あさかわ
2024-09-18 23:16:48
7619文字
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粉砕鬼水没ネタ供養

粉砕鬼水シリーズの没ネタです。現代でホストクラブと関連会社を粉砕する話の書き出しです。

 鬼太郎の弱点? そりゃ、鬼のように強い鬼太郎だって泣き所の一つや二つあるに決まってらぁ。俺はあいつが赤ん坊の頃からの付き合いだぜ。しかし、情報料を貰わずにペラペラしゃべる訳にもいかねえ。だって、あのゲゲゲの鬼太郎の泣き所だ。そうだな、先払いでこのくらい……っと待ってくれよ。物騒のものはしまってくれ。

 ああ? 命が惜しければタダで話せって? 嫌だよ、こんな重大情報をタダなんてっ……痛い! 痛い、痛いってば! 分かったよ、話せばいいんだろ! これはとっておきのネタなんだから出所だけは黙っていてくれよ。鬼太郎にバレたら半殺しにされちまう。

 え? 鬼太郎はやられちまうから、つまらない心配するな? へえ……そいつは威勢のいいこって。はいはい、話しますよ。鬼太郎の泣き所でしょ。あいつにはそりゃ一等大事なお人がいるんだぜ。その人に何かあったら、あいつはひとたまりもない。身も世もなくその人を取り戻そうと躍起になるさ。その人の居場所? 鬼太郎の連れ合いだからゲゲゲの森で暮らしているよ。はあ……身元を探る伝手がある? そりゃ、立派なことで。

 え、その人の名前。そこから先は料金を頂かないと流石に……ハイハイ。水木さん。そう、その人が鬼太郎の伴侶の名前。え? 俺も手伝わされるの? タダ働きなんて御免だっつうのに! ああもう! 死にたくないから働きますけどネ。

 一応言っておくけどな! タダより高いものはないんだ。アンタ、ツケは高くつくぜ!



「ホストクラブで妖怪が行方不明?」
 鬼太郎の言葉にねこ娘が頷く。晩秋が近づき、葉が落ち始めた街路樹を眺めてねこ娘がソーサーをまわした。
「そう決まった訳じゃないけれど、足取りがつかめた最後の場所がそこだったのよ。……ほら、この子。化狸の紅葉っていうんだけど」
 ねこ娘が物憂げにため息をついてスマートフォンを差し出した。何度かメッセージを送ったが紅葉から連絡はない。紅葉の行方が知れなくなったのは一週間ほど前のことだ。
 紅葉は芝右衛門狸一族の年若い化狸だ。当主である芝右衛門狸は変身の達人で、演劇をこよなく愛している。昔は歌舞伎俳優に芸を教えてやったと酒の席で自慢する好好爺だ。
 一族は、大人になる修行の一環として人間に化けて八年暮らす試練がある。観察眼に優れた化け上手の一族は滅多に下手を打たない。紅葉はトイレの花子さんがいる中学を卒業し、高校生活もそつなくこなした。大学生になって学校に通っていたはずだか、学友たちとホストクラブに行くという連絡を最後に音信不通となった。
「友達に誘われて一回だけ行ってみるって連絡があってそれっきり。こっちからメッセージを送ればその日の内に返してくれたのにもう一週間も連絡がないの」
 筆まめな紅葉から連絡がないのはおかしい。花子もねこ娘も化狸の行方を捜しているが、やはりホストクラブの後の足取りがつかめない。紅葉と一緒に出掛けた学友たちは、海外旅行に出かけているらしい。ホストクラブに海外旅行にと忙しないことだ。
「だから、わたしも花子と一緒にホストクラブに行ってみたの」
「若い娘さんが二人だけで? そりゃ感心しないな」
「砂かけばばあとぬりかべに連絡してから出かけたわ。それで今日は鬼太郎に相談」
 ねこ娘が降って来た声に顔を上げる。エプロン姿の水木がアイスとシフォンケーキの乗った皿をねこ娘の前に置いた。鬼太郎の前は何も頼んでいないのにクリームソーダを置かれ眉を寄せる。
「水木、」
「アイスクリームの賞味期限が近いから消化に極力してくれ」
……分かった」
 鬼太郎はスプーンでバニラアイスを掬う。水木は都内で散発的に喫茶店を出している。チャレンジショップという数か月だけテナントを借りる制度が充実しており、社会と関わりながらの小金稼ぎに良いらしい。この店も先月から開店したが、今月末には店じまいだ。

