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著者: 雷歌/らいと
2017-06-11 02:40:50
3107文字
Public
バンやろ
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【bnyr / 宗翼】停滞性少年慕情
#宗翼イメージソング企画 様への寄稿。
担当イメージソング:Perfume/575
それは、翼が言い出した言葉であった。
示し合わせて入学した高校で、初めての期末テストにより周りがテスト勉強を本格的にし始めた頃、翼は言った。
「テスト勉強に集中したいし、少しだけスタジオ練習休みにしよ」
苦笑を浮かべた顔は、俺が嫌だと言い返すのを分かってのことだろう。その期待通りに、嫌だと言えば翼の苦笑いは深まった。
「宗介のギター馬鹿さは知ってるけど、さすがにまた悪い点数取ったらマズイだろ?」
「別に俺は」
「中間テストで悪い点数取ってちょっと先生に目をつけられてるしさ。また悪くすると、ギターやってることに口うるさく言われるぞ」
その言葉は、そうかもしれないと頷けるものであった。
中間テストで赤点を免れたとはいえ、ちくりと担任には言われたものだ。
一時でもギター弾くのをやめてテスト勉強していれば、と。
翼の言うことに納得はできるのだが、その担任の言われたとおりにするのは癪である。
そう思っていることが分かったのだろう。翼は
「家で弾くのは自由だし
……
まあ、本当は俺がちょっと今回の期末不安なだけ」
はは、と声を出して笑う翼に、ならしょうがねえな、と頷いた。
大事なバンドメンバーがテスト結果如きで活動できなくなるのは避けたい事態だ。だが、休みにするのはスタジオ練習だけで家では少しでもベースに触れ、ということを約束してそういうことになった。
開け放たれた窓から、じっとりとした暑い風が吹き込んでくる。
一定の気温には達していないのか、教室の冷房はまだつけられていない。
6月の終わり頃、蝉はまだ鳴いてはいないものの梅雨が明けた今時分は蒸し暑い日が始まっていた。
ここもテスト範囲だからと言って、国語担当の教師はいくつか俳句を紹介している。
「会ひたくて、逢ひたくて踏む、薄氷。この句は、会いたくてしかたないのにその思いを持て余すばかりで、どうしても会いに行く勇気が持てずに、この薄氷の前でとどまったままという意味だ。春先にうすく張った氷のように、少しの衝撃でもすぐに壊れてしまいそうな繊細な想いを込めている。このように
――
」
教師の趣味なのか、俳句は恋を詠ったものばかりで、どれも興味はわかなかった。たった十四文字であってもそこから作者の想いを読み取れということを教えたいらしい。
授業はつまらなくて、指はいつも通りにギターを弾くように軽く動かす。
昔から聞いてきた譜を頭の中で思い浮かべながら、目立たないようにこそりと。
とはいえ教師には見えてしまったのだろう。
「巻」
名前を呼ばれ、じっと見られる。とりあえず素直に返事すれば、黒板に書いてある俳句に込められた想いを答えろ、と言われた。
「わかりません」
「ちゃんと聞いてろよ」
ちゃんと聞いていても、きっと俺にはわからない。
先ほどの俳句だってそうだ。会いたいなら会いに行けばいいし、その勇気が出ないなんてよくわからない。言いたい事を違う方法で表す様だけは、歌に似ていてそこだけは俳人のことがわかるような気がした。
あくまでも、気がするだけだ。
それなりの付き合いをしてきた翼のことだって、すべてをわかっているわけではない。だったら、一度も会ったことのない俳人のことを翼以上にわかることはないだろう。
(泣きそうな顔しやがって
……
)
ふと、とある表情を思い出して、ぎり、と胸が軋んだ。
テスト勉強に飽きて、愛用のギターに指を滑らせていた。
スタジオでない分、思う存分に音をかき鳴らせないのには少しだけストレスがあった。
翼はそうでないのだろうか。俺はギターを思い切り弾きたいけれど、翼はベースをそう弾きたいとは思わないのだろうか。
時計を見やれば、短針はてっぺんに、長針はてっぺんからわずかに右にずれいている。気付けば、ベッドに寝転がってから携帯を手に取り、メッセージを送っていた。
――
暇。
返信はしばらく待ったが、ない。タイミング悪いだけかもしれないからと、次のメッセージを送ろうかと再度手にしたとき、メッセージの受信を知らせるように携帯が震えた。
――
勉強しろ(笑)今何してんの。
寝ようと思ってた、と送り返してから少し待つと、俺はまだ眠たくないから勉強中、と返信があった。熱心なことだなと思いながら、携帯を頭の横に放る。
翼の中間テスト結果は、悪いものではなかったはずだ。むしろ、良い方だったはず。
前回の中間でもスタジオ練習の合間に、器用にテスト勉強していたのだろう。
だから日付を超えるまでテスト勉強しなくて良いのではないか。そう考えると、今回のこの措置は俺のためなんだろう。
ぶぶぶ、と携帯が震える。
――
本当に寝たの?
