もしも私が死んだ時、弔われるなら君がいい。そんな風に伝えられる愛の言葉は血反吐が出そうなほど不愉快で、余程酷い顔をしていたんだろう、コハクは気まずそうに首を傾げた。
「もしもの話だ。生きている限り、死は必ず訪れる」
「だとしても、そこは俺より長生きするとでも言え」
草木も枯れ、動物達も仮死を遂げる冬の季節は、死の季節と同義だ。躊躇わずにすくった掌は馬鹿らしくなるほど熱くて、俺より死にそうにない奴が何を溢すのだと頭痛がしそうだった。
現代よりも更に時を重ねた地球は、俺達が本来生きるはずだった地球よりも脆くなっている。ここから再度文明復興を果たすとしても、死だけは永遠に逃れられない。それを理解しているからこそ、コハクも最期をくれるのだろう。そんなことさえ理解してしまうから、怒ることさえ出来なかった。
吐く息は白い。生きている温さを宿したが故の色味を、この地で吐き続ける。その息に乗せて言葉を返した。
「俺が死んだら、」
「君は死なない」
有無を言わさないよう間髪入れず遮られた。凛とした声だった。弔ってほしいと望んだ声と同じ、迷いのない、いつだって信念だけを曲げずに生きている、音。
「君は死なないぞ。何故なら私達が守るからだ。君だけは最後まで生き残る」
「俺だってテメーと同じ人間だぞ。死ぬに決まってんだろ。じゃあもしテメーの言う通りだとしたら、そうしたら俺は独りか?」
離そうとした手は逆にすくわれて、強く掴まれた。俺の冷たさがコハクの熱さと混じって、中和して同じ温度になっていく。
独りは、堪える。この温ささえ分からなくなってしまう。
「独りになる。独りになるが、……君が、誰かを思い描きさえしてくれれば、ひとりじゃない」
その記憶ですべてを思い出して、愛しんで、悼んで、そうして、私達は生き残るのだ。
「……それは、狡ぃだろ」
自分でも情けない笑みだったと思う。握られた掌はそのまま、空いた片方の腕が俺の背中に回る。抱きしめられて誤魔化されるほど子供じゃなくて、ほだされて理解できるほど大人でもなかった。嘘だ。分かってしまったから笑った。狡いとのたまった。
寒空の下、二人で暖をとったって寒さは変わらない。ただ生き延びるためには必要なぬくさで、出来るならば、無くしたくない熱だった。
「千空、独りは怖いな」
「……」
「君は独りを経験しているし、皆を分け隔てなく好いている。私達は皆、君を愛するけれど独りを知らない。同じ共感は出来ないかもしれないけれど、それがひどく寂しいものであることは理解できる」
「……あ゛ぁ」
「独りは、寂しいな。……なあ、千空。君はきっと独りになっても泣かないんだろう。その強さが私はめっぽう好きだ。絶望しそうな最中にも、消えない灯火を持てるのはそう簡単なことじゃない」
コハクの言葉はいつだってまっすぐだった。自分より誰かを守ることが最優先のコイツの信念は、いつだって誰かの為に使われている。今は、俺に。
「すまない、千空。独りにするかもしれない。……その時は、恨んでくれたっていいのだ。それが生きる糧になるのなら。独りだと寂しいと、独りになる前にこぼしてくれるのなら、その辛さを今は拭うことだって出来る。君が最期に遺った時、弔えないことが悲しいが」
「さっきから俺だけが最後まで生き残る設定で話してんじゃねーぞ」
どうせなら、一緒に死んでくれ。
かすかにこぼした泣き言に、コハクは何も言わなかった。震えた背中をただ撫でられる。これは寒いから震えてんだよ、きっと、分かってくれるだろ。なあ。
それぐらいのワガママ、言わせろ。
「君は時たま、ものすごくガキだな」
「うるせぇ」
泣いてはいないかと覗きこむコハクの顔は微笑んでいた。コハクは唐突に慈しむような笑みをたたえる。普段からは考えられないような表情を見る度、この笑顔を失うのが惜しいと思う。
「それでは、どちらが弔われるか賭けるか」
史上最低な賭けだ。百億パーセントの確率で俺が負けるだろう。どう考えたって、現代の文明にあやかっていた俺のほうが生きるんだ。
不意打ちを狙ったキスは冷たかった。嘘なんかうまくつけるわけもない。一緒に死んでくれるのなら、もう何も怖くないから。今だけは、肯定してほしかった。
馬鹿だと笑うだろう。勝手に笑ってればいい。
『一緒に死んでくれ』ほどのプロポーズ、あるわけねぇだろ。
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