「それで、例のホストクラブなんだけど。店内は普通だったのよ。照明でギラギラしていてホストがいっぱいいて、いかにもって感じだけどそれだけ」
「それだけ……? ホストクラブの普通がよく分からないんだけど」
 鬼太郎の問いに水木が答える。
「ホストクラブはお金を払って男性の店員がテーブルについて会話しながら飲酒する店だ。男性向けだとキャバクラというのがある。店員の飲食代も客が持つ。普通の飲食店と違って支払いが高額になることが多いが、ちやほやして貰うための出費だな。調子に乗って長居すると数十万単位の支払いになることもザラだ」
「へえ……
 世の中には色々な店があるらしい。豪華な家だとか車などの物以外にも、褒めそやされるためにお金を使うとは人間の社会は複雑怪奇だ。
「私たちは別にちやほやされにいった訳じゃないわよ。水木さんの言う通りお金が掛かるから、紅葉のことをそれとなく探ってこようとしただけ。見た目は普通のホストクラブだけど、所々怪しかった」
 ねこ娘はアイスクリームを口に含む。
「お手洗いの洗面台にポプリが飾ってあったんだけど、龍の息吹の匂いが混じっていたの。砂かけばばあが調合に使っているけれど、あれって人間の世界で出回るものじゃないでしょ」
 話を向けられた水木が頷く。
「妖怪の間ではよく取引されているが、ほとんどの人間は存在すら知らないだろう」
「それであの店には妖怪が関わっているんだろうって分かったの。で、極めつけは……ねずみ男がホストクラブで黒服として働いていたのよ。だから、あの店は絶対クロ!」
「黒服?」
「お店の裏方を担当する店員のことだ。センセイが関わっているとなるとロクな店じゃなさそうだな」
 鬼太郎はホストクラブの仕組みには疎いが、ねずみ男が関わる案件は嫌というほど知っている。
「ねずみ男を捕まえて、洗いざらい吐かせてやろうと思ったんだけど、ポプリの匂いを嗅いでから気持ちが悪くなってきたし、トラブルは困るから店を出て行ってくれって言われて。花子と一緒に帰ってきて砂かけばばあに聞いた。龍の息吹といくつかの薬を混ぜ合わせるとアルコールみたいに酔わせる効果があるって。特に妖怪には効果覿面よ」
「それじゃあ、ホストクラブにきた妖怪たちを酔わせて捕まえている、と?」
 ねこ娘はシフォンケーキを突いて首を横に振る。
「証拠はどこにもない。でも、あの店は怪しいわ。それで、店内に妖怪の気配がないか鬼太郎に調べて貰いたいんだけど……ねえ?」
 ねこ娘が鬼太郎をちらりと見てから水木に何かを訴えるようにする。水木は腕を組んで真剣な顔をしているが、口元が緩みそうになっているのを鬼太郎は見逃さなかった。
「こいつの容姿だと門前払いを食らうだろうな。ホストクラブは未成年入店禁止だ。まあ、夜の繁華街を歩いていたら、店にたどり着く前に警察に補導されそうだけどな」
 鬼太郎は眉間に縦皺が寄りそうになるのを堪えた。人間の歳では還暦を過ぎているのだが、見た目は未成年そのものだ。
……老人に変装すればいいんじゃないか」
 何度か使った手段を提案したが、ねこ娘にすげなく却下される。
「おじいちゃんはホストクラブに行かないの! 店に入っても目立ちまくって調べものなんて出来ないし、今度は徘徊老人と勘違いされて警察に捕まるわよ」
「かと言ってこっそり調べたいのに、ゲゲゲの鬼太郎として堂々と店に行くのもまずいよなあ……
「そうなのよ。だから、水木さんにも力を貸して欲しくて。ホストクラブの中を調べる方法を考えてくれないかしら」
 ねこ娘が両手を合わせる。鬼太郎は反論する気力をなくし、クリームソーダを無心で啜り始めた。口内で炭酸が弾けて、少しだけ気分が晴れる。
「よし、鬼太郎をこっそり店に入れる方法を考えてみよう。なんなら、俺が黒服として雇われたっていい」
「水木、危ないことはしないでくれといつも言っている。怪しい店で雇われるなんて」
 鬼太郎が苦言を呈する前に水木が両手を上げて降参の姿勢を見せる。
「可能性の話だ。何にせよ鬼太郎に調べて貰うのが一番だろうから、センセイを脅し……連絡を取って手引きして貰おうか。策を考えるから、少し時間をくれないかな」
「勿論。シフォンケーキごちそうさまでした。私は繁華街の猫たちに当たってみるから、何かあったら連絡くださいね」
 デザートプレートをすっかり空にしてねこ娘が席を立つ。財布を取り出そうとすると、水木が鬼太郎の隣に座ってポケットに両手を突っ込んだ。
「在庫処分に付き合って貰ったんだ。お代はいらない」
……そういって、水木さんはいつも支払わせてくれないんだから。じゃあまたね、鬼太郎」
 ねこ娘が踵を返すとスカートがふわりと揺れた。鬼太郎はクリームソーダを飲み切ると隣に座る水木を見上げた。店内に客はおらず閑古鳥が鳴いている。人目がないことを確認してから、鬼太郎は少しだけ水木に近寄った。

