らん
2018-03-24 21:13:32
1793文字
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タナトスナイト セス


一体どこで間違えたんだろう。
一体どこから掛け違えていて、一体どこからオレは、この結末を迎えなければいけなかったんだろう?
抱きしめた亡骸は重くて、段々と冷えていくものが嘘だと思いたかった。
目を閉じて、そう願ったオレに素直に応じて、コイツはゆっくりと目蓋を下ろした。きっとコイツは神様に願ったんだろう。だってオレが言ったんだ。願ったんだ。本当に想って歌えば、人間と堕天使でも神様に認めてもらえるって。
オレが、願ったんだ。神様に捨てられた、堕天使のオレが。
だから、コイツも願ってくれたんだろう。偽りの記憶を植えたオレを許してくれる優しいコイツは、オレのことを信じたのだ。嘘だなんて、きっと夢にも思わなかったんだろうな。
堕天使として生きてきてもう何年だとか、そんなことを考えるのはとうの昔に止めているけれど、オレはずっと他人の記憶を操作して、嘘をつくことで殺してきていたし、それが習慣として染み付いている。
「オレを愛してほしい」
博愛主義者の神様にさえ見放されたオレのお願いは一度も届いたことがない。だって、神様ですら愛してくれないんだから。
記憶を操作すれば、偽りのオレはいくらだって愛してもらえた。それだけで癒やされはしたけれど、ふとした時に鎌首をもたげる虚無感は拭えなかった。だって、オレ自身を愛してもらえていないんだから。
そうして虚無感を感じてはもう止めてしまおうと人を殺して、今日まで生きてきた。だって、オレは堕天使だから。
この子だってそうだった。記憶を植えて、偽りのオレを幼馴染として愛してもらって、偽りの癒やしを貰おうとしただけだった。なのに、愛してしまった。好きになってしまった。
堕天使として生きてきてもう何年だろうか。そんなの考えるのはやめてしまったけれど、はじめての感情だった。
好きで、好きで、好きで、幼馴染という記憶だけじゃ満足できなくなった。出来ることなら、人間として愛してほしくなって、この子が死にたいと思う直前まで一緒にいたくなった。
タイムリミットは死にたいとこの子が願う前まで。だって、オレの翼が見えたら、オレが殺さなきゃならないでしょ。
何度も自分に言い聞かせて、その上で愛した。好きだと伝えた。愛してほしかったから植えた記憶が、はじめて虚しくなかった。オレがこの子を愛してもいい免罪符みたいだった。
幸せだった。大好きだった。愛してた。同じだけの気持ちを持っていた。触れ合うたびに照れて笑う顔が好きだった。ヤキモチを焼く顔も、楽しさに溢れた顔も、怒って泣く顔も、好きだと、オレに与えてくれたもの、全部が宝物だった。
堕天使じゃなければよかった。神様に認められていれば良かった。愛してもらえていれば、オレは、今この子を殺さなくても良かったのかなあ。
オレの涙がぼたぼたと亡骸を濡らしていく。この水分全部使って干からびないでくれないかな。この涙で蘇ってくれないかな、なあ、神様。オレを見放した神様。
どうしてこの子が、死ななければならないのですか?
愛されたいと願ったオレが悪いのだろうか。いや、きっと違うんだろう。
オレが愛したから、この子は死んだのだ。
「どうして、」
一体どこで間違えたんだろう。そんなの分かってる。オレがこの子を択んで記憶を操作した時から。
一体どこで掛け違えてしまったんだろう。そんなの知ってる。オレが告白した時、オレを選んでしまったから。
一体どこからオレは、なんて、オレが堕天使だからこの結末になったんだよ。
閉じた目蓋の裏側で、オマエはオレを思い描いてくれたかな。そうだといいな。神様じゃなくて、オレを想ってくれていたらいいな。
堕天使は死ねない。これからも嘘をついて、記憶を操作して生きていくだけ。
ねえ、神様。墜とすなら、オレから愛する心さえも奪ってくれれば良かったのに。愛されることだけを願う子供で良かった。愛を求めるだけの卑しい存在で良かった。
願っても戻ってこない温もりが通っていた掌に触れる。ついさっきまでオレを愛してくれた心臓のある胸に耳を寄せる。好きだと伝えてくれた唇の輪郭をなぞる。
「オマエからキスしてもらえなかったなあ」
やまない涙が枯れるには、どれくらいの時間が必要なんだろう。嘘つきの涙なんて、笑っちゃうよなあ。
愛してしまったことが罪なのなら、もう一度、今すぐ断罪してくれよ