らん
2017-12-28 09:50:47
2489文字
Public
 

シエルとカノジョ。

ディアヴォ

「ま、待って、シエル」
起毛素材の部屋着の裾から侵入してきた彼の手首を掴み、カノジョは今にも溺れそうなキスを中断させた。止められた本人はといえば、つい今しがたまで受け入れていたカノジョの唐突な変わりように、表情は動かさないものの少し首を傾げる。
「俺が待つとでも?」
「せめて、あの、お風呂に……
「お前、今日家から出ずに映画見てたなら特に汗や匂いもついてないだろ」
「き、気持ちの問題……というか……
「へえ、どういう問題なのか詳しく聞かせてもらおうか」
絶対逃しはしてくれないのだと、ありありと分かる笑みを浮かべるシエルに対し、それでもカノジョはなおも抵抗を試みる。
というのも、カノジョには今どうしても見られたくないものがあった。
(今日はずっと家にいたし、シエルも来ないと思ってたから……
カノジョは大体シエルのオフと自分のオフを被るように取っていたのだが、今日のオフはシエルが急遽仕事になったと前日に連絡を受けた。そのため、カノジョはレンタルビデオ店で数枚のDVDを借り、自宅に引きこもり一人鑑賞会をしていたのだ。夜になりスマートフォンに入ったシエルからの連絡を受け、仕事を終えた彼がカノジョの自宅に来ることになった。
快く自宅に受け入れ、二人でコーヒーを飲みながら最後のDVDを観る。終わった後互いの感想を語りながらそういう雰囲気になるのは定番のことで、カノジョはシエルから降ってきたキスに酔いしれた。そこまでは、良かった。
つ、と皺が寄りちらりと見えた素肌を指でなぞられ、たまらずに息が漏れる。それを合図に横抱きにされ寝室に連れ込まれると、後は流れのままーーといったところで、カノジョは思い出してしまった。
(今、下着の上下、揃ってない……!)
しかも、そんなに可愛くないブラジャーをつけている。
てこでもそれを悟られたくなく、カノジョはベッドに移動してからずっとこの有様だ。ベッドに倒れることも拒み、端で互いに上半身を起こしたまま必死の攻防を繰り広げていた。
「お風呂入りたい」
「なぜ?」
……なんと、なく、」
「却下」
「シエル、お願い」
「いくら可愛い顔でねだっても、本当ならデートだったのに仕事を片して疲れて帰ってきた俺のお願いのほうが優先順位が高くなると思わないか?」
「今日デートだったのに仕事優先していいよって言った私の健気さに免じてお願い聞いてくれてもいいと思うの!」
「言うようになったな、」
感心するなら今すぐ解放してほしいところだが、そこでスイッチが入ったのか、シエルはカノジョの髪を払い耳たぶを舐めた。突然の刺激に思わず彼の手首を握っていた力が弱まると、自由を得たシエルがカノジョの上着に手をかけ、勢いよく引き上げる。
ほぼ強制的にバンザイをさせられた形で上着が剥ぎ取られ、カノジョは思わず叫び声をあげた。
……何がそんなに嫌なんだ」
さすがに、ここまで拒否をされると少しは気分が下がる。嫌がられているわけではないと分かっているが、抵抗する理由は考えつかず、シエルは剥ぎ取った上着を床に落としながら胸を隠しているカノジョに詰め寄った。
「嫌、……ではないの……
「じゃあ何故?」
聞けば黙ったカノジョの部屋着のズボンのゴムに手をかける。無理矢理押し倒して引き抜くことは容易いが、合意の上で付き合っているというのに強姦まがいのことをする気はなかった。グ、とズボンを下げようとするポーズを見せれば、なぜか赤面したカノジョと目があう。
「笑わない?」
「笑うような内容なのか?」
「幻滅しない?」
「俺の『好き』を軽んじすぎだろう、お前 」
全部見せておいて今更何をのたまうのか。それでも躊躇う重大なことがあるらしく、シエルはカノジョが話し出すのを待った。
……揃って、なくて、」
……ハ?」
「だから、あの、……ッ今日シエルと会わないと思ってたし、ずっとお家にいたし、それで、その、……下着が、上下揃ってないの!」
半ばからヤケクソのごとく顔を真っ赤にして暴露するカノジョに、シエルは数秒ポカンとした後、堪えきれずに吹き出した。必死に声は抑えるものの肩の震えが止まらず、目の前でカノジョがやっぱり笑った!と怒っている。
「だから笑わない?って聞いたのに!」
「い、いや、すまない。ふ、っ……
笑いが止まらないシエルに痺れを切らし、カノジョはのしかかってきている彼の胸板を叩いた。ようやく笑いが収まったシエルは、仕切り直しと機嫌直しのためにカノジョの唇にキスを落とす。
「そんな理由で安心した」
「そんな、じゃないよ、重要な理由です!だからお風呂入らせて、それで下着揃えてくるから」
「すまないが、それには応えられない」
今度こそカノジョをベッドに押し倒し、シエルはズボンのゴムに今一度手をかけた。意図を察したカノジョが両手を使ってシエルの手を止めようと動いた時には既に遅く、カノジョの脚から起毛素材のズボンがスルリと抜けていく。突如襲う肌寒さに膝を合わせるものの、カノジョは意地悪、と今日ばかりは叫んだ。
シエルの眼前に曝け出されたカノジョの下着姿はなるほど確かに上下が揃っておらず、普段見慣れていた上下セットの下着とは違い、いかにも自宅用、といった装いだ。まだ知らない姿があったのかと少しだけ悔しくなりながらも、同時に曝け出された無防備さに興奮を煽られる。
「俺はこの状態で待てが出来るほどイイコじゃないので」
何か言いたげなカノジョに覆い被さり、今度こそ抵抗なんて一片たりともさせないと問答無用で暴いていく。
下着は確かに女性にとってはファッションのひとつでもあるし、それは理解しているつもりだ。カノジョが自分のために常日頃から気を遣ってくれていたことも今の状況をもってすれば容易に理解できる。その気持ちはとても嬉しいし、愛しい。
でも、今はそんなことよりもカノジョが欲しかった。
「次会う時はブルーが良い」
……シエルのせいでブルーばっかりです」
今日は随分と反抗的な姫の胸元に、シエルはキスマークを落とした。