「どう思う」
「ねこ娘さんの言う通り、センセイがいる時点でクロだろうな。しかし、紅葉さんは今どこにいるのかね。捕まえて悪事の片棒を担がせているのか、別の目的か……探ってみないと何とも分からん」
「水木が何か思いつくまで僕は用なしだろう。このままでも変装しても警察に補導されるんだ」
「拗ねるなよ。大丈夫だって。お前が動きやすいように考えてやるから」
 拗ねていない、と否定する方が子供っぽく見えるだろう。気にせず頼る方が良い時もあると鬼太郎は学んできたし、今がその時だ。
「分かった。よろしく頼む」
 鬼太郎が頷くと水木が立ち上がる。鬼太郎は空になったグラスと皿を持って水木に続いた。
「皿洗いくらいはさせてくれ」
「別にいいのに」
 そう言いながらも、水木は鬼太郎から食器を取り上げることはしない。



 鬼太郎が帰った後の客入りはまばらだった。水木は伝票を整理してファイルに閉じる。少し早いが閉店準備をしてもいいかもしれない。店を閉めたらねこ娘が言っていたホストクラブ周辺を調べてみるつもりだ。
 水木が相談事を考えていると店のドアベルがなる。紺のジャケットにラフなTシャツ姿の男が入って来た。
「いらっしゃいませ」
 営業用の笑顔を見せると、男がじっと水木を見る。左目の傷が目立つため、凝視されることには慣れている。戦地で負った傷という言葉が通用しなくなって随分経った。目と耳、それに胸のケロイドは不幸な事故に巻き込まれたのだと言い訳はすらすらと出てくる。しかし、嘘を付く度に胸の縁はちくりと痛むのには慣れそうにない。
「水木さん、ですか?」
 名前を言い当てられ、水木は少しばかり相手を警戒する。胸元のネームプレートを見えば名前は分かる。しかし、男の口調は確認ではなく、人探しの問いかけだ。
「はい、確かに私が水木ですが。何か御用でしょうか」
 水木が肯定すると、男が胸ポケットから名刺ケースを取り出した。アルミのケースを開いてグレーに金字の名刺を取り出す。
「ご挨拶もせずに失礼しました。シンエイグループの社長をしております、野々垣と申します」
「どうも、ご丁寧に」
 水木が名刺を受け取ると、野々垣がにっこりと笑った。
「実はですねえ、水木さんにお伺いしたことがありまして」
 水木は曖昧に頷いて続きを促す。名刺を裏返すとシンエイグループの事業内容が掛かれている。食品卸、カラオケ事業、クラブ経営。直営店にねこ娘が言っていたホストクラブの名前が記載されていた。
「都市伝説のゲゲゲの鬼太郎ってご存じでしょう」
「噂くらいなら。ネットに動画も上がっていたし、ここらへんの人なら誰でも知っているでしょう」
 野々垣が鷹揚に頷く。スマホを取り出して操作を始めた。
