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らん
2018-02-05 23:06:16
1840文字
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姫宮桃李。
あんステ見てたら…はあ…
生きるために必要なこと。愛嬌、おべっか、頭の回転率の速さ、顔の良さ、他人の顔色を伺うこと、その他もろもろ。
何が一番大切かは、パパは愛だというし、ママも愛だと言ったから、ボクは愛し愛されるために生きるために必要なことを全てこなしてみせた。
周りよりいくぶんか足りない身長はこれから伸びるし、ボクはまだ変声期を迎えていないこともあってこのままでも良かった。良かったのに、生まれてはじめて、すべてを恨んだ。
「全然良くなんかないよッ!」
fineが負けた。
実力差は申し分ないほどボク達が勝っていたのに、負けた。英智様が負けを認めた。まるで最初から分かってたみたいに、英智様は泣きそうな顔で笑った。
その笑顔は、敗者の屈辱を知っているものだった。
ボクが唯一知らない、生きるために必要なこと、負けること。その味を知っている顔だった。
英智様の完全無欠が壊れる事がどうしても許せなかった。勝者たれ、敗者の苦悩は無用。弱者の味方でありながら、弱者と並ぶことは断絶されるべきで、辱めだと学んでいたボクにとって、Trickstarという星はあまりにも異質な存在だった。
「ねえ弓弦、ボクが居るからfineは負けたの?」
英智様が憎きTrickstarのオレンジ頭と肩を組んで笑いながら歌っている。もう体力の限界に近い英智様を支えながら、歌っている。
ボクがアイツくらいに大きければ支えられた?ボクが今よりもっと綺麗に歌えたら勝てた?
はじめて自分の容姿を恨んだ。声を憎んだ。蝶よ花よと愛でられ、愛した人々に裏切られた気分なのだと、はじめて負けの味を知った。敗者の味は、随分と苦くてしょっぱいらしい。
言葉を失った弓弦に代わって、なぜか裏切り者がボクに言う。仮面を外した先輩はどうしてか、とても清々しそうに見えてムカついた。
「姫君、悪は倒されるべきものだと古くから伝え聞いているでしょう?」
「ボク達は悪じゃない」
「ええ、私達は悪ではありません。けれど、今回の物語においては悪だったのですよ」
「オマエの悲喜劇論に興味なんかない!負けたんだよ?!悔しくないの?!納得なんて出来ない!どうして?!英智様の楽園が、英智様の造ったこの世界が、間違いだったって言うの?!」
誰にだって間違いはある。けれど、ボク達は間違いを許されない世界で生きてきた。間違いは凡人のみに許された特権だ。ボク達貴族に間違いは存在すらしない。
間違ってなんかないはずだ。英智様の完全無欠なこの世界に憧れたボクですら間違いだったのだと言うのだろうか。この祝福は、誰に与えられた神の加護だと言うのか。Trickstarが正義でボク達が悪だったと世論は言うのだろうか。ボクにとって、悪なのはアイツらなのに。
「姫君も、もう気づいているのでしょう?」
二元論に意味はない。誰かが間違いだということも、誰かにとっては正になる。分かってる。知っている。白も黒になる世界で生きてきたボク達にとって、それは常識だ。
それでも、負けたんだよ。覆せないんだよ。今回ばかりは、白は白のままなのだ。
「
……
っ、ぅ、あ、
……
ぅああ」
弓弦の背中に縋り付いて泣いた。涙は見せないものだと学んできたから。英智様はステージ上で泣かない。だから、ボクもスポットライトの下では泣かない。そう決めている。そう決めたのに、ああ、どうして、
暗がりの中で見える純白の衣装はほんのり黒く見えた。負けた。負けたのだ。負けたけど、笑うのだ。笑わなくてはならない。これは、「アイドル」として生きるために必要なこと。
30秒だけ泣いて、最大の笑顔をつくる。アイドルとしての姫宮桃李は姫君でなければならない。それが愛されるために求められていること。今のボクの実力。認めよう、ボクの実力が足りなかったのだ。だから、負けたのだ。
そう思わないと、立ち続けていられない。
「行ってくる」
皆が歌う輪に加わることはとても嫌だった。敗者に与えられる屈辱を噛みしめることになるから。それでも、加わった。笑った。歌った。それがアイドルだから。
ボクにとってはじめての敗戦は、笑顔に溢れた屈辱だった。
「あの英智がたったひとつだけ絆された、たったひとつの希望が、貴方なのですよ?姫君」
知らないまま、どうか輝いてほしい。どうか、これからも、天使のままで。
祈りは届かないかもしれないけれど、望まれた敗北に膝を折る屈辱を飲み込み笑う桃李の背中は、強者故の誇りと意地に満ちていた。
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