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らん
2018-09-24 14:52:18
3695文字
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真緒あん
あんスタ
「あーつーいー
……
しんどいー
……
」
「やめろ姫宮ー
……
あと少しの辛抱だー
……
」
ワイワイがやがや。そんな擬音が相応しいほどの賑わいを見せるハロウィンイベントを見ながら、俺と姫宮は溜息をついた。
絶大な権力を持つ分、生徒会は大きなイベント事があるたびに絶対に裏方として駆り出されることが決定している。もちろん今回のハロウィンイベントも例外ではない。生徒だけならまだしも、今回は一般客も巻き込んでの一大イベントだ。なおさら生徒会への負担は大きかった。
(学院でやるのが幸いってところだけど、その分生徒会への負担が増してるんだよなぁ)
外部に頼めば気疲れと慣れない現場への対応の代わりに余裕が生まれるが、学院内となると気疲れと不慣れさが無い代わりに余裕が消える。どうにかならんもんかね、呟いた弱音はお祭りモードにかき消された。
「とりあえず、俺はこのまま人員足りないところ回るわ。姫宮は迷子センターの応援行ってくれ」
「なんでボクが?!」
「
……
目線が一緒だから?」
「無礼だぞ!サル
……
衣更センパイだってチビのくせに!」
「無礼なのはどっちだー?ていうか、コンプレックス突くのやめろよな
……
これでも結構気にしてるんだからさ、」
痛いところを的確につかれながらも、俺はヒラリと手を振って無線から聞こえてくるヘルプコールに応えるため早歩き。
俺とは反対方向に向かった姫宮も文句を言いつつ応援に回ったようだった。与えられた仕事はちゃんとこなす奴だから、心配は最初からしてないけど。
内装のカラフルさはもちろんのこと、仮装をした人々で溢れる学院内は普段よりも色鮮やかで、なんだか見知らぬ土地に来たみたいだ。
自分はいつも通り仕事をこなしているのに、周りは俺の苦労も何も知らないようにはしゃいでいる。それを見ることが辛いか、と言われれば、どちらかといえば逆だった。だって、俺達が必死に走り回ることで、皆が不安もなく楽しめているのだから。
(だから、やめらんないんだよなぁ!)
おせっかいだとか、世話焼きだとか、苦労性だとか。もっと休めと言われることが圧倒的に多いけれど、頼られることは嬉しいし、自分の働きで一人でも笑顔になれるのなら俺だって幸せだ。
そう言えば、幼馴染である凛月は信じられないと変な顔をしていたけど。
と、そこでふと思い出したのはあんずの顔だった。あいつも俺と同じように仕事人間で、動いていないと落ち着かないタチなのだ。さすがに今日ばかりは休んでほしいんだけど、きっと仕事を探して歩き回っているのかもしれない。というか、絶対歩き回ってるだろう。
仮装している人間のほうが圧倒的に多いから、制服の女子を探すことは簡単だろう。応援に回りながらあんずの姿を探すものの、なかなか見つからない。
てっきり制服のまま過ごしていると思っていたけれど、もしかしたら仮装しているのかも。
(まあ、楽しんでほしいし。そっちのほうがいいだろうな)
一体どんな格好をしてるんだろう?マントとトンガリ帽子を被って魔女とか?安直すぎる?
猫耳としっぽで猫女とか。そこまで考えて、なんだか居た堪れなくなってきた。想像するのやめよう。意外と想像力が俺は乏しいのかもしれない。
「
……
全然思い浮かばない
……
」
「なにが?」
「あんずの仮装がどんなのか、
……
ん?」
ひとりごとに返ってきた声は確かに聞き慣れた女の子のものだった。この学院で聞き慣れた女の子の声なんて、答えはひとつしかない。
背後からの音に応えるように振り返れば、そこにはあんずが佇んでいた。
「赤ずきんだけど」
「
……
え、」
予想外に本格的な仮装をしていて、空いた口が塞がらないとはまさしく今の俺だった。
どうやら邪魔になったらしく、フードは被っていなかったけれど、目の前に居るのは確かに赤ずきんの格好をしたあんずだった。
普段履いているプリーツスカートとは違って、ふんわりとしたボリュームのあるスカートに、意外と目立つ胸元とか、ケープを被っているのに華奢な肩。瞬きもせずにじろじろと全身くまなく見たところでハッと我に返る。
「な、なんで?!」
「えーと、真緒くんが見えたから声かけちゃった。生徒会の仕事中かな?ごめんね」
「今ヘルプで回ってるだけだから平気!