「ちょっとマイナーですけど、先触れミズキサンって言うのもあるんですよ。左目に傷がある男性の姿をした幽霊で、この先は危ないから行かない方がいい。そう言って警告して去って行く。警告を無視して先に進むと恐ろしい目にあうのだとか。彼自身は名乗ったりしません。しかし、彼の周りに妖怪が現れてミズキサン、ミズキサンと呼ぶらしい」
 野々垣がスマートフォンで電子掲示板のオカルト板を見せてくる。ミズキサンという妖怪はマイナーらしく言及は少ない。
「もしや同じ苗字と傷だから、僕が幽霊だとでも? この通り足は付いていますし、幽霊が喫茶店とはナンセンスだ」
 水木はオカルト板の記載に心当たりがあった。妖怪ポストの依頼をこなす鬼太郎や仲間たちの邪魔にならないよう、知らずに近づいてしまった人に何度か警告をしたことがある。頻度も少なくネットに書き込む酔狂もいないだろうと思っていたが、現代の人にとってネットは水木の想像よりずっと身近だ。水木が手帳に日々の出来事を書き込むように、日記感覚で世界に発信する。

「名刺を拝見するに野々垣さんは飲食業をなさっているようだ。オカルトに傾倒なさる理由は何ですか。まさか、オカルト雑誌の出版社でも始めるつもりで?」
 からかい交じりに返すと、野々垣がスマートフォンを人差し指で横になぞった。文字だらけの掲示板から、画像へと画面が変わる。
「昭和三十年六月発行の帝国血液銀行社内報……昭和資料を収集する好事家に頼んでスキャンさせて貰ったんです。帝国血液銀行第一営業部法人担当よりご挨拶。ほら、ここ」
 野々垣が親指と人差し指で社内報の写真を拡大する。
「今と違って荒い画像ですが……この人左目に傷があるんですよ。名前は水木さん。顔立ちもあなたによく似てる。少し歳若い印象ですが、他人の空似とは思えない。ねえ、水木さん」
 野々村がにこりと笑う。
「あなた、ただの人間ではないでしょう」
「随分な言いぐさだ」
「不十分であればまだ証拠はありますよ。あなた専用のフォルダまで作ってしまったんです」
 水木は細長く息を吐いて無意識に握っていた拳を解いた。これ以上のあがきは悪手だ。野々垣の自信に溢れた態度は大量の証拠に裏打ちされたものであり、付け焼刃では崩せない。なるべく怪しまれないよう目立たないように気を遣って生活してきたが、絶対に足が付かないとは言えない。
……それで、何の用だ」
 野々垣がスマートフォンをしまう。獲物を追い詰めた高揚を味わうように口角が引き上がっている。野々垣には水木に関する情報が大量にある。一方の水木には野々垣の名刺一枚きり。相手の情報を引き出すためにも、主導権はそちらにあると示した方がいい。
「話が早くて助かります。大したことじゃありませんよ。あなたの不老長寿の秘訣、血液製剤について教えて頂きたい」
 水木は冷めた目で野々垣を一瞥する。

