らん
2018-04-10 00:46:03
1485文字
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モモチとカノジョ。

ディアヴォ

確かに昨夜抱いて寝たはずのカノジョの温もりが、シーツの海で腕を藻掻いても見つからなかった。それをきっかけにオレの目蓋はかったるくも開いて、今度は目で視認しようとしても映るのはさざ波だったシーツの皺だけ。
……なんなの、もう」
前にもカノジョには伝えたことがどうやらいまだに理解されていないらしい。
オレが起きるまで起きないで。オレが寝るまでには寝ていて。
関白宣言じゃあ真逆のことをのたまっていたけれど、あんなの怖すぎてどうにもならない。オレより先にカノジョが起きて、抜け出したもぬけの殻のシーツは心許ないし 、オレより後にカノジョが寝るとしたら、それはオレの腕の中にカノジョを閉じ込められない。寝顔が見れない。オレに泣かされ疲れ果てた、夢さえ見れないほど深く眠る、あの寝顔。
起きたとき一番に映すのはオレが良い。そして、それはオレだって同じだ。
居なくならないことを告げるように、オレの腕の中で目覚める様を見たかった。この子は此処に居るのだという確信が欲しかった。
だから、オレはカノジョに「朝は何もしなくていい」と伝えたはずなのだ。どうやらそんなちっぽけな事すらカノジョは守れないらしい。
腕の力でどうにか上半身を起こすと、スウェットのズボンを探す。脱ぎ捨てられていたソレは変な風に捻れていて、もう履かなくていいかと伸びたロングTシャツの裾を引っ張った。
どうせ、カノジョはキッチンにいる。多分きっと、オレのために朝食を作っている。朝はほとんど食べないオレでも大丈夫なようにと、スープを出してくるんだろう。ああ、そんなの要らないのに。どうしてオレの言う事が聞けないんだろう?余計な事だって思わないんだろう。
ふわりと漂ってきたコンソメの匂いで苛立つ。欲しいのはスープじゃない。朝食なんて食べる気にもならない。
オレが欲しいのは、オレの理想通りに、オレの腕の中で眠っているカノジョだ。
なのに、カノジョはいつだってオレの理想通りになってくれない。どんな女でもいつだってオレの理想通りになったのに、カノジョだけはどこか道を外れていく。
今だってそう。オレの眠るこの部屋がカノジョの寝室になってから随分経ったというのに、オレより先に目覚めてしまう。王子様のキスなんて必要ないと、オレが望まない限りオレを頼りもしない。
こんなにも近くに居るのに、どうしてアンタが傍に居ないように思えるんだろう。
好きだと伝える度はにかむ顔も、痛みを刻めば歪む顔も、オレに縋る顔も、オレを労る生意気な顔も、全部見てきたのに、まだ、足りない。
のそりと足の裏をフローリングに接地させれば、オレの身体は重力にともなって立ち上がる。ふらりと揺れた身体の怠さは昨日の名残か、それとも、朝から思い通りにいかない憂鬱か。
扉を開く。柔い陽光が寝起きの眼に毒みたいに突き刺さって、たまらずに目を細める中、キッチンから顔を覗かせたカノジョはひかりを浴びて笑っていた。まるで聖母を描いた絵画みたいに優しく見えた。なんてね、今すぐその顔をぐちゃぐちゃに歪ませて、オレの事だけ考えろよ。オレの思い通りに、オレの事だけ愛してよ。
「おはよう、モモチくん」
その言葉はオレの腕の中で言うものだから、遮るように下唇を噛んでやる。そのまま塞ぐように唇同士を重ねれば、あとは思いのまま。
スープが鍋から零れるまで、やめてなんかやんないよ。ぜんぶアンタが悪いんだよ。
オレの事だけ考えるなら、ただ、オレの横で眠っててよ。
お姫様になんかしてやらないけど、王子様じゃないオレにも目覚めさせられるのはアンタだけなんだから。