらを宙へとかがげる。目の前にいるOSIRISやその他の志を同じくするバンドで隠れて見えない、その先――頂点。必ず手にするのだという強い気持ちを抱いて、思い切り握りしめた。
「大和?」
「京のいるOSIRISも乗り越えて、天下一取るからな!」
 堂々たる宣戦布告に、京は少しきょとんとしてから嬉しそうに笑みを浮かべる。
「ああ……俺も、俺たちも負けない」
 楽しげで静かな火花が散った。

end.



2.あたたかな体温

 ぼんやりと空を見上げながら立っていた京は、いきなり来た後ろからの衝撃になんとか耐えて、笑みを浮かべながら視線を背後へとやった。
「大和、お疲れ」
「京もな!」
 背後から抱き着いたまま大和もご機嫌な笑みを見せている。大和からやや離れたところには同じバンドのメンバーがいた。
 京は楽器店でのバイトの帰り、大和はバンド練習の帰りである。
「京さん、たまには怒っていいんですよ」
 呆れた表情でいうベース担当の翼に、京は少しだけ首をかしいだ。特に怒ることはされてないのだが、とでもいうように。
「ああ……そうだった、バのつく方だったこの人ら」
「はいはい。お邪魔なんすから俺らはさっさと退散しましょ」
 じゃあな、とぶっきらぼうに声をかけてギター担当の宗介をひっとうに三人は帰っていく。京も帰ろうとするが大和は抱き着いたままだ。
「大和……このままだと歩きにくいと思うが」
「くっついてたいんだ!」
 臆面もなく言う大和に、京はおかしそうに笑って。けれどこのままだと本当に帰れないので、ひとつ提案をする。
「なら、手をつなごう」
 普段は人目を気にしてしないことだが、寒いと少しだけ人肌が恋しくなってしまう。夜でもあるし人通りも多少は少ない。たまにはいいだろう、と考えてのことだった。
 大和も嬉しそうに頷いて、離れるとすぐに自身の手を今日の手と絡ませた。
「京の手、冷たくなってるなー」
「大和の手は温かいな」
 練習後だからか、それとも子ども体温というものなのか。ホッとしてしまうような温度を持つ大和の手。心地が良いなと思いつつ、無意識にその手の甲を親指で撫でていた。
 その行為が、誘ってると誤解させたことに気付いたのは、京の家に帰宅してからのことだった。

end. 



3.ひらがなで呼ぶ名前

「や、まと……
 ふわふわとした甘い綿菓子のような。そんなことを連想させる声音で、自分の名前を口にされるとたまらなくなる。
 体中の血が駆け巡り、急に活発な動きを強いられる心臓が痛くなった。
 血はある一点へと集中し、それを暴発させようとする。まだ早い、とぐっとそれをこらえた。
 甘い綿菓子を紡ぐ口へと柔く噛み付く。その口が本当に甘いような気がするのは、本気で好きだからだろう。
 普段の様子だって、歌っている姿だって、組み敷かれている今の状態だって、好きだ。好きじゃないところなんてない、と胸を張って言えるぐらい好きだ。
 溢れ出る気持ちをこらえられなくなって、京の体を抱きしめた。
「どうしたんだ、大和」
「もっと、俺の名前呼んで」
「や、大和?」
 もっと、もっとと強請る。戸惑いながらも口にしてくれることが嬉しくて、その思いのまま突いた。
 嬌声がその口から漏れ出ても、名前を呼んで、と強請り続ける。甘い声と混じる自分の名前がとても心地よくて、京が果てた後もしばらくは続けてしまった。

 大事なボーカルだからほどほどにしてくれと言われていたのを思い出したのは、やはりどこか甘みを含んだ京のかすれた声を耳にしてからだった。

end.