「血液製剤?」
「あるでしょう。血液製剤М。龍賀製薬が製造販売を独占し、日清戦争から戦後十年までの間だけ出回った貴重な薬です。龍賀製薬創業者の死と共に製造方法が闇と消えた。あなた一人を除いてね」
 野々垣はとんだ勘違いをしている。水木の外見が変わらないのは、血液製剤Mの摂取ではなく、妖怪のような何かに襲われたからだ。確かに社命を受けてMの製造方法を探っていた。しかし、真相は分からずじまいのまま、水木は哭倉村で過ごした期間の記憶を失った。記憶と共に髪も色が抜けたが、そちらだけは数年かけて徐々に戻っていった。
「Mの材料は」
 知らない、と答えるより先に野々垣が水木の言葉を継いだ。
「材料は幽霊族の血。あなたが関わっている鬼太郎君の血液ですよ」
 表情を取り繕うことが出来ない。幽霊族最後の生き残り。幽霊族がMの材料ならば、目玉も鬼太郎の母も哭倉村で捕らえられていたのか。衝撃を飲み込めず、足元がふらつきそうになる。
……
 野々垣は水木の沈黙を肯定と受け取った。
「僕の予測はこうです。あなたは創業者を失い混乱する哭倉村で血液製剤の製造方法を知った。昭和の閉鎖的な村の中のこと。苛烈な跡目争いでは死人も出たのでしょう。部外者のあなたはひっそりと潜入し、原材料の幽霊族の子供を攫った。村に火を付けたかもしれませんね。材料を失った龍賀一族は没落し、あなただけが生き残った」
 水木は唇を噛む。目玉は妻と過ごした幸せな日々を何度も語っていた。哭倉村で記憶を失った水木は、近所の荒れ寺で鬼太郎の両親に会った。妻の方は幽霊のような姿で目玉はまだ肉体があったが全身包帯を巻いて酷い有様だった。あの二人は哭倉村から逃げ出してきたのなら、鬼太郎は龍賀に無理やり作れと命じられて宿った子供なのかもしれない。家畜のように子供を産めと脅される。水木はおぞましさに口元を押えた。

「あの子は……鬼太郎は」
 青ざめた顔の水木を野々垣が同情の表情だけ作って励ます。
「大切な資源です。大丈夫ですよ、分かっていますから」
 水木はおぞましさと怒りが渦巻く腹に力を入れる。歯を噛みしめて、理性の綱を手放さないよう踏ん張る。野々垣は見当はずれな予測を披露し続けている。
「幼い子供を育てながら、あなたは血を奪い続けた。大丈夫、分かりますよ。絶大な力を手に入れたなら独占したくなる。血液銀行には成果はなかったと報告し、貴重な資源を独り占めして、こうやって今も生きている」
 水木は吐き気を堪えて、野々垣の言葉を脳に入れようとする。打ちひしがれている場合ではない。野々垣の情報を一つでも多く引き出さねばならない。
「水木さん、私と取引しましょうよ。あなたの不老不死の妙薬を少しだけ分けてください。快く応じてくださるのなら、あなたが大正生まれの人間であることも、鬼太郎くんが薬の材料であることも黙っています。しかし、応じてくださらないのなら……ネットの普及した昨今、情報の拡散は容易だとご存じのはずだ」
 水木は口元を押えた手を離した。血の気が引いて唇も青ざめているだろう。野々垣は水木の反応に満足したようで、勝利を確信して条件を披露する。
「詳しい取り決めは、僕の会社でしましょう。大丈夫ですよ、悪いようにはしませんから」
 野々垣が備え付けのペーパーナプキンを取る。ボールペンで時間と場所を書きつけて水木の前に置いた。
「今日の夜九時にこの場所でお会いしましょう。鬼太郎くんに相談しても、一緒に来てくださっても構いません。大歓迎ですよ」
 それでは、と野々垣は足取り軽く帰って行った。
……畜生」
 水木は一言に渦巻く感情を込めて吐き捨てた。表の看板を閉店に変えて、猛然と店じまいの仕事をこなす。エプロンをかけたフックが嫌な音を立てたが、水木は構わず店のカギを掴んだ。乱暴にドアを閉めて施錠をする。大家に鍵を返す時だけはどうにか顔を取り繕ったが、外に出た瞬間速足になる。
 鬼太郎と目玉に会わねばならない。