らん
2021-01-12 23:29:57
2619文字
Public
 

宮堀

読解アヘンの某話のあと。

何度もそれとなく伝えてきたつもりだ。俺は束縛がそこそこに激しくて、堀さんが気にしないような関係ですら、嫉妬の対象になる。
そう、幾度となく、何度も。
「非処女。要約。」
あの時の堀さんには、それ以外に伝える術がなかった。死んでも「仙石くんがはじめてなの?」なんて言いたくなかった。言葉にしたら最後、次仙石くんに会えば殺してしまいそうで。
出会う早さなんて関係ないと知ってるし、俺だって堀さんがはじめてじゃないのに、彼女にとってのハジメテが俺じゃない事実に気づくたび、いつだって俺は嫌悪を抱く。
俺だけが知ってるワケじゃない事実に、反吐が出る。
(堀さんがはじめてセックスした相手は、堀さんが創太の面倒見てるって知ってた?)
その彼氏は創太と仲良くなった?ご両親に認めてもらえた?堀さん自身も怖いくらいに独占的で独善的だって理解してた?
ねえ、俺よりも堀さんのハジメテをより多く掻っ攫っていったの?
イラつきが収まらない。堀さんの全部が俺のものじゃないことに苛立ちが募る。なんで、どうして、そりゃ堀さんは人気者だけど、でも、今は俺のものなのに。
沢田に対しても嫉妬するけれど、沢田は女の子だからできる事なんて限られてる。それだけが救いだった。
(でも、)
俺の知らない堀さんを、仙石くんは知ってる。俺と同じように堀さんの家庭のことを知ってて、堀さんのすっぴんもずっと見てて、堀さんの成長を知ってる。
そんなことでさえ、こんなにも憎いのに。
仙石くんは嫌いじゃない。友達としてスキだ。でも、堀さんに関しては消えてほしい。
なんて、堀さんにも言えないけど。
「進藤はさぁ、嫉妬とかすんの」
行きつけのファストフード店で頼んだテリヤキバーガーを食い始めるところだった進藤は、俺の質問にもお構い無しで一口を貪った。
俺はといえば、いたたまれない気持ちでオレンジジュースを口に含んで、進藤からの返答を待つ。だって、こんな話はあまりしないから。
ゴクリと飲み込まれたバーガーの代わりに、進藤はキョトンと首を傾げた。
……なに、宮村は俺が誰かに取られたら嫉妬すんの?嬉しい……ッ!!」
「全然ちげーよお前と俺の話じゃねえわ」
「ハイハイ宮村は堀さん関連で嫉妬してるってコトっすね」
「ちが、……くは、ない、」
「えっ?!素直で怖いんだけど!!」
「うわーもう煩え二度と進藤とこういう話はしない」
なんでよー宮村ぁー寂しいよー俺ともっと恋バナしようよー、グダグダ重ねる進藤は無視して、俺も頼んでいたポテトを口に放り込む。
「まあね、フツーに嫉妬しますよ?ちかと距離の近いヤローとかはイライラする」
「ふーん」
「ねえ聞いてきたの宮村じゃん?興味なさそうにしないで?……宮村は突然なんで嫉妬してんの」
「別に」
そう、別になんでもない。というか、どうにも出来ない所に嫉妬をしている。彼氏なんかより幼馴染の関係性に対して苛立ちを募らせて、時たま噂になる内容に嫉妬して、いっそ堀さんをめちゃくちゃにして、俺だけしか見れないようにしたいぐらい腹でドス黒い何かがとぐろを巻いているのだ。
「宮村はさぁ、不健康なんだよ」
「ア?」
「素直に堀さんに嫉妬するのでやめてくださいって言えば」
……別に縛りたいワケじゃ、」
「いやいや、我慢しまくった末に爆発して堀さん傷つける前に対抗策を取れって話」
言えないところが不健康。
すっかり空になったバーガーの紙を潰すと、進藤の指が俺の耳に伸びてきた。反射で折り曲げようとすれば、非道だと泣きが入る。
「ガチでやりやがって……
「突然なんなんだよ……
「その耳だって、お前が不健康だから出来てるワケじゃん」
言わない、言えない、篭もった末の発散の結果が自傷行為のようなピアス穴だ。この発散場所が堀さんに向く可能性は、多分もうゼロじゃない。
「いくら大事でも傷つけることは誰にだって出来るんだよ」
……進藤もちかちゃんを傷つけたコトあるのかよ」
「俺は相当やらかしてるよ。ちかに許されてるだけで」
「きっと、堀さんは許さないだろうな」
許さないと言って、赦してくれるんだろうな。
過去は変えられない。もっとはやく出会えていたら、何もかも、堀さんのハジメテを貰えていたら。
たらればばかりを並べるくせに、自分自身の事は棚にあげて。
「非童貞、」
ニコリと笑ったあの時の堀さんは、許さない顔だった。その少し前まで俺の機嫌を窺ったことを理解しているし、そうさせてしまったことをいくらか悪く思っていたけれど、あの一言でお互い様だと思うくらいに。
「お前らは似た者同士だと思うけどね、俺は」
溜息混じりの進藤の声は、もう俺には届かなかった。


進藤と別れた帰り道、携帯を取り出して堀さんに電話をかける。3コールほどで繋がった回線から、堀さんの声が聞こえた。
「宮村ー?今日家来るでしょ?」
「うん、今向かってる。……あのさー、堀さん」
「なぁに」
「俺さ、相当嫉妬深いので、……俺が嫌だって言ったことはしないで」
電話の向こう側からしばらく返答はなかった。このまま言い逃げで切ってしまおうか、そう考え始めたとき、
「私は、確かに宮村のものだけど、私のものでもあるのよ」
堀さんの声が、届いた。
「受け入れられない事もあるわよ。……でも、どうしてもって言うなら、いいよ」
……うん、」
「宮村も、私がイヤって言ったことはしないでね」
「しないよ、絶対」
……じゃあ、仙石のこと、睨んじゃダメよ」
どうやらバレてたらしい。ここ最近の噂のせいだったけど、確かに大人げなかったかもしれない。
「じゃあ、堀さんも仙石くんの近くに行かないで。……俺が居るときだけにして、お願いだから、」
俺のそばにずっと居てよ。これから先、堀さんのハジメテを全部俺に頂戴。
……私と仙石は何もないわよ。本当だから、信じないのもヤメテ」
「善処します」
「オイ」
「ねえ堀さん、好きだよ」
また黙りこくった堀さんの顔はなんとなく想像がつく。ああ、家についたらどんな顔で迎え入れてくれるかな。怒ってるかな、バカって言うかな。それでもいいんだ。それが全部俺のものなら。
私も、小さく聞こえた彼女の声と同時に切られた回線に柔く笑む。
ねえ堀さん、俺の全部あげるからさ、こんな情けない俺のままでもいいかなぁ。
きっと堀さんは、何を今更って笑うんだろう。