暗にテスト勉強しなくて良いのかと言われているようだ。
おやすみ、という四文字を打って送信ボタンを押す。その文字を見た翼は、あの時と同じように苦笑しているのだろうか。それとも、会わないと言ったときのような泣きそうな表情をしているのだろうか。
しばらくして、同じ文字が送り返されてきたのを確認して、軋む胸から気を背けるように目を瞑った。
「メッセージ、送ってきたのはあっちなのに」
最後の四文字を眺めながら苦笑を浮かべる。
まだ眠たくないというのは本当だが、勉強中というのは嘘だ。
宗介から始めのメッセージが送られてきた時、自身のベースをあぐらをかいて抱え込みながら、練習用の譜面へと目を落としていた。
ベース練習してる、なんて送ってしまえば、だったら明日はスタジオ行こうと言い出しそうなのが目に見えているからだ。
メッセージを送ってきたのは、勉強に飽きてギターに触れていたからだろうか。
送られてきたメッセージに驚いたのと心が躍ってしまい、どう返信したものかと悩んでしまった。
そこまで長い時間の間を置いたわけではないし、不自然ではなかったと思いたい。先を伸ばすようなメッセージを送り返したことも。
勉強しろと言いつつも、宗介と話を続けたい思いもあった。少しでも長く繋がっていたいと。
その願い空しく、あっさりと終わってしまったのだが。
けれどそれで良かったのかもしれない。長く続けると、うっかり「会いたい」なんて文字を送ってしまいそうだから。
「お互いを刺激しないように、会うのも控えるなんてな
……
」
テスト勉強をするためにスタジオ練習を休もうという提案をのんだ宗介は、思いも寄らない条件を出してきた。
「じゃあ、お前とも会わないようにする」
動揺を隠せないままその意図を問えば、姿を目にしてしまえばギターを弾きたくなるから、とのことだった。俺を見なくてもギター弾きたくなるじゃん、と返せば、より弾きたくなるんだよ、とぶっきらぼうに言う宗介。
嬉しい気持ちにはなったのだが、心臓は変に早鐘を打っていた。
あの一瞬、胃の中に氷を落とされたような気分になったのだ。
言葉を間違えたかと、宗介に嫌われたか、と。
「ホント、思い出すと心臓に悪い
……
」
目の奥に熱を感じて、頭を振る。
たぶんこれから先、これ以上に心臓に悪いことが起こるだろう。これだけのことで泣きそうになんてなってられない。
抱えていたギターを横に置いて、生ぬるい風が入ってくる窓から外を見る。
夏はこれからである。この気持ちも、これからきちんと向き合っていかねばならない。
「おやすみ。宗介、──」
秘した想いは音にせず、空気にだけ溶け込ませた。
end
引用俳句:黛まどか/会ひたくて 逢ひたくて踏む 薄氷
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