……
って、そうではなく!」
「じゃあ仮装について、かな?葵兄弟にね、着てみたらって言われたから」
まあ、動きづらくはないし良いかなって。
いいんですか。わりと際どくないですか。そう思ってしまうのは、俺があんずに惚れているから、といういたって単純明快な理由かもしれないけれど。
「真緒くんは仮装してないんだね」
「え、
……
あ、お、おう。生徒会業務やってる奴らも仮装すると、客とまぎれて分かんなくなるから」
「そっか。ちょっと残念かも。真緒くんの仮装も見てみたかったなあ」
眉を下げて笑う姿は、普段と違う格好をしているせいか、いつも以上に目に毒だった。そうやって残念がられると、なんでか謝りたくなる。
「ごめんな?」
「真緒くんが謝ることじゃないよ。今日もお疲れ様です。
……
あ、そうだ」
「ん?」
「Trick or Treat」
不意打ちのようにこぼされた、ハロウィン限定の魔法の言葉。求めるように伸ばされたてのひらに乗せるモノを俺は何か持っていただろうか?
実は、制服でもたまに声をかけられるのでそれなりの数の飴玉をポケットに忍ばせていたのだ。けれど、お菓子が切れたという後輩に分けたり、子供たちに言われてあげたり、果てはスバルにも言われてあげていたせいで底をついていたような。
レザー、パーカー、ズボンのポケットを漁って、ようやく見つけた最後のひと粒をあんずの華奢なてのひらに乗せる。
「飴玉だ!ザラメがついててキラキラしてる」
「そ。おっきくてキラキラしてるほうが子供は喜ぶかなって。
……
これにしたおかげで、スバルに4個くらい貰われてんだけど
……
」
「ああ
……
キラキラ
……
」
やっほぅ☆と誰よりもキラキラとした笑顔を見せるスバルの姿を同時に思い浮かべながら、あんずと一緒に笑い合う。
大きな飴玉を早速食べようと思ったらしいあんずは透明なビニールを軽く破って、ピンクの強い赤色をしたそれを取り出した。赤ずきんにピッタリな色合いだな、なんてのんきに思っていたら、目の前のあんずが俺を呼ぶ。
「真緒くん」
「ん?」
まるで、子供のように。大きな瞳をまろやかに溶かしながら微笑んで、一歩踏み込んできたと思ったが、最後。
唇にあんずの持った飴玉が触れて、反射的に口を開いて迎え入れる。押し込むようにしていたあんずの人差し指と親指が終わりに触れて、その柔さを感じたところで指は離れていった。
なにが、なにやら。とりあえず喉に詰まらせないように飴玉を誤飲することだけは避けたけれど、心臓が煩いくらいに鳴り響く。ザラメが舌を刺激して、溶けてくると今度は飴本来の味が滲んだ。イチゴ味だ。
「ついさっきね、お菓子を置いてきちゃったの。だから口封じ」
Trick or Treatって言われたら困るから。いたずらっぽく笑う赤ずきんは随分としたたかで、赤面しながらも飴玉を転がす。ああ、なんなんだ、もう。これじゃあ一生敵わない。
「
……
あんずは、狩人が必要なさそうだよなぁ」
頬を掻きつつ本心を言えば、やっぱりあんずは笑う。頼もしそうに、楽しそうに。
「私は皆を守る赤ずきんだから」
「守れそうだけどさ、ちゃんと俺たちのこと頼ってくれよ?じゃないと狩人が泣いちゃうから」
「真緒くんが狩人さんなの?」
「そういうことにしといて」
赤ずきんに王子は登場しない。王子の代わりに登場する聡い狩人は、王子ではないからヒロインである赤ずきんと結ばれもせず、ただ見守るだけ。救っても、ただ、それだけ。
――
まるで、今の俺みたいだから。
「真緒くんは、王子様が似合うと思うけどな」
もう一度飲み込みそうになった飴玉を必死に舌に押し留めて、代わりにあんずの言葉を咀嚼する。俺が、王子?似合うって、そう言ったのだろうか。聞き間違いではないだろうか?
「じゃあ、お仕事がんばってね!」
「あ、あぁ
……
。うん、ありがとな」
聞き返すことも、そのまま問い詰めることも出来ずに、ただ去っていくあんずを見送ることしか出来なかった。
ふわりと翻るスカートに、歩く度髪と一緒に揺れるフード。赤と黒のコントラストと、ハイソックスと上履きの違和感。
「
……
甘、」
口内に充満して、鼻から抜けるのは飴独特の匂いだ。人工甘味料と申し訳程度のイチゴ味が、今は夢見心地にさせてくる。
強いヒロインだって支えてやる誰かは必要で、きっと多分、そういうこと、なんだろう。支えることは、狼にも、おばあさんにも出来ない。それは狩人の仕事だ。
(自惚れてもいいかな)
赤ずきんと狩人だって、いつかは恋に落ちると。
ずり落ちていた両腕のパーカーをまくって、生徒会役員の腕章の位置を直す。よし、なんてかけ声と共に踏み出した一歩はお祭り騒ぎと同じように弾んでいた。
END
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