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らん
2021-09-23 15:32:58
1800文字
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シエルとカノジョ
どうせならこんな既成事実でも作ってやれば、カノジョは諦めるだろうか。
諦めるって何を、なんて、それはたったひとつ。俺達の関係を公表しないこと。
すっぱ抜かれた写真を元に構成された週刊誌の見本記事を前に、俺の脳内はそんなことを考えていた。
「いい加減公表したらいかがです?ずっと公表するって言っておきながら全然公表しないじゃないですか」
空いていたミーティングルームに俺を脇に抱えて無理矢理入室させた広報は、記事を人差し指で叩きながら溜息をつく。その言葉で俺の意識は現実に戻り、こちらも溜息で返した。
「俺はいつだって公表するつもりだ。隠しているつもりもない。婚約指輪だって一度たりとも外してないのに誰も勘繰らない。というか、シュヴェスター達は好意的に見てる奴が多いから今更だ。こういう週刊誌はすっぱ抜いて喜んでるけどな」
「それなら彼女さん説得してさっさと公表してくださいよ
……
。そうしたら意気揚々と週刊誌が見本誌も送って来なくなって、私の仕事も1バンド分減ります!」
「いつもお疲れ様。どうせ量が多いのはNSFWだろ」
「そうですよ〜〜!!ケンカで抜かれるのは篝火ですよ〜〜!!いい加減にしてください!!」
「俺に言われたところで何も出来ん」
おいおいと泣く姿には憐憫を抱くが、それが広報の仕事のひとつでもあるので、嫌なら辞めろとは口にしない。どうせ仕事をしている限り社長に貢献出来るのだから、わざわざ生き甲斐を奪うような助言をするのも野暮だろう。
むしろこのチェックすら無しで週刊誌に載せるよう仕向ければ、広報の仕事は確かに1バンド分減るだろう。
どうだろう、と試しに提案してみたが全力で却下を食らい、結局今回も雑誌記事は会社都合で没となったのだった。
「我ながら名案だと常に思っているんだがな」
「何も名案じゃないでしょう
……
」
そんな今日の出来事を仕事終わりのカノジョに聞かせれば、こちらも盛大な溜息をこぼした。
近くのカフェに寄りテイクアウトで頼んだコーヒーの匂いが充満する車内には、カノジョの頼んだカプチーノのシナモンの匂いも混じる。カップを持つカノジョの手にも嵌っているエンゲージリングを盗み見つつ、信号が青になったところで車を発進させた。
「じゃあ、俺はいつどこで公表すればいいんだ?もういっそすっぱ抜かれて、それに合わせて週刊誌の内容は事実です、懇意にしている女性が居ます、と言ってしまえば何もかもが楽に進むだろう」
「あの、一応ね、私も勤めているんだよ
……
」
「相手は一般女性です、で良いだろ?」
「そうなんだけど
……
」
「なんだ、俺と生きるって決めたから指輪をしているんじゃないのか」
「そうじゃないよ!
……
ちゃんと、シエルの隣にいたいから受けました!でも、公表したらフレマのイメージとか
……
」
「もう今更だろ。それで終わりなら俺達はその先にはどうせ進めない」
パパラッチはうざったらしい存在であることに変わりなかったが、時たま絶妙のタイミングでリークをしてくる事も多く、使い勝手よくこちらで動かしやすいマスコミのひとつだった。
今回だってそれは変わらないし、俺の認識としては手っ取り早く周知させるための道具のひとつでしかない。
けれど、フレマも愛するカノジョは週刊誌によるリークを嫌がる。まるでマイナスイメージだとでもいうように、その存在そのものを負の情報だと理解しているのだ。
「リスクは絶対最小限のほうがいいよ
……
週刊誌で知るよりワンマンとかで公表のほうが、もし私がシュヴェスターなら嬉しい」
「ほう、いつからお前はシュヴェスターじゃなくなったんだ? 」
「シュヴェスターだけど、シエルの恋人が一番の立場です」
言うようになったものだと喉で笑えば、カノジョは少しだけ声を荒げた。
「とにかく!週刊誌で発表はダメ!」
タイミングよく赤になった信号機に感謝する。伸ばした手でカノジョの頬を包み素早くキスをすれば、はくはくとカノジョは声にならない声を漏らした。
「お前の望むままに」
香るシナモンを含むように自らの唇を舐める。カノジョは今度こそ縮こまるようにお願いします、と呟くのだった。
後日、お望み通りワンマンのMC中に婚約発表をしたところ向こう一週間は各マスコミが存分に取り上げてくれた。
広報に「先に報告してください!」と泣かれたのは、また別の話。
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