らん
2018-04-15 11:16:09
1529文字
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レムリツ

ダンデビ

私は私の道を行く。人間として生きる。
そう決めた私を、レムは止めなかった。柔く笑って、ただ受け入れてくれた。さよならのキスの感触なんてほとんどなくて、それでも、私達は確かに恋をしていたのだ。
泣かないと決めたのにどうしてか涙が出て、私はひとりで嗚咽をこぼす。陽光が眩しい。ああ、こんなにも世界は美しいのだと、レム、貴方に教えられたかな。
「リツカ」
肩を叩かれて、身体が揺れた。覚醒した意識はすぐに現状を把握できるほど咄嗟に動けなくて、私はつい呼び起こしてくれた彼の名を呼ぶ。
「れむ……?」
「こんなところで居眠りなんてどうしたんだ?そろそろ完全下校時刻だ。夜道は危ない、送ろう」
ぱちぱちと数度瞬きを繰り返してようやく焦点を合わせた。レムだ。レムが居る。ついさっき私とキスをして消えてしまったはずのレムが、心配そうに私を見ている。
人の消えた自クラスの教室は暗い。レムが言うように完全下校時刻だというのなら、どうやら誰も私の眠りを覚ますことはなく、一時間以上はここで寝ていたみたい。
私はひとつあくびをこぼして、今度は腕を伸ばした。凝り固まった肩と背骨を伸ばすように上へ伸びれば、レムは既に私のカバンを持ってくれていた。
「自分で持つよ、レム。ありがとう」
「別にありがとうと言われることなどしていない」
「起こしてくれたじゃない」
「生徒会長として、下校時刻を過ごして残っている生徒を見過ごせないだけだ」
当たり前のように言っているけど、レムはきっと私を探してくれたんだろう。ここ最近の放課後はレムの下に行くことも多かったから、もしかしたら心配してくれたのかも。
なんて、自惚れが過ぎるかな?
誰も居ない校舎、二人で歩く廊下は二人の足音がうっすら響く。不思議な夢を見た後だからか、なにか喋るのも違う気がしていた。
夢の中の私達は両思いで、でも、同じ道を歩めなかった。今の私達は両思いか分からないけれど、同じ道を歩いている。どっちが幸せなんだろう?
もし夢の中と同じようにレムに選択を迫られたら、私は全く同じ結論を出すだろう。だったら、本当はこうして隣を歩いているのも悪いことなのかもしれない。どうせ終わるのならば、始まらせなければいいのかもしれない。
「ねえ、レム」
――そんなの、無理よ。
「手を貸してもらえない?」
「手を?」
「うん。暗くてちょっと足元が覚束ないから、貸してほしいなって」
階建に差し掛かった段階で言ったから、そんなに違和感もないかな。見えているのにこんな嘘をつくなんてズルいかな。それでも、あの夢が現実になってしまうなら、私は今、貴方の温もりを知っておきたい。
かき消える幻影に思いを馳せることがないように、確かに今存在しているレムを感じたかった。
なんの躊躇いもなく伸びてきたレムの掌に私の手を重ねた。まるでお姫様みたいに扱われるから、少しこそばゆい。私、お姫様なんかじゃないのに。
「ありがと、レム 」
乗せていただけの掌が包まれる。まるで恋人みたいだね。言えないけれど、確かにそこには私達の温もりがあった。
あの夢が本当になってしまう日が来るまでは、どうか、神様。私はこの人の隣に居てもいいですか?別れで傷つくことはないと、信じていてもいいでしょうか。だって、夢の中とはいえ、あの選択は私が決めたのだ。後悔なんてしないはずだから。
「今日のリツカは少しおかしくないか」
「おかしくないわよ、……ただ、夢を見てただけ」
訳が分からない、そんな声が聞こえてきそうなほどきょとりと不思議な顔をしているレムがおかしくて、ついつい笑ってしまう。この瞬間さえ愛しくて、永遠に階段が続いてもいいな、と思ったことも内緒にしておこう。