著者: 雷歌/らいと
2017-02-14 22:33:20
1673文字
Public バンやろ
 

【bnyr / 翼+宗介】ビターハート

バレンタインの彼ら。

学校で会ったときは確かにとても上機嫌な顔であった。
だがバンドの練習で訪れたスタジオで見せた顔は不機嫌なものになっていた。
佐伯翼の表情の話だ。

……なんだよ」

じと、と見つめられて居心地悪く宗介は言う。
よく見ると、大きさは多少違うが紙袋を三つ手に持っている。
座りながらギターに触れていた宗介の横に、翼はどさりと持っていた紙袋の二つを置いた。
ちらっと視線をやれば、紙袋から覗くのはピンクだの赤だのでラッピングされた小さい袋や箱。
宗介は首をひねる。

「なんだこれ」

音楽ともやしにしか興味の無い宗介に、盛大なため息をついて翼は声を荒げた。

「チョコレートだよ、チョコレート! バレンタインの! なんで、俺が、お前の分まで、持たなきゃならない?! しかも、宗介の方が多い!」
「んなにチョコ欲しけりゃこれもやる」
「そういうことじゃない!」

目の前の友人の、バレンタインという日への興味のなさに翼は肩を落とした。
数日前から翼がバレンタインの話題を出していたにもかかわらず、この無関心さだ。
そして翼が何故宗介の分のチョコレートを持っているかというと、去年に起因する。
宗介はよりにもよって、あげるといった女子のチョコをいらない、といってことごとく断ったのだ。
しかも机の中や下駄箱に入れられたチョコは荷物になるから邪魔だといって捨てた。
だから直接的に宗介の手に触れるような渡し方はせず、宗介とどうやら一番仲の良いと見られているらし翼に渡してくるのだ。
もちろん翼自身への義理チョコも忘れずに。

「これ佐伯くんに、て自分宛のチョコレートをもらった後に可愛らしく恥じらった顔で、こっちは巻くんに渡して欲しいんだ、て言われる俺の気持ちが分かるか」
「確信を持って言えることは、一生かかっても分からないことだな」
「少しは理解する態度を見せろ」

翼は大きくため息をついて、再度肩を落とした。
自身の荷物をいつもの定位置に置いて、パイプ椅子に座る。

「ていうか。これ、持って帰るつもりねーから、翼持って帰れよ」
「はあ? 断る。誰が悲しくて他の男宛のチョコなんて持って帰るか」
「面倒くせえ。じゃあ俺からのチョコってことでいいだろ」
……いや、それ最低行為だろ」

一瞬。ホンの一瞬だけ動揺したことに翼は驚いていた。
宗介宛のチョコレートを預かる時に感じていた妙なものは、男の矜持を傷つけられたとかそういうものからくるもの以外に違うものも確かにあった。
けれど、そんなの嘘だろ、と考えて奥深くに仕舞い込んである。

「あ? なんか一個だけ普通の菓子があるけど」
「え、ああ、それ……

宗介のチョコレートの山が入った紙袋のひとつ。その一番上には年中普通に売ってあるチョコレート菓子が、ちょこんと乗せられていた。
チョコレートの量が多すぎて、帰る前に売店で紙袋をもらったのだ。その際、タダでは悪いと菓子をひとつ買った。バレンタインだからと全面に推し出されていたチョコレート菓子を。
そう説明して、宗介の紙袋からその菓子を取ろうとしたら、横からかすめ取られた。

「じゃあこれだけ貰うわ」
「は? それ俺が買ったんだけど」
「え、お前、自分で買ったチョコを持って帰るのか?」
「いやいやいや、そういう意図で買ったんじゃないし、て、もう開けやがった!」
「さすが市販品、うまい」

というわけでお前がこれ持って帰れよ、と、何がというわけなのかまったく分からないが翼は結局宗介の分のチョコレートも押し付けられることになってしまった。
さすがに一人で食べきれる量じゃないので、後から来た大和や徹平とも分けたが。

(いや、いやいや、嬉しくなんかないし……

本当にそのつもりではなかったのだが、結果的に翼からのチョコレートだけを受け取ったという事実に、どこか優越感があるのは本当だ。
だがそれはあくまでも仲の良い男友達だからだろうと、翼は片付けた。

それがどういうものなのか気づくのはもう少し後のことである。

end...