らん
2017-11-29 23:42:43
1126文字
Public
 

ジュダとカノジョ。

ディアヴォ

「あーー……
目の前がチカチカと眩しくなるのはパソコンを見つめ続けた弊害だ。リクライニングチェアの背にもたれ、凝り固まった肩をほぐすように回せば音が鳴る。
もういつから寝ていないのか思い出せないほど今回の製作は行き詰まっていて、深く息を吐いた。少しだけ気分転換でもしないとやってられない。
パソコンの近くに置いていたスマートフォンを取り、ロック画面をスライドさせてダイヤルを開く。タクシー会社の発信履歴のすぐ下に表示された番号はカノジョのもので、オレは躊躇いもなく発信ボタンを押した。
疲れてどうしようもないとき、オレからは滅多にしない電話を鳴らす。3コールだけの、小さなレスキューだ。出なければソレでお終い、出たらたった一言を囁く。時間はお構いなしの、本当にただのオレのワガママ。
1コール、2コール、3コール目でガサリと回線の繋がったノイズが走って、カノジョの声がオレの耳朶を打った。
「ジュダ、どうしたの?」
寝起きの声だ。よくよく時間を見れば午前4時、起きるには早すぎる。よく起きたなと変に感心したけれど、お構いなしにオレはいつも通りの言葉を吐いた。
「なんか話して」
行き詰まって、苦しくて、それでもカノジョに会えないとき、オレはその時だけ自分からカノジョにコールする。カノジョの声でオレの話を聞いて、カノジョの音でオレを知る。
いつの間にかこびりついた変な習慣のひとつだ。カノジョが気付かなかった時は諦めがつくのに、こうして少しでも声を聞くだけでどうしようもないほどカノジョが欲しくなる。会えない時の妥協案のひとつで、今日もそれが敢行されただけ。
「お仕事終わらないの?」
「ん、」
「そっかあ、ジュダの新しい曲はやく聴きたいな」
「明後日締切」
「じゃあもうすぐ聴けるね!楽しみ。……ごはん食べた?食べてなさそう終わったらホットケーキ作るね」
「ん、なんなら明後日家来い」
「あさって……うん……
段々小さくなっていく声に、もしかしなくても寝ぼけ始めていることが分かる。もう無理そうだと苦笑して、オレはおやすみとだけ言い落とした。
「明後日、絶対来いよ」
「うん、……あ、まって、ジュダ」
「ナニ」
「おしごとがんばってね、」
大好き。
おやすみなさいも無しにスマホのスピーカーからは寝息が聞こえ始めた。どうやら相当眠かったらしい。
こっちから通話を終了させると、定位置にスマホを放ってもう一度肩をほぐす。
「2徹確定したし、」
でも、明後日がある。それだけで頑張れる。なによりも、大好きな「大好き」を貰ってしまったから「出来ない」はありえなかった。
向かい合ったパソコンに映し出されたメロディ達は、さっきよりも輝いて見えた。